番号が、一つ違いで並んでいる——ベンティヴォリオ夫妻ほか対の肖像

黒い衣の女性が、こちらを向いている。
襟元に白いレース、胸に金の飾り。
左手に、白い花瓶を持っている。
その花瓶に、桃色と黄色の花が挿してある。
右に、赤い垂れ幕と房飾り。
背後の左に、格子の入った窓。
膝の上に、模様のある布が掛かっている。
寸法を比べてみる。
七七センチと七六・七センチ。
六一センチと六一・二センチ。
差は数ミリである。
額の縦も、どちらも八九・五センチ。
完全にそろっている。
姓も同じで、番号も一つ違い。
そして、二人とも同じように正面を向いている。
真横の肖像とは違い、向きで対を示してはいない。
かわりに、背景の作りが対応している。
一方に灰色の柱と緑の幕、他方に赤い幕と窓。
左右で、要素が入れ替わっている。
大きな対

青い軍服の男性が、椅子に腰かけている。
膝を組み、右手に細い剣を持っている。
白い脚衣と、白い靴下、黒い靴。
机の上に、黒い帽子が置かれている。
そして、背後の右に窓のような枠がある。
その中に、戦いの場面が描かれている。
小さな人馬が並び、旗が立ち、煙が上がる。
肖像の中に、別の絵が入っている形である。

こちらは、女性が椅子に腰かけている。
大きな帽子をかぶり、薄い布の衣を着ている。
胸元に桃色のリボン。
手に、扇を持っている。
そして、背後の右に本棚がある。
段に本が並び、机の上にも本が置かれている。
左右に、大きな垂れ幕が寄せられている。
二点の寸法は、縦一三九センチと一三九・一センチ。
横は、どちらも一二一・七センチ。
額の寸法は、縦横とも完全に一致している。
九点のなかで、いちばん大きな対である。
そして、背後の作りが対応している。
一方に戦場、他方に書棚。
外の世界と、家の中。
二枚を並べると、その対比が見えてくる。
片方だけが残る
最後の一点は、事情が違う。

題は《夫》である。
人名ではない。
役割の名だけが、題になっている。
これは、誰の肖像か分からないということである。
分からないが、夫として描かれたことは分かる。
なぜかといえば、対の相手がいたからだろう。
《妻》と題された一点が、どこかにあったはずである。
いま、館の記録にその一点は見当たらない。
近い番号に《娘》と題された一点はある。
しかし《妻》はない。
三人の家族の肖像のうち、二人ぶんが残ったということかもしれない。
あるいは、はじめから夫と娘だけだったのかもしれない。
記録には書かれていないので、断定はできない。
画面には、黒い上着の男性がいる。
白い襟が高く立ち、黒い襟巻を巻いている。
顔は正面を向き、髪は左右に分けられている。
背景は、暗い茶色である。
寸法は、縦三六・四センチ、横二六センチ。
九点でいちばん小さい。
技法は、布ではなく厚紙である。
安価な作りである。
作者の欄に、流派の名が入る
この一点の作者の欄には、個人名がない。
「プライア=ハンブリン派」とある。
二人の画家の名を組み合わせた、流派の呼び名である。
同じような作りの肖像を描いた人たちを、まとめてこう呼ぶ。
前の回に見た「散逸した写本の画家」と、考え方は似ている。
名が分からないとき、別の手がかりから呼び名を作る。
一方は本の名から、他方は流派の名から。
いずれも、個人の名ではない。
そして、この呼び名は分類のための道具である。
同じ手つきの作品を、まとめて扱えるようにする。
額の寸法まで、記録されている
この館の記録には、額を含めた寸法が入っている。
九点すべてではない。
八点に額の数字があり、一点には無い。
無いのは、レンブラントの男性の一点である。
なぜ無いのかは、記録から分からない。
額が付いていないのかもしれないし、測っていないだけかもしれない。
額の寸法が書かれていると、いくつかのことが読める。
一つは、額の幅である。
ベンティヴォリオの夫の一点は、絵が縦五四センチ、額を含めて八三・八二センチ。
差は二九・八二センチである。
上下に分ければ、一辺あたり約十五センチ。
かなり太い額である。
チャンドラーの二点では、絵が一三九センチ、額を含めて一五五・六センチ。
差は一六・六センチ。
一辺あたり八センチほどである。
絵が大きいわりに、額は細い。
もう一つ読めるのは、厚さである。
額の数字には、三つ目の値が入っている。
一二・七センチ。一三・三四センチ。五センチ。五・三センチ。三・一センチ。
古い板絵の額ほど、厚い。
十五世紀の板絵は、そもそも板が厚い。
十九世紀の厚紙の一点は、額も三センチほどで済んでいる。
寸法の欄の三つ目の数字は、そういうことも教えてくれる。