花は、置かれる場所が決まっている——器・縁・隙間・頭の上ほか九点
花は、絵のなかでほとんど主役にならない。器の腹、皿の縁、布の端、頭の上。置かれる場所が決まっている。九点で、その六つの位置を数えたい。題に花の語が入るのは、二点だけである。描かれた花の数と色も、あわせて数えたい。

花は、どこに置かれるか
前の回で、扇を見た。
開けば面になり、閉じれば棒になる道具だった。
今回は花である。
花は、絵のなかでほとんど主役にならない。
置かれるものである。
そして、置かれる場所が決まっている。
器の腹、皿の縁、布の端、頭の上。
九点を並べて、その置き場所を数えたい。
花そのものを主題にした絵も、そのなかに混ぜる。

濃い青の花瓶である。
高さは二三・七センチ。
胴が丸く、首が細く長い。
首の両側に、細い把手が立ち上がる。
把手は金色である。
そして、青い胴に金と白の花が描かれている。
菊のような花である。
茎が細い線で伸び、葉が数枚つく。
花は三つほど。
配置は左右対称ではない。
一つが大きく前に出て、残りが後ろに回る。
首の上のほうにも、小さな花が散る。
つまり、この花は器の表面に置かれている。
生けられているのではない。
描かれているのである。
花瓶なのに、花が外側にある。
この作り方は珍しくない。
第十六回で、器の装飾について書いた。
器の表面は、絵を置く場所として扱われてきた。
そして、花はその装飾のうち最も多い主題である。
理由は単純だろう。
丸い胴に、丸い形がよく合う。
そして、茎と葉が曲面に沿って伸ばせる。
花だけを描く

細長い版画である。
三七・八掛ける一二・九センチ。
縦横の比は、およそ三対一である。
短冊の形といってよい。
そして、画面には花だけがある。
背景は淡い黄土色で、何も描かれていない。
下から二本の茎が伸びる。
一本は白い小花の集まりで、上に広がる。
もう一本は赤い花で、中ほどに開く。
赤い花は二つ。
一つは正面を向き、一つは横を向いている。
葉は細長く、対になってつく。
つまり、この画面は花のためだけにある。
置かれているのではなく、立っている。
そして、右上に字が入る。
館の記録では、これは詩である。
版画には、しばしばこの形式がある。
花の絵に短い詩を添える。
第九回で、詩と絵の関係について書いた。
字が絵の余白を埋める働きをする。
この一点でも、字は右上の空いた部分にある。
花の茎は左下から右上へ伸びる。
その線と、字の列が並行にならない。
だから、画面がぶつからない。
透かしの中の花

刀の鐔である。
丸い金色の板に、四角い形が重なる。
板の中央に、縦長の穴がある。
これは刀身を通す穴である。
第十八回で書いたとおり、この穴の形は決まっている。
そして、その両側に小さな穴が二つ。
小柄と笄を通すための穴である。
装飾は、四角い区画に分かれている。
上の区画には、松のような枝がある。
下の区画には、細かい格子の文様が広がる。
中央の縦長の区画には、字が入る。
館の記録によれば、これは作者の銘である。
そして、右側にも字がある。
つまり、この鐔は花よりも字と幾何学が主である。
花は、上と右の区画に小さく入るだけである。
菊のような形が、枝の先に開く。
大きさは、板全体の十分の一もない。
だが、置かれている場所が重要である。
区画の隅、字のとなり。
空いた面積を埋める働きをしている。
第十八回で、刀装具の意匠について何度か書いた。
小さな面に、限られた図を配る。
そのとき、花は隙間に入れやすい形である。
丸くて、大きさを変えられる。
そして、どんな主題とも並べられる。
死んだ鳥のとなりの花

大きな油彩である。
一三四掛ける一一一・一センチ。
人の上半身ほどの大きさがある。
画面の下半分に、死んだ鳥が積まれている。
大きな灰色の鳥が中央にいる。
首が長く、脚が細い。
館の記録では、鷺である。
その周りに、小さな鳥が数羽ころがる。
翼が開いたままのもの、腹を見せるもの。
背後には石の柱が立つ。
柱には浮彫がある。
そして、その足もとに花がある。
橙色の花が二つか三つ。
緑の葉に囲まれて咲いている。
死んだ鳥のすぐとなりである。
つまり、生きているものと死んだものが並ぶ。
この対比は意図されたものだろう。
第十四回で、静物画の主題について書いた。
死んだ獲物を描く形式が、十七世紀のオランダにあった。
そして、そこに花や果物を添える。
置き方も決まっている。
獲物は下に、花は横か後ろに。
この一点でも、花は左の縁に寄っている。
主役ではない。
だが、暗い色の鳥の山に対して、明るい色を入れる。
画面のなかで、目を止める役をしている。
布の縁を埋める花

刺繍の見本布である。
四三・二掛ける三六・八センチ。
全体が赤茶色で、地は淡い。
上部に大きな字が並ぶ。
その下に、文章が数行続く。
館の記録によれば、作者は一八一七年ごろの生まれである。
つまり、これを作ったとき六歳ほどである。
下部には、赤い建物が刺されている。
窓が並び、屋根がある。
そして、その周りに小さな図が散る。
木、鳥、人、そして花である。
花は、画面の四隅と縁に多い。
上の左右に、鉢に入った花がある。
左右の端には、細い茎の花が縦に並ぶ。
下の隅にも、小さな花がある。
つまり、花は縁を埋めるために置かれている。
中央は字と建物のものである。
花はその外側を囲む。
この配置は、この形式の決まりに近い。
第十六回で、縁飾りについて書いた。
四角い画面の外周を、繰り返しの図で囲む。
そのとき、花は最も使いやすい単位になる。
小さく、対称に近く、色を変えられる。