作品を知る

白は、足すか残すかで意味が変わる——アルトドルファー・韓幹・ベローズほか九点

足された白は面から浮き上がり、残された白は地に沈む。九点のうち三点で白は筆や石として持ち込まれ、二点では塗らずに残されていた。そして三点では、白は酒の呼び名と、期待の名と、人の姓である。置くか残すかで、白の意味が変わっていく。

洗礼者ヨハネの首を持つサロメ
アルブレヒト・アルトドルファー《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》クリーヴランド美術館蔵

褐色の紙の上に、白が置かれている

紙そのものが褐色である。

もとは白かった紙に、褐色の淡彩を一面に刷いてある。

その上に、女性が一人立っている。

体は右を向き、顔だけがこちらへ回る。

頭には、大きな羽根飾りの付いた被り物を載せる。

羽根は幾本も立ち上がり、外へ向かって開く。

髪は長く、肩から背へ流れる。

衣は袖が膨らみ、腰で締められている。

裾は床に届き、幾重にも折れる。

両手は、平たい皿を胸の前で支えている。

皿の上には、人の頭が載っている。

そして画面のあちこちに、白い線がある。

白は、羽根の先、袖の稜、裾の折り目に置かれている。

線ではなく、点として置かれた白もある。

その白だけが、紙の面から浮き上がって見える。

洗礼者ヨハネの首を持つサロメ
アルブレヒト・アルトドルファー《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》1517年ごろ。館の記録では、ペンと褐色インク、筆と褐色の淡彩、白のグワッシュ。紙は19.1×12.6センチ。番号は1948.440。クリーヴランド美術館蔵。アルブレヒト・アルトドルファー《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、この物語は聖書に語られている。

そして館は、描き方について書いている。

作者は、この人物の高慢を、凝った衣装と、膨らんで羽根の付いた被り物と、長く流れる髪によって強調している。

そしてそれらの細部を、褐色の淡彩で暗くした紙の上に、黒いインクと白のグワッシュで描き出した。

館の記録は、そう説明している。

さらに乾いた一行が続く。

作者はこの紙を濃い褐色に染めた。

インクで作る明暗を強調するためである。

つまり白は、紙の色ではない。

紙を暗くしてから、後で足した色である。

グワッシュとは、白を混ぜて不透明にした水彩である。

透明な水彩では、下の紙の色が透ける。

白を混ぜれば、下の色を覆える。

つまり暗い地の上に明るい線を引くには、不透明な絵の具が要る。

紙を染めることと、白を足すことは、一つの工夫の表と裏である。

そして館の記録は、紙の隅の書き込みも写している。

褐色のインクで数字が二つ、台紙には別の書き込みがある。

来歴の欄には、ある家の名が並ぶ。

小さな一枚が、番号を書かれながら持ち主を替えてきた。

白は、足す色か、残す色か

この一枚を出発点に、白の使われた九点を数えていく。

白には二通りの作り方がある。

一つは、紙や地の白をそのまま残すこと。

もう一つは、白い絵の具や白い石を持ち込むことである。

前の回で紫が青と赤のあいだで揺れることを見た。

白は揺れない。

そのかわり、どちらの作り方かで意味が変わる。

先に言ってしまうと、九点のうち、白が材料として持ち込まれているのは四点である。

一点では、白は衣の色である。

そして四点では、白は画面になく、名前と呼び名の中にある。

石そのものが、乳白色である

二点目は、小さな彫像である。

ブルゴーニュ公フィリップ豪胆公の墓の嘆く人
クラウス・デ・ウェルヴェ《ブルゴーニュ公フィリップ豪胆公の墓の嘆く人》1404年から10年。館の記録では、ヴィジル産のアラバスター。全体は41×12.7×15センチ。番号は1958.66。クリーヴランド美術館蔵。クラウス・デ・ウェルヴェ《ブルゴーニュ公フィリップ豪胆公の墓の嘆く人》クリーヴランド美術館蔵

高さ41センチの立像である。

人がひとり、長い衣に全身を包まれている。

頭巾が深くかぶせられ、顔はほとんど見えない。

わずかに顎の線が見えるだけである。

両手は胸の前で合わされている。

衣は肩から足もとまで、大きな襞をつくって落ちる。

襞の谷は深く彫られ、影が濃く溜まる。

山の部分は磨かれ、光を返す。

石の色は、乳白色である。

わずかに黄みを帯び、半透明に見える部分がある。

館の記録では、この像はある公の墓から来ている。

公は修道院を建て、そこを自らの墓所と定め、最良の作り手を雇ったという。

そして館は、この像の異例さを書いている。

当時としてはめずらしく、墓の台座に静止した浅い浮き彫りとして彫られていない。

見る人と、行列の仲間たちに向かって働きかけている。

さらに館は、材料について書いている。

生き生きとした質は、大きくはアラバスターによる。

柔らかいので細部を彫り込むことができ、透き通る乳白色の石は高い艶に磨くこともできた。

館の記録は、そう説明している。

つまりこの白は、彫る前からそこにあった。

九点のうち、白が材料そのものの色なのは、この一点である。

そして頭巾で顔を隠すという作りも、材料と関わっている。

顔を彫らなければ、彫り込む細部は衣の襞に集まる。

アラバスターは柔らかいので、深い襞を彫っても割れにくい。

そして磨けば、山の面が強く光る。

つまり顔のかわりに、布が表情を担っている。

館の記録は、この像が墓の行列の一人であると書いている。

同じ形の像が幾体も並び、墓のまわりを歩く列を作っていた。

その列の中で、一体ずつ襞の形が違う。

金地の上に、白い椿が咲く

三点目は、屏風である。

冬と夏の花
海北友松《冬と夏の花》1600年ごろ。館の記録では、六曲一双の一隻・紙本に墨と彩色と金。画面は157×357.6センチ。番号は1987.40.1。クリーヴランド美術館蔵。海北友松《冬と夏の花》クリーヴランド美術館蔵

横に長い屏風である。

157×357.6センチある。

地は金である。

上下に、雲のような金の帯が横に走る。

その帯のあいだに、山と橋がかすかに見える。

画面の中ほどに、太い松が立つ。

幹は墨で描かれ、枝が左右へ伸びる。

松葉は細かい針の集まりである。

その松の後ろから、低い木が伸びる。

葉は濃い緑で、厚みがある。

そして枝の先に、白い花が咲いている。

花は丸く、花びらが幾重にも重なる。

椿である。

白い花には、細い輪郭線がある。

その内側に、白い絵の具が塗られている。

館の記録では、右隻の大きな松の後ろに白い椿が咲く。

左隻では、青い朝顔が竹のあいだを這うという。

山と橋は続きの風景に見えるが、実際には冬と夏の花を並べている。

時は右から左へ進むと記録は書く。

そして館は、描き分けについても一行を添えている。

松と竹は墨の刷きで形づくられ、花は輪郭線の中の色によって形をなす。

館の記録は、そう説明している。

つまり白い花だけが、線と色で作られている。

そして金の地の上では、白はよく目立つ。

金は明るいが、色としては黄に寄る。

その上に置かれた白は、冷たく見える。

もし紙の地のままなら、白い花は輪郭線でしか示せない。

金を敷いたことで、白が色として成り立っている。

さらに館は、時の進み方についても書いている。

右から左へ、冬から夏へ移る。

つまり白い椿は、この一双の始まりに置かれている。