窯に、委ねる——アメリカの美術陶器
口をつぶした花瓶、素焼きのまま残した鉢、流れる釉。19世紀末アメリカの三つの窯は、工場と違うものを別々の方向で作った。九点を並べ、偶然を作品に含める方法を読む。日本の器の参照にも触れる。底の印が画像から読めない問題にも触れておきたい。

口が、つぶされている
一点の器から始めたい。

小さな器である。高さ13センチ、径13.3センチ。片手で持てる。
形が変わっている。丸い胴の上部が、内側へ折り込まれている。
口は円ではない。二か所が中央へ寄り、間に細い隙間が残る。
つまり、成形したあとで手を加えて潰している。
轆轤で挽いた円形を、あえて崩している。
釉が、二色に分かれている
表面も見たい。器の右半分は、淡い桃色である。
左半分は、青と褐色が混ざる。境目は溶けている。
つまり、二種類の釉が窯の中で混ざり合っている。
同じ器の中で、色が場所によって違う。
これは狙って作れる部分と、窯任せの部分の両方を含んでいる。
問い——手工の器は、何を目指したのか
ここで問いを立てたい。19世紀後半のアメリカでは、陶器は工場で大量に作られていた。
型で成形し、同じ形を何千個も作る。
その一方で、一点ずつ手で作る窯が現れる。
なぜ、あえて効率の悪い方法を選んだのか。
当サイトには、この時期のアメリカの窯の作品が数多く公開されている。
チェルシー・ケラミック・アート・ワークスが41点、ジョージ・E・オアが24点、
デダム・ポタリーが13点である。
三つの窯を並べて確かめたい。
素焼きのまま、残す
まず、同じ作者の別の器を見たい。

こちらには釉が掛かっていない。
表面は粘土の色そのままである。淡い橙褐色で、焼き上がりの肌が見える。
形はさらに大胆である。円い胴の上部が、三か所で内へ折り返される。
折り返した縁が重なり、渦のような形を作る。
厚みは非常に薄い。光の当たり方で、縁が透けて見えそうなほどである。
つまり、薄く挽く技術と、崩す手つきの両方が必要である。
薄く挽くという技術
技術について補いたい。轆轤で薄く挽くほど、器は壊れやすくなる。
乾燥中に割れ、焼成中に歪む。
つまり、薄さそのものが技術の証明になる。
そのうえで形を潰すのだから、失敗の危険はさらに増す。
見た目の奇抜さの裏に、確かな技術がある。
潰した水注
もう一点、同じ窯を見たい。

横に広い器である。高さ9.2センチ、幅14.6センチ。
胴が押しつぶされ、上から見ると楕円になっている。
注ぎ口が高く伸び、その反対側に取っ手が付く。
取っ手は角ばった形で、指をかける穴が四角い。
釉は金属のような光沢を持つ。褐色、緑、黒が混ざる。
つまり、形も釉も一つとして同じにならない。
一点ずつ違うということ
量産との差を整理したい。工場では、同じ型から同じ器が出る。
この窯では、一点ずつ形が違う。
つまり、買う側は「同じものをもう一つ」と言えない。
同じ機能の器が、別のコラムでは作法によって形を決めていた。
ここでは、作り手の判断が形を決めている。
赤い釉の花瓶
もう一点、色を見たい。

縦長の器である。高さ15.6センチ。
胴の下半分は、鮮やかな赤である。表面に凹凸があり、指で押した跡のように見える。
上半分は、赤の上に緑と青が流れている。
口の縁は波打ち、細かく折られている。
つまり、縁の造形と釉の流れが、両方とも不規則である。
釉は、どこまで制御できるか
技術の限界にも触れておきたい。釉は、窯の温度と雰囲気で色が変わる。
同じ調合でも、置いた場所によって発色が違う。
つまり、完全な制御はできない。
作り手は、条件を整えて確率を上げる。あとは窯に委ねる。
偶然を含む工程は、他の分野にも見られる。
別の窯——浮き文様の器
窯を変えて見たい。

平たい鉢である。高さ10.3センチ、径20.5センチ。
胴の外側に、蔓草の文様が浮き出ている。葉と茎が渦を巻く。
文様は彫られたのではなく、押し出されている。型を当てるか、貼り付けるかである。
釉は青である。濃い部分と薄い部分があり、文様の窪みで濃くなる。
上部には浅い受け皿のような部分があり、内側は水色である。
底には三つの小さな足が付く。
装飾を、彫るか、盛るか
技法の違いに触れておきたい。文様を作る方法は、大きく二つある。
表面を削って窪ませるか、粘土を盛って出っ張らせるか。
この鉢は後者である。盛った部分に釉が薄く掛かり、色が淡くなる。
つまり、釉の濃淡が文様を強調している。
形と色が、同じ工程で連動している。
日本の意匠を、参照する
もう一点、同じ窯を見たい。

縦長の器である。高さ32.1センチ。首が細く長い。
胴の表面には、細かい格子状の押し文がある。全面に規則的に並ぶ。
その上に、菊のような花が浮き出ている。茎と葉が縦に伸びる。
釉は橄欖色である。全体が同じ色で、文様の縁だけ淡い。
この意匠は、日本の陶磁器や金工の型に近い。
19世紀後半の欧米では、日本の意匠が広く参照された。