皮は、削って直せる——ド・ブレイルズ・クラーナハ・ブガッティほか九点
羊や子牛の皮を張って乾かした面は、紙と違って削って書き直せる。九点を数えると、紙が普及したあとも版画が刷られ、細密画が描かれ、二十世紀の丸椅子の座にまで張られていた。書くための面が、七百年かけて座る面になった記録である。

二段組の頁に、青と金の文字がある
一枚の葉である。
葉は18.5×13.2センチしかない。
面は、淡い黄褐色である。
紙より、わずかに滑らかに見える。
縁は不揃いで、波打つ。
文字は、二段に組まれている。
段と段のあいだは、狭い。
書体は縦に細く、角ばる。
行の高さは、そろっている。
赤い文字が、ところどころ混じる。
段の左に、大きな頭文字がある。
頭文字は青と赤で塗られる。
縦の棒が、下まで長く伸びる。
棒の中に、小さな枠がある。
枠の中に、人物が描かれる。
人物は剣と書物を持つ。
もう一つの頭文字にも、枠がある。
そちらには、二人の人物がいる。
頁の下の余白に、小さな姿が描かれる。
余白の端には、細い文字がある。
文字は二組で、それぞれ二字である。
本文の書体とは違う。
後から書き込まれたらしい。

館の記録では、名の分かる写本装飾家は、この国では少ない。
この人は、ある町にいたことを示す文書から特定されたという。
さらに、いくつかの離ればなれになった葉の一枚に署名がある。
そして館は、こう続けている。
数人の画家が、この人の様式で働いていたらしい。
しかし、それが組織された工房の一員だったのか、周辺の装飾家だったのかは分からないという。
館の記録は、そう説明している。
そして館は、余白の頭文字二組が、ある修道会の独自の記号だと書いている。
つまりこの聖書は、修道院で使われたらしい。
記号は、頁の順を示すためのものである。
読む側の都合で付けられている。
書いた人と、使った人が別であることが分かる。
皮は、九つの場所に現れる
この一葉を出発点に、獣の皮の面をめぐる九点を数えていく。
羊皮紙は、羊や山羊の皮から作る。
犢皮紙は、子牛の皮から作る。
毛を抜き、石灰に漬け、枠に張って乾かす。
そして削って薄くする。
削る量で、厚みが決まる。
薄いほど高く、透けるほどになる。
子牛の皮は、とくに薄く作れる。
だから、小さな本や細密画に使われた。
紙より丈夫で、折っても割れない。
そのかわり、高い。
一冊の写本に、何十頭ぶんもの皮が要る。
大きな聖書なら、百頭を超えることもある。
つまり本の値段は、家畜の値段でもあった。
葉を数えれば、獣の数が分かる。
先に言ってしまうと、九点のうち、写本の葉は二点である。
一点では、皮は版画の紙である。
二点では、皮は素描と細密画の地である。
二点では、皮は肖像の地である。
そして二点では、皮は道具や家具の一部である。
つまり九点のうち四点で、皮は書物と関係がない。
面としてだけ、使われている。
切り取られた、頭文字
二点目は、断片である。

小さな断片である。
8.7×9センチしかない。
ほぼ正方形である。
画面いっぱいに、大きな文字が一つある。
文字は金色で、太い。
縁には、細い線が入る。
文字の内側は、青い地である。
青の上に、小さな白い点が散る。
その中に、二人の人物がいる。
二人は向かい合う。
どちらも赤い衣である。
頭の後ろに、金の輪がある。
手には、細長い葉のようなものを持つ。
顔は細く、髭がある。
背景の青は、深い。
外側には、赤い縁がわずかに残る。
縁の外は、切り落とされている。
切り口は、まっすぐではない。
鋏で切ったらしい。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
つまり、もとの本が何だったかは分からない。
館の題は、おそらく祈祷書からと書いている。
そして、この断片には台紙が付く。
台紙は22.9×17.8センチある。
断片の三倍近い大きさである。
館の記録は、その台紙の寸法も書いている。
作品ではないものまで、測って記録している。
断片は、それだけでは扱いにくい。
台紙があって、はじめて保管できる。
散らばった写本の葉については、散らばった写本の一葉で扱った。
皮に、木版を刷る
三点目では、皮は版画の紙になる。

縦長の版画である。
画面は22.7×16.2センチある。
中央に、十字架が立つ。
十字架の上に、人物が掛かる。
体は細く、腕が水平に伸びる。
頭は右へ垂れる。
十字架の左に、青い衣の女がいる。
女は手を合わせ、うつむく。
右には、赤い衣の男が立つ。
男は書物を抱える。
背後には、町がある。
町には、塔と屋根が並ぶ。
そのさらに奥に、丘がある。
丘は緑で、なだらかである。
地面には、頭蓋骨と骨が転がる。
縁には、赤い枠が回る。
色は、赤、青、緑、褐色である。
色は、線の内側に収まっている。
はみ出しは、ほとんどない。
細い筆で、丁寧に塗られている。
館の記録では、最初の木版は、千四百年ごろまで布か犢皮紙に刷られていた。
そのころ、紙の供給が豊かになったという。
館の記録は、そう説明している。
つまり紙より先に、皮に刷られていた。
この一枚は、紙が普及したあとの作である。
それでも皮に刷られている。
紙より高い材料を、あえて選んだことになる。
皮は、インクを吸わない。
だから線が、面に乗ったまま残る。
紙なら、繊維に染み込んで少しにじむ。
この一枚では、線がくっきりしている。
手彩色の色も、線の上に乗る。
九点のうち、版が刷られた皮は、この一点である。