洗うとは、見えなくすること——アーフェルカンプ・ピサロ・スローンほか九点
洗う場所だけが、残っている
四点目では、人がいない。

横長の版画である。
画面は17.1×21.1センチしかない。
画面の下半分は、水である。
水は灰色で、波がほとんどない。
その上に、木の構造物が乗る。
構造物は、水に浮かぶ船である。
板が横に渡り、柱が縦に立つ。
板は古び、色が抜けている。
柱は細く、傾いているものがある。
屋根は、一部が落ちている。
手前には、板の橋が架かる。
橋の上には、誰もいない。
岸には、枯れた木が数本立つ。
木は葉を落とし、枝だけである。
奥には、低い岸が続く。
空は薄い黄で、雲が横に流れる。
左の端に、細い煙突が立つ。
色は、灰と褐色と薄い黄だけである。
輪郭は、細い黒い線である。
館の記録では、この画家は当時のある都市を三十六の異なる眺めで表そうとした。
それぞれの図は、遠くに見える塔で結ばれているという。
そして館は、洗濯の産業について書いている。
その産業は連作を通して現れる。
この一枚は、ある郊外の風雨にさらされた洗濯船を中心に据えている。
そこは、都市から地理的にも心理的にも離れた場所であるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり洗う場所は、都市の外にある。
汚れを落とす仕事は、離れた場所で行われる。
九点のうち、人が一人もいないのは、この一点である。
足を洗う、その手元
五点目では、洗われるのは足である。

横長の板絵である。
49.5×72.1センチある。
画面の奥に、大きな柱が並ぶ。
柱のあいだから、明るい空が見える。
奥には、卓と人びとがいる。
手前の左に、人が集まる。
中央に、男が膝をつく。
体は前へ折れ、腰を落とす。
その前に、もう一人が座る。
座る人は、片足を前へ出す。
膝をついた人の手が、その足に触れる。
足元には、浅い器がある。
器は円く、金色である。
水は、描かれていない。
まわりには、数人が立つ。
一人は、驚いた身振りをする。
一人は、上を指す。
衣は赤と青と黄で、襞が深い。
床は石で、線が引かれる。
左上には、暗い幕が垂れる。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
つまり場面の説明はない。
題が、していることを説明している。
洗う人が、洗われる人の前に膝をつく。
上下が、いつもと逆になる。
館の札にも、洗うという語が入る。
題そのものが、その動作を名指している。
主語は、洗う側の名である。
九点のうち、洗う人が下にいるのは、この一点で二点のうちの一点目である。
同じ場面を、小さな板に試す
六点目も、足を洗う場面である。

きわめて小さい板である。
15.2×20センチしかない。
画面は暗い。
色は、褐色と紫と黄土である。
画面の右に、人が数人立つ。
立つ人は、暗い衣を着る。
顔は小さく、輪郭がぼける。
一人は、白い布を頭に巻く。
その左に、身をかがめる人がいる。
体は深く折れ、膝が床に近い。
腕は前へ伸びる。
手の先は、暗くて見えない。
その前に、座る人がいる。
座る人の脚が、前へ出る。
床は明るい黄土である。
床には、光が斜めに落ちる。
背後の壁は、黄と緑である。
壁の上のほうが、明るい。
筆の跡は太く、粗い。
輪郭を引いた線が、ほとんどない。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
題に、習作という語がある。
つまりこれは、大きな絵のための試しである。
先の板絵と、同じ場面である。
しかし人の数が違う。
あちらは十人以上、こちらは数人である。
そして光の当て方が違う。
あちらは奥から、こちらは横から来る。
床の明るさが、そのぶん違う。
こちらでは、床が画面の下半分を占める。
人物は、その明るさの上に黒く並ぶ。
九点のうち、同じ主題が二点あるのは、ここだけである。
洗われるのは、馬である
七点目では、洗う相手が変わる。

縦長の絵である。
60×36.5センチある。
絹は褐色に変わっている。
画面の上三分の一に、岩がある。
岩は濃い墨で描かれる。
輪郭は太く、内側に細かい筆の跡がある。
岩の上には、小さな木が生える。
木の葉は、点の集まりである。
岩の下は、水である。
水は白く残される。
線はほとんど引かれていない。
水の中に、馬がいる。
馬は二頭である。
一頭は黒く、一頭は白い。
黒い馬は、体を沈める。
首だけが水の上に出る。
白い馬は、岸に近い。
その脇に、人が立つ。
人は小さく、輪郭だけである。
手には、細い綱を持つ。
画面の右上には、文字がある。
文字は縦に数行並ぶ。
その下に、赤い印がある。
館の札には「男性」と「馬」がある。
館の記録は、それ以上のことを書いていない。
つまり、なぜ洗うのかは書かれていない。
馬を洗うのは、身なりを整えるためでもある。
そして暑い日には、冷やすためでもある。
どちらかは、画面から決められない。
黒い馬は、体のほとんどが水の中にある。
白い馬は、脚だけが浸かる。
二頭で、水の深さが違う。
浅いところから深いところへ、順に入っていくらしい。
人の綱は、白い馬のほうへ伸びる。
洗うことが、色を落とす
八点目では、洗うのは危険である。