作品を知る

番号が、一つ違いで並んでいる——ベンティヴォリオ夫妻ほか対の肖像

イライザ・ウェルチ・ストーン
トマス・スキナー《イライザ・ウェルチ・ストーン》1845年ごろ。館の記録では、布に油彩。全体で縦76.7センチ、横61.2センチ。額を含めると縦89.5センチ、横72センチ。番号は1953.5.56。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。トマス・スキナー《イライザ・ウェルチ・ストーン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

黒い衣の女性が、こちらを向いている。

襟元に白いレース、胸に金の飾り。

左手に、白い花瓶を持っている。

その花瓶に、桃色と黄色の花が挿してある。

右に、赤い垂れ幕と房飾り。

背後の左に、格子の入った窓。

膝の上に、模様のある布が掛かっている。

寸法を比べてみる。

七七センチと七六・七センチ。

六一センチと六一・二センチ。

差は数ミリである。

額の縦も、どちらも八九・五センチ。

完全にそろっている。

姓も同じで、番号も一つ違い。

そして、二人とも同じように正面を向いている。

真横の肖像とは違い、向きで対を示してはいない。

かわりに、背景の作りが対応している。

一方に灰色の柱と緑の幕、他方に赤い幕と窓。

左右で、要素が入れ替わっている。

大きな対

サミュエル・チャンドラー大尉
ウィンスロップ・チャンドラー《サミュエル・チャンドラー大尉》1780年ごろ。館の記録では、布に油彩。全体で縦139センチ、横121.7センチ。額を含めると縦155.6センチ、横137.8センチ。番号は1964.23.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロップ・チャンドラー《サミュエル・チャンドラー大尉》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

青い軍服の男性が、椅子に腰かけている。

膝を組み、右手に細い剣を持っている。

白い脚衣と、白い靴下、黒い靴。

机の上に、黒い帽子が置かれている。

そして、背後の右に窓のような枠がある。

その中に、戦いの場面が描かれている。

小さな人馬が並び、旗が立ち、煙が上がる。

肖像の中に、別の絵が入っている形である。

サミュエル・チャンドラー夫人
ウィンスロップ・チャンドラー《サミュエル・チャンドラー夫人》1780年ごろ。館の記録では、布に油彩。全体で縦139.1センチ、横121.7センチ。額を含めると縦155.6センチ、横137.8センチ。番号は1964.23.2。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ウィンスロップ・チャンドラー《サミュエル・チャンドラー夫人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

こちらは、女性が椅子に腰かけている。

大きな帽子をかぶり、薄い布の衣を着ている。

胸元に桃色のリボン。

手に、扇を持っている。

そして、背後の右に本棚がある。

段に本が並び、机の上にも本が置かれている。

左右に、大きな垂れ幕が寄せられている。

二点の寸法は、縦一三九センチと一三九・一センチ。

横は、どちらも一二一・七センチ。

額の寸法は、縦横とも完全に一致している。

九点のなかで、いちばん大きな対である。

そして、背後の作りが対応している。

一方に戦場、他方に書棚。

外の世界と、家の中。

二枚を並べると、その対比が見えてくる。

片方だけが残る

最後の一点は、事情が違う。

夫
プライア=ハンブリン派《夫》1845年ごろ。館の記録では、厚紙に油彩。全体で縦36.4センチ、横26センチ。額を含めると縦51.4センチ、横41.2センチ。作者の欄には、個人名ではなく流派の名が入る。番号は1953.5.42。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。プライア=ハンブリン派《》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

題は《夫》である。

人名ではない。

役割の名だけが、題になっている。

これは、誰の肖像か分からないということである。

分からないが、夫として描かれたことは分かる。

なぜかといえば、対の相手がいたからだろう。

《妻》と題された一点が、どこかにあったはずである。

いま、館の記録にその一点は見当たらない。

近い番号に《娘》と題された一点はある。

しかし《妻》はない。

三人の家族の肖像のうち、二人ぶんが残ったということかもしれない。

あるいは、はじめから夫と娘だけだったのかもしれない。

記録には書かれていないので、断定はできない。

画面には、黒い上着の男性がいる。

白い襟が高く立ち、黒い襟巻を巻いている。

顔は正面を向き、髪は左右に分けられている。

背景は、暗い茶色である。

寸法は、縦三六・四センチ、横二六センチ。

九点でいちばん小さい。

技法は、布ではなく厚紙である。

安価な作りである。

作者の欄に、流派の名が入る

この一点の作者の欄には、個人名がない。

「プライア=ハンブリン派」とある。

二人の画家の名を組み合わせた、流派の呼び名である。

同じような作りの肖像を描いた人たちを、まとめてこう呼ぶ。

前の回に見た「散逸した写本の画家」と、考え方は似ている。

名が分からないとき、別の手がかりから呼び名を作る。

一方は本の名から、他方は流派の名から。

いずれも、個人の名ではない。

そして、この呼び名は分類のための道具である。

同じ手つきの作品を、まとめて扱えるようにする。

額の寸法まで、記録されている

この館の記録には、額を含めた寸法が入っている。

九点すべてではない。

八点に額の数字があり、一点には無い。

無いのは、レンブラントの男性の一点である。

なぜ無いのかは、記録から分からない。

額が付いていないのかもしれないし、測っていないだけかもしれない。

額の寸法が書かれていると、いくつかのことが読める。

一つは、額の幅である。

ベンティヴォリオの夫の一点は、絵が縦五四センチ、額を含めて八三・八二センチ。

差は二九・八二センチである。

上下に分ければ、一辺あたり約十五センチ。

かなり太い額である。

チャンドラーの二点では、絵が一三九センチ、額を含めて一五五・六センチ。

差は一六・六センチ。

一辺あたり八センチほどである。

絵が大きいわりに、額は細い。

もう一つ読めるのは、厚さである。

額の数字には、三つ目の値が入っている。

一二・七センチ。一三・三四センチ。五センチ。五・三センチ。三・一センチ。

古い板絵の額ほど、厚い。

十五世紀の板絵は、そもそも板が厚い。

十九世紀の厚紙の一点は、額も三センチほどで済んでいる。

寸法の欄の三つ目の数字は、そういうことも教えてくれる。