馬は、横から見なければ馬に見えない——ドガ・メソニエ・北斎ほか九点

版画である。
二一・六掛ける一六・五センチ。
小さい。
画面の上部が、桃色に染まる。
そして、その下に文字がある。
館の記録では、詩である。
右上に、題の札が刷られている。
画面には、川がある。
水色の帯が、横に走る。
その手前と向こうに、緑の土手がある。
木が二本、大きく描かれている。
葉が黒い塊になっている。
そして、道がある。
土手の下を、左から右へ伸びる。
その道に、人と馬がいる。
馬は一頭である。
真横を向いている。
背に、赤い荷を積んでいる。
そして、人が二人ほど、そばにいる。
つまり、荷を運んでいる場面である。
馬は小さく描かれる。
画面の高さの十分の一もない。
第九回で、風景のなかの人物の大きさについて書いた。
小さく描くほど、風景が広く見える。
そして、小さく描くときこそ、真横が要る。
正面では、何の動物か分からなくなる。
真横なら、輪郭だけで馬と読める。
首の傾き、胴の長さ、四本の脚。
その形が、遠目にも馬を示す。
道を行く列

横長の版画である。
二五・一掛ける三七・五センチ。
前の一点より、ずっと大きい。
画面の上部に、山が二つある。
左の山は、桃色と茶色である。
険しく、尖っている。
右の山は、青と白である。
館の記録の題によれば、これが富士である。
裏から見た富士、という題である。
第九回で、この連作について書いた。
同じ山を、各地から描き分ける。
そして、山の見え方が場所を示す。
画面の下半分に、崖と道がある。
崖は緑と茶色である。
木が数本、生えている。
道は、左下から右へ伸びる。
そこに、人と馬の列がいる。
馬は二頭か三頭。
いずれも真横を向く。
荷を負っている。
人は、その前後を歩く。
そして、いずれも非常に小さい。
指の先ほどしかない。
つまり、前の一点と同じ扱いである。
風景が主で、馬は添えである。
だが、道の存在を示す役をしている。
道だけを描いても、それが道と分からない。
そこを人と馬が歩けば、道になる。
第九回で、風景に人を入れる理由について書いた。
大きさの目安になり、通り道を示す。
戦う騎馬

前の回でも、この素描帖を見た。
同じ帖の、また別の一葉である。
番号の枝番が違う。
二二・九掛ける二九・二センチ。
紙は灰色に見える。
インクの細い線だけである。
一枚に、多くの図が散らばる。
中央に、二頭の馬がいる。
向かい合っている。
一頭は左を向き、一頭は右を向く。
つまり、どちらも真横である。
前脚を上げている。
そして、乗り手が武器を交える。
館の記録の題が、戦う騎馬と言っている。
左のほうにも、馬らしい形がある。
そして、上部と右に、人物の素描が並ぶ。
腕を上げる者、身をかがめる者。
線が少なく、輪郭だけである。
つまり、これは構図を試している紙である。
第十七回で、素描帖の役割について書いた。
思いついた形を、その場で書き留める。
そして、戦う場面は真横で描かれる。
二頭が向き合うには、両方が横を向くほかない。
一方が正面なら、対決の形にならない。
つまり、向きが場面の意味を作っている。
向きを数える
七点の絵で、馬の向きを数えたい。
真横が、五点である。
戦士と馬の一点。
十頭が並ぶ一点。
荷を負う一点。
道を行く列の一点。
そして、戦う騎馬の一点。
斜め横が、一点である。
三人の騎手の一点。
三頭のうち一頭が真横で、残る二頭が斜めである。
そして、正面が一点。
将軍と副官の一点である。
つまり、七点のうち五点が真横である。
割合にして七割を超える。
これは偶然ではないだろう。
第五回で、輪郭の読みやすさについて書いた。
真横から見た馬は、輪郭だけで馬と分かる。
首が前へ伸び、胴が長く、脚が四本ある。
正面から見ると、この形が消える。
胴が隠れ、脚が二本しか見えない。
そして、顔が細長い塊になる。
つまり、馬は横から見なければ馬に見えない。
犬も、鳥も、同じ性質を持つ。
四本足の動物は、たいてい横向きで描かれる。
正面から作る

ここから、絵ではなくなる。
馬の頭を守る防具である。
高さ五四・六センチ。
幅二三・五センチ。
重さ八七八・八グラム。
一キロ足らずである。
鋼の板を、馬の顔の形に打ち出してある。
上部が広く、下へ細くなる。
中央に、稜が縦に走る。
つまり、鼻筋である。
上のほうに、目のための開口がある。
丸く縁取られている。
その上に、耳を覆う部分がある。
半円の板が二枚、突き出る。
そして、板の縁に小さな穴が並ぶ。
革紐を通して、頭に留めるためだろう。
館の写真は、正面から撮っている。
つまり、この品は正面から見るものである。
絵の馬は横を向いていた。
だが、防具は正面の形を持つ。
理由ははっきりしている。
これは敵と向き合う道具だからである。
前から来る打撃を受ける。
第十八回で、防具の形について書いた。
守る面が、正面に来るように作られる。
そして、正面から見た馬の顔は、細長い。
だから、この防具も細長い。
幅が二三・五センチしかない。
高さの半分にも満たない。