窯に、委ねる——アメリカの美術陶器
借りることと、写すこと
参照の仕方についても書いておきたい。型をそのまま写せば、模倣になる。
要素を取り出して組み替えれば、別のものになる。
この花瓶は、地の押し文と花の配置を借りている。しかし器の形は西洋のものである。
浮世絵が西洋の絵に何をもたらしたかは、
別のコラムで扱った。
陶器でも、同じ時期に同じことが起きている。
単色の釉を、並べる
もう一点、同じ窯を見たい。

公開画像には、三つの器が写っている。
左は緑、中央は濃い青、右は淡い緑である。いずれも首が細く、胴が丸い。
文様はない。釉の色だけで作られている。
記録の寸法は一点分である。つまり、画像には複数の器が写り、記録は一点を指している。
同じ形で色だけを変えた組だと考えられる。
記録と画像が、ずれること
ここは注意したい。画像に複数写っていても、記録は一点を指す場合がある。
どれが記録された一点かは、画像だけでは決められない。
つまり、画像と記録は必ずしも一対一ではない。
比べるときは、記録の寸法と画像の見え方を突き合わせたい。
三つ目の窯
窯をもう一つ見たい。

縦長の器である。高さ27.5センチ。
胴は下がふくらみ、上が細くすぼまる。口は外へ開く。
釉は赤である。濃い赤の上に、白と灰色が縦に流れている。
流れは上から下へ、重力に沿っている。つまり、焼成中に釉が溶けて垂れた跡である。
流れる釉
技法の名前にも触れておきたい。焼成中に溶けて流れる釉は、意図的に使われる。
垂れ方は、釉の厚み、温度、器の傾きで変わる。
つまり、同じ調合でも一点ごとに模様が違う。
再現できない模様を、あえて主題にしている。
同じ窯の、水注
もう一点を見たい。

丸い胴の器である。高さ15.6センチ。
左に取っ手が付き、上端から胴へ弧を描いて下りる。
注ぎ口は、口の縁を外へ引き出した形である。
釉は赤紫で、斑になっている。濃い部分と薄い部分が入り混じる。
内側は白い。つまり、外と内で釉を変えている。
内と外を、変える理由
実用の面からも考えたい。器の内側は、水や食品に触れる。
だから、内側には安定した白い釉を掛ける。
外側は、見せるための面である。だから実験的な釉を使う。
つまり、一つの器の中で用途と装飾が分けられている。
三つの窯を、並べる
ここで整理したい。チェルシーは、文様と単色釉を追った。
デダムは、流れる釉の効果を使った。
オアは、形そのものを崩した。
つまり三つの窯は、それぞれ別の方向で「工場と違うもの」を作っている。
誰が買ったのか
需要についても触れておきたい。手作りの器は、量産品より高い。
つまり買い手は、限られた層である。
19世紀末の欧米では、手工芸を評価する動きがあった。工場製品への反発である。
美術陶器は、その流れの中で市場を得た。
ただし、当サイトの公開分に価格の記録は含まれていない。
器は、いつ美術館に入ったか
収蔵の経緯も見ておきたい。公開分の記録には、寄託や寄贈の番号が並ぶ。
つまり、収集家の手を経て館に入っている。
日用品として作られた器が、収集の対象になり、やがて美術館に収まる。
家具が美術館に入る事情については、
別のコラムで扱った。
陶器でも、同じ道筋をたどっている。
見立て——失敗の可能性を、作品に含める
ここまでを整理したい。手工の陶器では、結果が完全には決まらない。
釉は流れ、色は変わり、形は歪む。
その不確かさを排除するのが工場の技術である。
逆に、不確かさを取り込むのが、これらの窯の方法である。
つまり同じ「よく作る」でも、目指す方向が正反対である。
一点物と、量産品
もう一点、書いておきたい。一点物には「同じものがない」という価値がある。
量産品には「同じものがある」という価値がある。
割れたときに買い直せるのは、後者である。
どちらが優れているという話ではない。用途と場面で選ばれる。
七十八点の内訳
公開分の構成も確かめておきたい。三つの窯を合わせて78点。
花瓶が中心で、鉢、水注、皿が続く。
制作年は1877年ごろから1910年ごろに集まる。三十年ほどの幅である。
つまり、アメリカの美術陶器が広がった時期にあたる。
暮らしへ——同じ器を、二つ並べる
家でできることを書いておきたい。家にある器を二つ、並べてみてほしい。
同じ工場の同じ品なら、寸法も色もほぼ同じである。
手作りの器なら、必ず違いがある。厚み、色、縁の形。
どちらが好きかを決める必要はない。違いがあることを確かめるだけでよい。
群として見ると、方針が見える
最後に、見方をまとめておきたい。78点を窯ごとに分けてみる。
そのうえで、文様の有無、釉の種類、形の規則性で分類する。
窯ごとの方針が、はっきり分かれてくる。
公開画像は、そのための道具である。並べ替える作業は、画面の上でできる。
そして、分けた結果は書き留めておきたい。釉の名前は、覚えにくい。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
窯の温度と、色
技術についてもう少し補いたい。釉の発色は、温度と炉内の空気で変わる。
酸素の多い状態で焼くか、少ない状態で焼くかによって、同じ銅でも緑にも赤にもなる。
つまり、窯の操作そのものが色の設計である。
作り手は、温度計のない時代に炎の色で判断していた。
経験が、そのまま技術になる。