暮らしと名画

同じ椅子が、二脚並んでいる——ダンカン・ファイフ父子商会ほか九脚

番号の枝が、三段になる

サイドチェア
ハーター兄弟商会《サイドチェア》1879年。館の記録では、ローズウッド、真鍮、螺鈿、張り地は復元。寸法の欄は縦36.8センチ、横49.5センチ、奥行き111.8センチとする。番号は2014.530.1.1。アメリカ。メトロポリタン美術館蔵。ハーター兄弟商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

番号が、三段になっている。

二〇一四・五三〇の一の一。

受入番号のあとに、二つの枝が続く。

これは、一つの受入のなかに、いくつかのまとまりがあることを示している。

たとえば、家具の一式があり、そのなかの椅子の一脚目。

そういう構造だろう。

寸法の欄には、三つの数字がある。

ただし、順序が他の八点と違う。

三六・八センチ、四九・五センチ、一一一・八センチ。

最後の数字がいちばん大きい。

他の椅子では、最初の数字が高さだった。

この一点では、最後が高さらしい。

記入の順序が、そろっていない。

画像を見ると、背もたれの高い椅子である。

上部に、細かい格子の彫りがある。

背もたれの中央に、木を象嵌した板がある。

そこに、星の形と、細い線の模様。

座面は、緑の織物である。

脚は細く、旋盤で削られている。

一脚だけの椅子

サイドチェア
ハーター兄弟商会《サイドチェア》1870年ごろ。館の記録では、金箔を置いた木、張り地は復元。高さ92.7センチ、幅43.2センチ、奥行き43.2センチ。番号は2012.217.2。メトロポリタン美術館蔵。ハーター兄弟商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

金色の椅子である。

木の全体に、金箔が置かれている。

背もたれの上部に、彫りの飾りがある。

中央に、青い楕円の板が嵌まっている。

その上下にも、彫りの装飾。

座面は、水色の織物である。

脚は、細く、まっすぐで、溝が彫られている。

番号は、二〇一二・二一七の二。

枝番の二である。

一があったはずだが、当サイトには無い。

つまり、この一脚は組の片方である。

前の回に見た《夫》と題された肖像と、同じ状況である。

もう一方が、ここにない。

サイドチェア
ウィリアム・サヴァリー《サイドチェア》1745年ごろ。館の記録では、楓、藺草。高さ91.4センチ、幅53.3センチ、奥行き45.7センチ。番号は1994.410。枝番がない。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・サヴァリー《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

九点でいちばん古い椅子である。

一七四五年ごろ。

そして、いちばん簡素である。

背もたれの中央に、瓶のような形の板がある。

上の横木は、なだらかな山形。

座面は、藺草を編んだものである。

布を張っていない。

脚は、前の二本が曲線を描いている。

膝のあたりが張り出し、足首で細くなり、先が丸く広がる。

そして、番号に枝がない。

一九九四・四一〇。

それだけである。

つまり、一脚だけで受け入れられている。

張り地は、たいてい新しい

九点の技法の欄には、布についての語が必ず入っている。

張り地は復元。張り地は交換されたもの。

張り地は現代のもので、下張りは当初のものが残る。

つまり、座面の布は古いものではない。

布は、木より早く傷む。

擦れ、破れ、色が褪せる。

百五十年前の布が残っていることは、まずない。

だから、張り替える。

そして、館は張り替えたことを記録する。

いま見えている赤や緑の模様は、後から選ばれた布である。

もとの布がどういう色だったかは、分からないことが多い。

もっとも、手がかりが残ることはある。

デソワールの一脚では、下張りが当初のものだと書かれている。

下張りは、表の布の下にあるので、傷みにくい。

そこに、もとの布の切れ端が残っていることもある。

それを手がかりに、表の布を選び直す。

前の回に見た甲冑でも、失われた部品が新しく作られていた。

そして、そのことが記録に書かれていた。

家具の張り地も同じである。

補ったことを隠さない。

九点とも、技法の欄でそれを申告している。

木の名が、二種類書かれる

技法の欄には、木の名も並んでいる。

ローズウッド。サテンウッド。パープルハート。楓。栗。トネリコ。

そして、いくつかには「副材」という語が付いている。

副材とは、見えない部分に使う木のことである。

椅子の座面の枠や、内側の補強に使う。

そこには、安い木を使う。

見える部分には、高い木を使う。

ローズウッドやサテンウッドは、輸入された高価な木である。

トネリコや栗は、身近な木である。

つまり、一脚の椅子のなかで、木が使い分けられている。

そして、館の記録はその使い分けを書き分けている。

見える木と、見えない木。

前の回に見た屏風でも、表と裏で材料が違っていた。

表に金、裏には金を使わない。

見える面に費用をかけるという考え方は、分野を越えて共通している。

そして記録は、その差を残す。

薄板を貼る、という技法

ローズウッドについては、もう一つの語がある。

「ローズウッドとその薄板」。

薄板とは、薄く削った木を表面に貼るものである。

無垢の材で全部を作るのではない。

安い木の上に、高い木の薄板を貼る。

そうすれば、見た目は高い木になり、費用は抑えられる。

ファイフ父子商会の二脚に、この語がある。

つまり、この椅子は表面だけがローズウッドである。

十九世紀の家具では、広く行われた方法である。

そして、薄板は剥がれやすい。

湿度や熱で、下の木から浮く。

だから、修理の対象になりやすい。

館の記録には、修理のことまでは書かれていない。

書かれているのは、材料の構成だけである。

それでも、材料が分かれば、どこが傷みやすいかも分かる。