暮らしと名画

婚礼の絵に、式はない——デクルティ・湖龍斎・サージェントほか九点

リサ・コルト・カーティスの肖像
ジョン・シンガー・サージェント《リサ・コルト・カーティスの肖像》1898年。館の記録では、油彩・カンヴァス。額なしで219.3×104.8センチ。番号は1998.168。クリーヴランド美術館蔵。ジョン・シンガー・サージェント《リサ・コルト・カーティスの肖像》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

額なしで219.3×104.8センチある。

人の背丈より高い。

背景は暗い。

左に、太い柱がある。

右にも、暗い緑の布がある。

上には、装飾の影が見える。

画面の中央に、女が立つ。

体は正面を向く。

顔は、こちらを見る。

髪は上でまとめられる。

衣は淡い灰白である。

繻子で、光沢がある。

肩は出ている。

袖は短い。

裾は長く、床に広がる。

腰は細く絞られる。

右手は、下がる。

左手は、体の前にある。

背後の卓に、器が置かれる。

館の記録では、この人は最近結婚したところだった。

そして、この絵は婚礼の贈り物だったという。

右上に、献辞が書かれている。

夫と本人に宛てた言葉である。

婚礼の場面は、描かれていない。

描かれるのは、その後の暮らしである。

館の記録では、この人はある都市の館に住んだ。

絵の中の姿は、客を迎える構えだという。

館は、そう説明している。

背景の柱も、その館のものだろう。

画面が縦に長いのは、そのためでもある。

人の背丈より高い絵は、壁に掛けて見る。

見上げる位置に、顔が来る。

衣の裾は、床のあたりに来る。

実物大に近い像になる。

館の記録では、この画家は当時最も求められた。

海の両側の社交界を描いたという。

この一点も、その仕事の一つである。

縁側で、見合いをする

五点目は、版画である。

見合い
磯田湖龍斎《見合い》1770年ごろ。館の記録では、木版・紙。25.4×22.5センチ。番号はJP886。メトロポリタン美術館蔵。磯田湖龍斎《見合い》メトロポリタン美術館蔵

縦長の紙である。

25.4×22.5センチある。

画面は、店の内と外である。

右に、赤い柱と欄干がある。

奥に、簾のようなものが下がる。

上のほうに、看板がある。

看板には、文字が書かれる。

画面の上に、三人が立つ。

女が二人、男が一人である。

女は肩を寄せる。

男は、その隣に立つ。

顔は、女のほうを向く。

画面の下に、三人が座る。

板の間に、直に座る。

一人は、こちらへ背を向ける。

一人は、横を向く。

一人は、下を向く。

床に、小さな器が置かれる。

湯呑らしい。

館の記録では、題は結婚を考えて会うことである。

つまり、これは婚礼の前である。

式でも、祝いでもない。

見て、確かめる場面である。

画面の作りを見ておきたい。

上と下で、人の集まりが分かれる。

上は立ち、下は座る。

立つ三人は、外に近い。

座る三人は、内側にいる。

見る側と、見られる側だろう。

どちらがどちらかは、絵からは決めにくい。

館の記録も、そこには触れていない。

書かれているのは、題だけである。

看板の文字も、記録には訳されない。

店の名かもしれない。

湯呑が置かれているので、茶が出ている。

改まった席ではあるが、式ではない。

幼子が、指に輪をはめる

六点目は、板に描かれた油彩である。

聖カタリナの神秘の結婚を伴う聖家族
トンマーゾ・マンズオーリ(マーゾ・ダ・サン・フリアーノ)《聖カタリナの神秘の結婚を伴う聖家族》1560年ごろ。館の記録では、油彩・板。画面は148×103センチ。番号は2019.168。クリーヴランド美術館蔵。トンマーゾ・マンズオーリ(マーゾ・ダ・サン・フリアーノ)《聖カタリナの神秘の結婚を伴う聖家族》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

画面は148×103センチある。

背景は暗い。

奥に、緑の葉と柱が見える。

画面の中央に、女が座る。

女は赤い衣に、青い布を掛ける。

顔は下を向く。

その膝に、幼子がいる。

幼子は裸である。

体をひねる。

右腕を、前へ伸ばす。

その手が、別の女の手に触れる。

左の女は、若い。

袖は白く、膨らむ。

指を、幼子のほうへ差し出す。

館の記録では、指に輪がはめられる。

これが、神秘の結婚と呼ばれる場面である。

館は、それは象徴だと書く。

実際の婚礼ではない。

右の奥に、年配の男がいる。

顔には、深い皺がある。

館の記録では、この顔だけが写実的である。

画家の知る人の顔かもしれないという。

手前には、もう一人の子がいる。

その子は、床に座る。

背を向け、こちらへ顔を向ける。

手には、細い棒のようなものがある。

画面の中で、いちばん動きが大きい。

館の記録では、この聖女には印がある。

通例は、棘のある輪と一緒に描かれる。

この絵では、手の下にわずかに見えるという。

言われなければ、気づかない。

館は、そこまで書いている。

顔の描き分けも見ておきたい。

女と子の顔は、なめらかで整う。

年配の男の顔だけが、皺まで描かれる。

同じ画面に、二つの描き方がある。

磁器の像が、鳥籠を持つ

七点目は、燭台である。

自由と結婚の寓意像を表す燭台一対
ダービー磁器製作所《自由と結婚の寓意像を表す燭台一対》1775年ごろ。館の記録では、軟質磁器。一方は31.1×25.7×15.6センチ、他方は32.4×25.6×14.2センチ。番号は1917.627。クリーヴランド美術館蔵。ダービー磁器製作所《自由と結婚の寓意像を表す燭台一対》クリーヴランド美術館蔵

二つで一組の像である。

高さは、いずれも30センチを超える。

白い磁器である。

金と、赤と、緑が置かれる。

台は、渦を巻いた形である。

その上に、人が座る。

背後に、木の枝が立ち上がる。

枝には、細かい葉と花が付く。

葉は緑、花は白である。

枝の左右に、燭台の受けがある。

受けは二つずつある。

一方の像は、男である。

羊飼いの姿をする。

そばに、犬がいる。

伸ばした腕に、鳥がとまる。

鳥は、籠に入っていない。

館の記録では、これは自由を表すという。

もう一方の像は、女である。

手に、鳥籠を持つ。

籠の中に、鳥がいる。

足元に、羊が休む。

女の手は、その羊を指す。

館の記録では、これが結婚を表すという。

自由と結婚が、一対で並べられている。

鳥が、その対比を担う。

一方の鳥は、腕にとまる。

もう一方の鳥は、籠の中にいる。

同じ鳥が、二つの状態で置かれる。

館の記録は、それを寓意と呼ぶ。

羊も、その対比の一部だろう。

休む羊は、留まることを示す。

犬は、連れて歩くものである。

細部が、それぞれ意味を持つ。

館の記録では、背後の枝の形にも由来がある。

当時の舞台装置の東屋を思わせるという。

燭台なので、蝋燭が立つ。

火を灯せば、枝の影が壁に落ちる。