作品を知る

皮は、削って直せる——ド・ブレイルズ・クラーナハ・ブガッティほか九点

羊や子牛の皮を張って乾かした面は、紙と違って削って書き直せる。九点を数えると、紙が普及したあとも版画が刷られ、細密画が描かれ、二十世紀の丸椅子の座にまで張られていた。書くための面が、七百年かけて座る面になった記録である。

ラテン語聖書の一葉 装飾頭文字 剣と書物を持つ聖パウロ
ウィリアム・ド・ブレイルズ《ラテン語聖書の一葉 装飾頭文字 剣と書物を持つ聖パウロ》クリーヴランド美術館蔵

二段組の頁に、青と金の文字がある

一枚の葉である。

葉は18.5×13.2センチしかない。

面は、淡い黄褐色である。

紙より、わずかに滑らかに見える。

縁は不揃いで、波打つ。

文字は、二段に組まれている。

段と段のあいだは、狭い。

書体は縦に細く、角ばる。

行の高さは、そろっている。

赤い文字が、ところどころ混じる。

段の左に、大きな頭文字がある。

頭文字は青と赤で塗られる。

縦の棒が、下まで長く伸びる。

棒の中に、小さな枠がある。

枠の中に、人物が描かれる。

人物は剣と書物を持つ。

もう一つの頭文字にも、枠がある。

そちらには、二人の人物がいる。

頁の下の余白に、小さな姿が描かれる。

余白の端には、細い文字がある。

文字は二組で、それぞれ二字である。

本文の書体とは違う。

後から書き込まれたらしい。

ラテン語聖書の一葉 装飾頭文字 剣と書物を持つ聖パウロ
ウィリアム・ド・ブレイルズ《ラテン語聖書の一葉、剣と書物を持つ聖パウロ》1230年から40年ごろ。館の記録では、犢皮紙にインク、テンペラ、金。葉は18.5×13.2センチ。番号は2011.53。クリーヴランド美術館蔵。ウィリアム・ド・ブレイルズ《ラテン語聖書の一葉 装飾頭文字 剣と書物を持つ聖パウロ》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、名の分かる写本装飾家は、この国では少ない。

この人は、ある町にいたことを示す文書から特定されたという。

さらに、いくつかの離ればなれになった葉の一枚に署名がある。

そして館は、こう続けている。

数人の画家が、この人の様式で働いていたらしい。

しかし、それが組織された工房の一員だったのか、周辺の装飾家だったのかは分からないという。

館の記録は、そう説明している。

そして館は、余白の頭文字二組が、ある修道会の独自の記号だと書いている。

つまりこの聖書は、修道院で使われたらしい。

記号は、頁の順を示すためのものである。

読む側の都合で付けられている。

書いた人と、使った人が別であることが分かる。

皮は、九つの場所に現れる

この一葉を出発点に、獣の皮の面をめぐる九点を数えていく。

羊皮紙は、羊や山羊の皮から作る。

犢皮紙は、子牛の皮から作る。

毛を抜き、石灰に漬け、枠に張って乾かす。

そして削って薄くする。

削る量で、厚みが決まる。

薄いほど高く、透けるほどになる。

子牛の皮は、とくに薄く作れる。

だから、小さな本や細密画に使われた。

紙より丈夫で、折っても割れない。

そのかわり、高い。

一冊の写本に、何十頭ぶんもの皮が要る。

大きな聖書なら、百頭を超えることもある。

つまり本の値段は、家畜の値段でもあった。

葉を数えれば、獣の数が分かる。

先に言ってしまうと、九点のうち、写本の葉は二点である。

一点では、皮は版画の紙である。

二点では、皮は素描と細密画の地である。

二点では、皮は肖像の地である。

そして二点では、皮は道具や家具の一部である。

つまり九点のうち四点で、皮は書物と関係がない。

面としてだけ、使われている。

切り取られた、頭文字

二点目は、断片である。

聖プロタシウスと聖ゲルヴァシウスを描く装飾頭文字の写本断片
オリヴェート派の画家《聖プロタシウスと聖ゲルヴァシウスを描く装飾頭文字の写本断片》十五世紀半ば。館の記録では、テンペラ・金・インク・羊皮紙。8.7×9センチ。番号は23.21.10。メトロポリタン美術館蔵。オリヴェート派の画家《聖プロタシウスと聖ゲルヴァシウスを描く装飾頭文字の写本断片》メトロポリタン美術館蔵

小さな断片である。

8.7×9センチしかない。

ほぼ正方形である。

画面いっぱいに、大きな文字が一つある。

文字は金色で、太い。

縁には、細い線が入る。

文字の内側は、青い地である。

青の上に、小さな白い点が散る。

その中に、二人の人物がいる。

二人は向かい合う。

どちらも赤い衣である。

頭の後ろに、金の輪がある。

手には、細長い葉のようなものを持つ。

顔は細く、髭がある。

背景の青は、深い。

外側には、赤い縁がわずかに残る。

縁の外は、切り落とされている。

切り口は、まっすぐではない。

鋏で切ったらしい。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

つまり、もとの本が何だったかは分からない。

館の題は、おそらく祈祷書からと書いている。

そして、この断片には台紙が付く。

台紙は22.9×17.8センチある。

断片の三倍近い大きさである。

館の記録は、その台紙の寸法も書いている。

作品ではないものまで、測って記録している。

断片は、それだけでは扱いにくい。

台紙があって、はじめて保管できる。

散らばった写本の葉については、散らばった写本の一葉で扱った。

皮に、木版を刷る

三点目では、皮は版画の紙になる。

聖母と聖ヨハネの間の十字架上のキリスト
ルーカス・クラーナハ《聖母と聖ヨハネの間の十字架上のキリスト》1503年。館の記録では、犢皮紙に木版、手彩色。画面は22.7×16.2センチ。番号は1972.128。クリーヴランド美術館蔵。ルーカス・クラーナハ《聖母と聖ヨハネの間の十字架上のキリスト》クリーヴランド美術館蔵

縦長の版画である。

画面は22.7×16.2センチある。

中央に、十字架が立つ。

十字架の上に、人物が掛かる。

体は細く、腕が水平に伸びる。

頭は右へ垂れる。

十字架の左に、青い衣の女がいる。

女は手を合わせ、うつむく。

右には、赤い衣の男が立つ。

男は書物を抱える。

背後には、町がある。

町には、塔と屋根が並ぶ。

そのさらに奥に、丘がある。

丘は緑で、なだらかである。

地面には、頭蓋骨と骨が転がる。

縁には、赤い枠が回る。

色は、赤、青、緑、褐色である。

色は、線の内側に収まっている。

はみ出しは、ほとんどない。

細い筆で、丁寧に塗られている。

館の記録では、最初の木版は、千四百年ごろまで布か犢皮紙に刷られていた。

そのころ、紙の供給が豊かになったという。

館の記録は、そう説明している。

つまり紙より先に、皮に刷られていた。

この一枚は、紙が普及したあとの作である。

それでも皮に刷られている。

紙より高い材料を、あえて選んだことになる。

皮は、インクを吸わない。

だから線が、面に乗ったまま残る。

紙なら、繊維に染み込んで少しにじむ。

この一枚では、線がくっきりしている。

手彩色の色も、線の上に乗る。

九点のうち、版が刷られた皮は、この一点である。