作品を知る

花は、置かれる場所が決まっている——器・縁・隙間・頭の上ほか九点

花は、絵のなかでほとんど主役にならない。器の腹、皿の縁、布の端、頭の上。置かれる場所が決まっている。九点で、その六つの位置を数えたい。題に花の語が入るのは、二点だけである。描かれた花の数と色も、あわせて数えたい。

花瓶
グリーンウッド・ポッタリー・カンパニー《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

花は、どこに置かれるか

前の回で、扇を見た。

開けば面になり、閉じれば棒になる道具だった。

今回は花である。

花は、絵のなかでほとんど主役にならない。

置かれるものである。

そして、置かれる場所が決まっている。

器の腹、皿の縁、布の端、頭の上。

九点を並べて、その置き場所を数えたい。

花そのものを主題にした絵も、そのなかに混ぜる。

花瓶
グリーンウッド・ポッタリー・カンパニー《花瓶》1883年から1886年ごろ。館の記録では、磁器。高さ23.7センチ。番号は1991.327。メトロポリタン美術館蔵。グリーンウッド・ポッタリー・カンパニー《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

濃い青の花瓶である。

高さは二三・七センチ。

胴が丸く、首が細く長い。

首の両側に、細い把手が立ち上がる。

把手は金色である。

そして、青い胴に金と白の花が描かれている。

菊のような花である。

茎が細い線で伸び、葉が数枚つく。

花は三つほど。

配置は左右対称ではない。

一つが大きく前に出て、残りが後ろに回る。

首の上のほうにも、小さな花が散る。

つまり、この花は器の表面に置かれている。

生けられているのではない。

描かれているのである。

花瓶なのに、花が外側にある。

この作り方は珍しくない。

第十六回で、器の装飾について書いた。

器の表面は、絵を置く場所として扱われてきた。

そして、花はその装飾のうち最も多い主題である。

理由は単純だろう。

丸い胴に、丸い形がよく合う。

そして、茎と葉が曲面に沿って伸ばせる。

花だけを描く

みごとな撫子と唐藤袴
歌川広重《みごとな撫子と唐藤袴》1836年ごろ。館の記録では、木版画。紙に墨と色。全体37.8×12.9センチ。番号はJP243。メトロポリタン美術館蔵。歌川広重《みごとな撫子と唐藤袴》メトロポリタン美術館蔵

細長い版画である。

三七・八掛ける一二・九センチ。

縦横の比は、およそ三対一である。

短冊の形といってよい。

そして、画面には花だけがある。

背景は淡い黄土色で、何も描かれていない。

下から二本の茎が伸びる。

一本は白い小花の集まりで、上に広がる。

もう一本は赤い花で、中ほどに開く。

赤い花は二つ。

一つは正面を向き、一つは横を向いている。

葉は細長く、対になってつく。

つまり、この画面は花のためだけにある。

置かれているのではなく、立っている。

そして、右上に字が入る。

館の記録では、これは詩である。

版画には、しばしばこの形式がある。

花の絵に短い詩を添える。

第九回で、詩と絵の関係について書いた。

字が絵の余白を埋める働きをする。

この一点でも、字は右上の空いた部分にある。

花の茎は左下から右上へ伸びる。

その線と、字の列が並行にならない。

だから、画面がぶつからない。

透かしの中の花

鐔
梅龍軒清辰《鐔》18世紀後半。館の記録では、鉄、金、赤銅。高さ8.3センチ、幅7.6センチ、厚さ0.5センチ、重さ104.9グラム。番号は29.100.1045。メトロポリタン美術館蔵。梅龍軒清辰《》メトロポリタン美術館蔵

刀の鐔である。

丸い金色の板に、四角い形が重なる。

板の中央に、縦長の穴がある。

これは刀身を通す穴である。

第十八回で書いたとおり、この穴の形は決まっている。

そして、その両側に小さな穴が二つ。

小柄と笄を通すための穴である。

装飾は、四角い区画に分かれている。

上の区画には、松のような枝がある。

下の区画には、細かい格子の文様が広がる。

中央の縦長の区画には、字が入る。

館の記録によれば、これは作者の銘である。

そして、右側にも字がある。

つまり、この鐔は花よりも字と幾何学が主である。

花は、上と右の区画に小さく入るだけである。

菊のような形が、枝の先に開く。

大きさは、板全体の十分の一もない。

だが、置かれている場所が重要である。

区画の隅、字のとなり。

空いた面積を埋める働きをしている。

第十八回で、刀装具の意匠について何度か書いた。

小さな面に、限られた図を配る。

そのとき、花は隙間に入れやすい形である。

丸くて、大きさを変えられる。

そして、どんな主題とも並べられる。

死んだ鳥のとなりの花

死んだ鷺のいる獲物図
ヤン・ウェーニクス《死んだ鷺のいる獲物図》1695年。館の記録では、カンヴァスに油彩。134×111.1センチ。番号は50.55。メトロポリタン美術館蔵。ヤン・ウェーニクス《死んだ鷺のいる獲物図》メトロポリタン美術館蔵

大きな油彩である。

一三四掛ける一一一・一センチ。

人の上半身ほどの大きさがある。

画面の下半分に、死んだ鳥が積まれている。

大きな灰色の鳥が中央にいる。

首が長く、脚が細い。

館の記録では、鷺である。

その周りに、小さな鳥が数羽ころがる。

翼が開いたままのもの、腹を見せるもの。

背後には石の柱が立つ。

柱には浮彫がある。

そして、その足もとに花がある。

橙色の花が二つか三つ。

緑の葉に囲まれて咲いている。

死んだ鳥のすぐとなりである。

つまり、生きているものと死んだものが並ぶ。

この対比は意図されたものだろう。

第十四回で、静物画の主題について書いた。

死んだ獲物を描く形式が、十七世紀のオランダにあった。

そして、そこに花や果物を添える。

置き方も決まっている。

獲物は下に、花は横か後ろに。

この一点でも、花は左の縁に寄っている。

主役ではない。

だが、暗い色の鳥の山に対して、明るい色を入れる。

画面のなかで、目を止める役をしている。

布の縁を埋める花

刺繍見本
ハリオット・ケイツ《刺繍見本》1823年。館の記録では、羊毛地に絹糸の刺繍。43.2×36.8センチ。番号は1984.331.24。メトロポリタン美術館蔵。ハリオット・ケイツ《刺繍見本》メトロポリタン美術館蔵

刺繍の見本布である。

四三・二掛ける三六・八センチ。

全体が赤茶色で、地は淡い。

上部に大きな字が並ぶ。

その下に、文章が数行続く。

館の記録によれば、作者は一八一七年ごろの生まれである。

つまり、これを作ったとき六歳ほどである。

下部には、赤い建物が刺されている。

窓が並び、屋根がある。

そして、その周りに小さな図が散る。

木、鳥、人、そして花である。

花は、画面の四隅と縁に多い。

上の左右に、鉢に入った花がある。

左右の端には、細い茎の花が縦に並ぶ。

下の隅にも、小さな花がある。

つまり、花は縁を埋めるために置かれている。

中央は字と建物のものである。

花はその外側を囲む。

この配置は、この形式の決まりに近い。

第十六回で、縁飾りについて書いた。

四角い画面の外周を、繰り返しの図で囲む。

そのとき、花は最も使いやすい単位になる。

小さく、対称に近く、色を変えられる。