暮らしと名画

洗うとは、見えなくすること——アーフェルカンプ・ピサロ・スローンほか九点

洗う場面に汚れは描かれない。落ちたものは水に混ざって消えるからである。洗うの九点を数えると、三点で人は膝をつくかしゃがみ、足を洗う二点ではその低さが意味を持っていた。馬を洗う一点があり、織物の記録では洗うことが色を落とす力として書かれている。

氷の穴で洗濯をする女(表)
ヘンドリック・アーフェルカンプ《氷の穴で洗濯をする女(表)》クリーヴランド美術館蔵

氷に開いた穴の縁で、手を水に入れている

きわめて小さい素描である。

紙は11.7×13.4センチしかない。

紙は青い。

その青が、氷と空気の色になっている。

画面の中央に、女がしゃがむ。

体は右を向く。

膝を折り、腰を落とす。

背中は丸く、大きな面になる。

上着は白く、袖が広い。

袖は肘までまくり上げられている。

頭には、白い布を巻く。

布は後頭部で結ばれる。

顔は下を向く。

目は、手元の水を見ている。

両手は前へ伸びる。

手は氷の縁を越え、下へ入る。

手のあたりに、赤い色が置かれる。

冷えた手の色である。

その前に、小さな桶がある。

桶は褐色で、縦の板が見える。

桶の口は、こちらを向く。

氷の面は、白で示される。

白は紙の上に厚く置かれる。

穴の縁だけが、暗い線で囲まれる。

女の右に、もう一人がいる。

そちらは立っている。

背は低く、子どもらしい。

片手を顔に当てる。

目のあたりを拭っている。

線は速く、太さが変わる。

氷の穴で洗濯をする女(表)
ヘンドリック・アーフェルカンプ《氷の穴で洗濯をする女(表)》1618年ごろ。館の記録では、青い紙に黒と赤のチョーク、黒鉛、水彩、白で白上げ。紙は11.7×13.4センチ。番号は2024.74.a。クリーヴランド美術館蔵。ヘンドリック・アーフェルカンプ《氷の穴で洗濯をする女(表)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、この画家は冬の風景をほぼ専門に描いたことで広く知られた。

凍った運河や川に、さまざまな身分の人が集まる場面を多く描いたという。

氷滑り、談笑、洗濯、釣り、荷運びなどである。

そして館は、この一枚について書いている。

氷の穴で洗濯をするためにしゃがむ女を写生している。

そばには、目から涙を拭う子どもがいるという。

さらに館は、紙の裏についても書いている。

裏には、身なりのよい男が二人いて、談笑しているように見える。

画家はこうした紙を工房に置き、大きな群像の構図のために参照したという。

館の記録は、そう説明している。

つまりこれは、完成した絵のための控えである。

洗う姿は、後で使うために取っておかれた。

洗うは、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、洗うにまつわる九点を数えていく。

洗うとは、水で汚れを落とすことである。

落ちたものは、水に混ざって見えなくなる。

だから洗う場面には、汚れが描かれない。

描かれるのは、水と手と器だけである。

先に言ってしまうと、九点のうち、布を洗っているのは二点である。

一点では、洗った布を干している。

一点では、洗う場所そのものが描かれる。

二点では、洗われているのは足である。

一点では、洗われているのは馬である。

一点では、洗うことが色を落とす危険として語られる。

そして一点では、洗うは儀式の名である。

洗濯物そのものについては、洗濯物で扱った。

庭の桶で、布を押す

二点目は、油彩である。

エラニーの洗濯女
カミーユ・ピサロ《エラニーの洗濯女》1893年。館の記録では、油彩・カンヴァス。45.7×38.1センチ。番号は64.154.1。メトロポリタン美術館蔵。カミーユ・ピサロ《エラニーの洗濯女》メトロポリタン美術館蔵

縦長の小さな画面である。

45.7×38.1センチしかない。

画面の下半分は、草地である。

草は明るい緑で、細かい点でできる。

点は短く、方向がそろわない。

画面の中央に、女が立つ。

体は右を向く。

顔は下を向き、手元を見る。

髪は白い布に包まれる。

上着は薄い紫で、袖が広い。

前掛けは黄土色で、腰から下へ垂れる。

その前に、木の桶がある。

桶は台の上に載る。

台は細い四本の脚で立つ。

桶の縁に、白い布が掛かる。

布は外へ垂れ、大きく広がる。

女の両手は、その布の上にある。

上から押している。

背後には、木が並ぶ。

木の葉は、黄緑と青緑の点である。

奥には、赤い屋根が小さく見える。

右には、細い柱が一本立つ。

画面の上端には、空がわずかに覗く。

館の札には「庭」「女性たち」「洗うこと」「働くこと」がある。

つまり館は、これを労働の図として登録している。

そして場所は、庭である。

川でも、洗濯場でもない。

家のすぐ外で、一人で洗っている。

この画家の同じ庭については、同じ庭で扱った。

九点のうち、洗う人が一人だけなのは、この一点である。

干す手が、非常階段の上にある

三点目では、洗い終わっている。

女の仕事
ジョン・スローン《女の仕事》1912年。館の記録では、油彩・カンヴァス。額なしで80.3×65.4センチ。番号は1964.160。クリーヴランド美術館蔵。ジョン・スローン《女の仕事》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

額なしで80.3×65.4センチある。

画面の上三分の二に、洗濯物が並ぶ。

洗濯物は白い。

形は、上着と下着とシーツである。

洗濯物は、二本の綱に吊られる。

綱は、画面の左右へまっすぐ渡る。

留め具が、小さな点として並ぶ。

布は下へ垂れ、風で少し膨らむ。

画面の右に、建物の壁がある。

壁は赤褐色の煉瓦である。

壁には、窓が二つある。

窓の枠は、緑がかった灰である。

壁の前に、細い階段がある。

鉄の非常階段である。

その上に、女が立つ。

体は横を向く。

腕は上がり、綱に届く。

手には、白い布を持つ。

足元には、籠がある。

籠の中に、洗濯物が積まれる。

女の衣は赤で、画面で最も強い色である。

背後の空は、灰と青である。

館の記録では、この画家は新聞の仕事を学んだ。

同時代の多くの画家より熱心に、社会の問題を探ったという。

そして館は、この場面について書いている。

画家は、自分の住まいの裏の窓から、この場面を見た。

狭い非常階段に立った女が、建物のあいだに渡した綱に洗いたての洗濯物を干しているという。

館の記録は、そう説明している。

つまりこの画面には、水がない。

洗う工程は終わっている。

残っているのは、乾かす工程だけである。

九点のうち、水が写っていないのは、この一点である。