美術史・技法

窯に、委ねる——アメリカの美術陶器

口をつぶした花瓶、素焼きのまま残した鉢、流れる釉。19世紀末アメリカの三つの窯は、工場と違うものを別々の方向で作った。九点を並べ、偶然を作品に含める方法を読む。日本の器の参照にも触れる。底の印が画像から読めない問題にも触れておきたい。

花瓶
ジョージ・E・オーア《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

口が、つぶされている

一点の器から始めたい。

花瓶
ジョージ・E・オア《花瓶》1897〜1900年ごろ。陶器。高さ13センチ、径13.3センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・E・オーア《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

小さな器である。高さ13センチ、径13.3センチ。片手で持てる。

形が変わっている。丸い胴の上部が、内側へ折り込まれている。

口は円ではない。二か所が中央へ寄り、間に細い隙間が残る。

つまり、成形したあとで手を加えて潰している。

轆轤で挽いた円形を、あえて崩している。

釉が、二色に分かれている

表面も見たい。器の右半分は、淡い桃色である。

左半分は、青と褐色が混ざる。境目は溶けている。

つまり、二種類の釉が窯の中で混ざり合っている。

同じ器の中で、色が場所によって違う。

これは狙って作れる部分と、窯任せの部分の両方を含んでいる。

問い——手工の器は、何を目指したのか

ここで問いを立てたい。19世紀後半のアメリカでは、陶器は工場で大量に作られていた。

型で成形し、同じ形を何千個も作る。

その一方で、一点ずつ手で作る窯が現れる。

なぜ、あえて効率の悪い方法を選んだのか。

当サイトには、この時期のアメリカの窯の作品が数多く公開されている。

チェルシー・ケラミック・アート・ワークスが41点、ジョージ・E・オアが24点、
デダム・ポタリーが13点である。

三つの窯を並べて確かめたい。

素焼きのまま、残す

まず、同じ作者の別の器を見たい。

鉢
ジョージ・E・オア《鉢》1898〜1910年ごろ。陶器。高さ12.7センチ、径15.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・E・オーア《》メトロポリタン美術館蔵

こちらには釉が掛かっていない。

表面は粘土の色そのままである。淡い橙褐色で、焼き上がりの肌が見える。

形はさらに大胆である。円い胴の上部が、三か所で内へ折り返される。

折り返した縁が重なり、渦のような形を作る。

厚みは非常に薄い。光の当たり方で、縁が透けて見えそうなほどである。

つまり、薄く挽く技術と、崩す手つきの両方が必要である。

薄く挽くという技術

技術について補いたい。轆轤で薄く挽くほど、器は壊れやすくなる。

乾燥中に割れ、焼成中に歪む。

つまり、薄さそのものが技術の証明になる。

そのうえで形を潰すのだから、失敗の危険はさらに増す。

見た目の奇抜さの裏に、確かな技術がある。

潰した水注

もう一点、同じ窯を見たい。

水注
ジョージ・E・オア《水注》1898〜1910年ごろ。陶器。高さ9.2センチ、幅14.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・E・オーア《水注》メトロポリタン美術館蔵

横に広い器である。高さ9.2センチ、幅14.6センチ。

胴が押しつぶされ、上から見ると楕円になっている。

注ぎ口が高く伸び、その反対側に取っ手が付く。

取っ手は角ばった形で、指をかける穴が四角い。

釉は金属のような光沢を持つ。褐色、緑、黒が混ざる。

つまり、形も釉も一つとして同じにならない。

一点ずつ違うということ

量産との差を整理したい。工場では、同じ型から同じ器が出る。

この窯では、一点ずつ形が違う。

つまり、買う側は「同じものをもう一つ」と言えない。

同じ機能の器が、別のコラムでは作法によって形を決めていた。

ここでは、作り手の判断が形を決めている。

赤い釉の花瓶

もう一点、色を見たい。

花瓶
ジョージ・E・オア《花瓶》1897〜1900年ごろ。陶器。高さ15.6センチ、径11.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・E・オーア《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

縦長の器である。高さ15.6センチ。

胴の下半分は、鮮やかな赤である。表面に凹凸があり、指で押した跡のように見える。

上半分は、赤の上に緑と青が流れている。

口の縁は波打ち、細かく折られている。

つまり、縁の造形と釉の流れが、両方とも不規則である。

釉は、どこまで制御できるか

技術の限界にも触れておきたい。釉は、窯の温度と雰囲気で色が変わる。

同じ調合でも、置いた場所によって発色が違う。

つまり、完全な制御はできない。

作り手は、条件を整えて確率を上げる。あとは窯に委ねる。

偶然を含む工程は、他の分野にも見られる。

別の窯——浮き文様の器

窯を変えて見たい。

鉢
チェルシー・ケラミック・アート・ワークス《鉢》1877〜1885年ごろ。陶器。高さ10.3センチ、径20.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。チェルシー・ケラミック・アート・ワークス《》メトロポリタン美術館蔵

平たい鉢である。高さ10.3センチ、径20.5センチ。

胴の外側に、蔓草の文様が浮き出ている。葉と茎が渦を巻く。

文様は彫られたのではなく、押し出されている。型を当てるか、貼り付けるかである。

釉は青である。濃い部分と薄い部分があり、文様の窪みで濃くなる。

上部には浅い受け皿のような部分があり、内側は水色である。

底には三つの小さな足が付く。

装飾を、彫るか、盛るか

技法の違いに触れておきたい。文様を作る方法は、大きく二つある。

表面を削って窪ませるか、粘土を盛って出っ張らせるか。

この鉢は後者である。盛った部分に釉が薄く掛かり、色が淡くなる。

つまり、釉の濃淡が文様を強調している。

形と色が、同じ工程で連動している。

日本の意匠を、参照する

もう一点、同じ窯を見たい。

花瓶
チェルシー・ケラミック・アート・ワークス《花瓶》1877〜1884年ごろ。陶器。高さ32.1センチ、径12.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。チェルシー・ケラミック・アート・ワークス《花瓶》メトロポリタン美術館蔵

縦長の器である。高さ32.1センチ。首が細く長い。

胴の表面には、細かい格子状の押し文がある。全面に規則的に並ぶ。

その上に、菊のような花が浮き出ている。茎と葉が縦に伸びる。

釉は橄欖色である。全体が同じ色で、文様の縁だけ淡い。

この意匠は、日本の陶磁器や金工の型に近い。

19世紀後半の欧米では、日本の意匠が広く参照された。