寸法の欄に、見え掛かりとある——象牙に描く細密肖像
覆いの窓から見える範囲を、見え掛かりという。細密の肖像は枠に嵌まり、絵の縁が隠れる。だから記録は象牙全体と、見えている部分を分けて測る。隠れた縁が何を語るのかを読みたい。三センチの絵に、顔が描かれている。

寸法の欄に、見え掛かりとある
細密の肖像を九件、記録の欄で並べてみる。
寸法の欄に、聞き慣れない語が入る件がある。
見え掛かり。
覆いの窓から見える範囲のことである。
細密の肖像は、たいてい枠に嵌められている。
枠の内側が窓になり、そこから絵が見える。
窓の外側は、枠に隠れて見えない。
だから、絵そのものの大きさと、見える大きさが違う。
館は、その二つを分けて書くことがある。
九件のうち四件に、この語がある。
見えている部分と、隠れている部分
一件では、二つの数字組が並ぶ。
象牙そのものが、縦13.3センチ、横13.3センチ。
見え掛かりが、縦10.8センチ、横8.3センチ。
つまり、正方形の象牙が、縦長の窓から見えている。
横は五センチ、縦は二センチ半が隠れている。
隠れた部分に、何が描かれているかは分からない。
枠を外さなければ、見られない。
館は、外して測ったのだろう。
だから、二つの数字が書ける。
書かなければ、正方形であることは伝わらない。
前の回の記事で、作品がどこまでかという問いを何度も見た。
ここでは、見える範囲と実際の範囲が違っている。

四角い枠の中に、楕円の窓がある。
窓の縁は、金色の縄目の飾りで囲まれる。
枠の上端に、金色の帯が渡る。
その中央に、輪が立つ。
吊るすための金具だろう。
窓の中に、女性の胸像が描かれる。
顔はやや右を向く。
髪は巻き毛で、両側にふくらむ。
額の中央で、髪が左右に分かれる。
肩は白く、露わになる。
胸もとに、水色の布が掛かる。
背景は淡く、輪郭がぼやける。
象牙に、水彩で描く
九件の技法の欄は、いずれも同じである。
象牙に水彩。
薄く削った象牙の板に、水彩で描く。
象牙は白く、光を通す。
その下地の白さが、肌の透明感を作る。
紙に描けば、こうはならない。
材料が、この形式の見え方を決めている。
そして、象牙は薄い。
薄いから、割れやすく、反りやすい。
だから、枠に嵌めて守る。
技法の欄の四文字が、形式の全体を説明している。

小さな楕円の絵である。
高さは四センチに満たない。
金色の枠に嵌められる。
枠のまわりを、赤い石が一周する。
石は四角く、十数個並ぶ。
いずれも濃い赤で、光を反射する。
窓の中に、男性の胸像が描かれる。
顔はやや右を向く。
白い鬘をかぶり、耳の上で巻く。
上着は褐色で、金の釦が見える。
首もとに、白い襞が重なる。
背景は青灰色で、平らに塗られる。
三センチの絵に、顔を描く
いま見た一件は、高さ3.8センチである。
九件のうち、いちばん小さい二件は3.2センチだ。
指先ほどの大きさに、顔が描かれている。
目も、鼻も、口も入っている。
拡大して見なければ、細部は分からない。
館の公開画像は、拡大されている。
だから、実際の大きさが伝わらない。
写真は、どんな作品も同じ大きさに見せてしまう。
寸法の欄の数字だけが、大きさを伝える。
前の回の記事で、極小の画帖について同じことを書いた。
数字と画像は、たがいを補い合う。

楕円の小さな絵である。
白黒の写真で写される。
幼い子どもが、正面を向く。
顔は丸く、頬がふくらむ。
目は大きく、こちらを見る。
髪は柔らかく、額の上でうねる。
肩から下は、白い衣である。
衣の輪郭は、ほとんど溶ける。
背景は明るい灰色で、上部がやや暗い。
楕円の縁に沿って、細い影が落ちる。
面に、細かい傷が数本走る。
家族の三件が、連番で入る
九件のうち三件は、同じ作者の作である。
番号も、点のあとの数字が一、二、三と続く。
同じ年に、同じ経路で入った。
主題を見ると、事情が分かる。
一件は幼い子ども、一件は少女。
そして一件は、作者自身の肖像である。
つまり、画家とその家族の肖像がまとめて入った。
家に残っていたものが、そのまま館へ来たのだろう。
出所の行には、基金による購入とある。
誰から買ったかは、書かれていない。
前の回の記事で、群でまとまって入る作品を何度も見た。
主題の重なりが、群の性格を示している。

縦長の絵である。
白黒の写真で写される。
少女が、正面を向いて座る。
顔は細く、顎が尖る。
目は大きく、まっすぐこちらを見る。
髪は中央で分けられる。
両側で巻き、肩まで垂れる。
肩は白く、衣が広く開く。
袖の縁が、腕の付け根に見える。
背景は白く、輪郭に向かって薄い影がある。
三件のうち、いちばん大きい一件だ。
同じ家族の三件で、大きさが三倍以上違う。

楕円の小さな絵である。
白黒の写真で写される。
若い男性が、やや右を向く。
髪は豊かで、耳を覆う。
前髪が、額に一房かかる。
目は大きく、こちらを見る。
鼻がまっすぐで、口が小さい。
上着は黒く、襟が立つ。
首もとに、白い襟が見える。
肩から下は、暗く沈む。
楕円の中央に、細い線が横に走る。
象牙の継ぎ目か、割れの跡だろう。