婚礼の絵に、式はない——デクルティ・湖龍斎・サージェントほか九点
婚礼を扱った九点を数えると、式そのものを描いた絵は一点だけだった。残りは見合いであり、贈り物であり、衣装箱の板である。相手が両方描かれるのも二点だけで、花嫁だけの絵が三点、花婿だけの絵は一点もなかった。

天幕の下で、村の婚礼がある
多色の版画である。

縦長の紙である。
紙は36.7×27.6センチある。
絵の部分は、その内側にある。
下には、文字が刷られる。
画面の上のほうに、木がある。
木は大きく、葉が茂る。
空は淡い青灰色である。
画面の中央に、天幕がある。
天幕は褐色の布である。
太い柱が、それを支える。
布は斜めに張られる。
その下に、人が集まる。
二十人以上いる。
服は青、赤、白である。
中央に、白い服の人がいる。
いちばん明るく描かれる。
その人が、花嫁だろう。
隣に、男が立つ。
二人の周りを、人が囲む。
座っている人もいる。
子どもは、地面で遊ぶ。
右のほうに、卓がある。
卓の上に、器が並ぶ。
左には、楽器を持つ人がいる。
館の記録では、この技法は道具の跡を残さない。
黄、赤、青、臙脂、黒を重ねる。
その重ねで、色の階調を作るという。
五色しか使っていないことになる。
それでも、天幕の褐色から空の青まで出る。
重ねる順序が、色を決める。
版は、色の数だけ必要になる。
同じ紙を、五回刷ることになる。
位置がずれれば、輪郭が二重になる。
この一枚では、ずれが見えない。
下の文字も見ておきたい。
館の記録では、題と、関わった人の名が入る。
版画は、注文して売るものだった。
村の婚礼という主題は、当時よく売れた。
都市の人が、田舎の祝いを見る絵である。
描かれた人と、買う人は別である。
婚礼は、九つの場所に現れる
このコラムでは、婚礼の絵を九点並べる。
九点は、館も年代も技法も違う。
版画があり、写真があり、油彩があり、磁器がある。
板絵があり、陶の破片もある。
共通するのは、館の記録に婚礼か結婚の語があることだけである。
数えるのは、式そのものが描かれているかどうかである。
四人が並んで、こちらを見る
二点目は、写真である。

縦長の画面である。
画面は19.9×14.8センチある。
画面の角は、丸く落とされる。
全体は灰色である。
銀の板に写された像である。
背景に、暗い幕が下がる。
左のほうは、明るい灰色である。
画面に、四人の女が並ぶ。
四人とも、白い服を着る。
裾は大きく広がる。
布は光を返す。
中央より右の一人は、頭に薄い布をかぶる。
布は、肩まで垂れる。
この一人が、花嫁である。
ほかの三人は、髪に花を挿す。
四人とも、こちらを見ている。
顔は動かない。
口は結ばれる。
手は、体の前で重ねられる。
館の記録では、これは当時いちばん高価な撮り方である。
一枚の板に、覆いをずらして何度も写す。
その仕掛けは、特許にもなっていた。
館は、そう説明している。
二人の写真家が、組んで工房を営んだ。
一人は薬種商、一人は大工だったという。
街の裕福な人たちが、客だった。
館の記録では、天窓も自分たちで作った。
強く均一な光を得るためである。
さらに、銀の層を厚くする工夫もした。
像の輝きと、磨きを上げるためだという。
館は、そこまで書いている。
ダゲレオタイプは、一枚しかできない。
複製は作れない。
この四人の像も、世界に一枚である。
左右も、実際とは反転している。
白い衣が、光を返す
三点目は、油彩である。

縦長の画面である。
53.3×43.4センチある。
背景は、淡い褐色である。
塗り残しが多い。
下地の色が、そのまま見える。
画面の中央に、女が立つ。
体は、やや斜めを向く。
顔は横向きである。
髪は明るい褐色である。
頭に、薄い布をかぶる。
布は長く、背に垂れる。
衣は白い。
袖は膨らむ。
胸のあたりに、細かい襞がある。
裾は床まで広がる。
白は、何度も塗り重ねられる。
筆の跡が、そのまま残る。
腕は下がる。
右手は、前へ出る。
手には、何かを持っているらしい。
形ははっきりしない。
足元は、描かれていない。
輪郭が、途中で消える。
未完成のようにも見える。
館の記録には、制作年しかない。
誰の婚礼かは、書かれていない。
題は、ただ花嫁である。
固有の名を持たない。
つまり、これは誰かの肖像ではない。
花嫁という姿そのものを描いている。
白の塗り方を、もう一度見る。
白は、単色ではない。
影の部分に、青と灰が混じる。
光の部分には、黄が入る。
近くで見れば、白ではない。
離れて見ると、白い衣に見える。
背景を塗り残したのは、そのためだろう。
褐色の地が、白をいっそう白く見せる。
対比だけで、明るさが作られている。
婚礼の贈り物として描かれる
四点目は、大きな肖像である。