真鍮は、金の位置に立つ——湯萬亨・ファベルジェ・ドゥフェネクほか九点

上半身だけの甲冑である。
全体は31.7×27.7×21.6センチである。
兜は丸く、面覆いが下りている。
面覆いには、細い隙間が横に開く。
胸当ては中央が前へ突き出る。
肩から腕にかけて、細い板が何枚も重なる。
板と板のあいだから、赤い布がのぞく。
布は花びらのような形に切られている。
手甲は指の関節ごとに分かれる。
表面は銀色に光る。
そこに、細い帯状の彫りが縦に走る。
彫りの中は、わずかに暗い。
板を留める鋲は、小さな黄色い点として並ぶ。
点は等間隔で、輪郭に沿って続く。
数は数十に及ぶ。
一つ一つは、直径が数ミリしかない。
しかし黄色いので、銀色の面の上でよく見える。
館の記録では、この甲冑は徒歩の試合のために作られた。
徒歩の試合は、馬上の槍試合とは別の競技である。
多くは仕切りを挟んで戦い、脚は仕切りに守られた。
だから、この半甲冑で十分だった。
もとの持ち主は、これに色鮮やかな膨らんだ半ズボンと靴下を合わせていた。
そして館は、付属品について書いている。
大きな駝鳥の羽根飾りや、鋼の板のあいだの赤いビロードの飾り布が、さらに華やかさを加えた。
兜の後ろには、真鍮の羽根挿しが見えるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり真鍮は、鋲と、羽根を挿す筒である。
どちらも、なければ甲冑が成立しない部品である。
鋲がなければ、板は重ならない。
羽根挿しがなければ、飾りは立たない。
量で言えば、全体の一割にも満たない。
甲冑が衣裳でもあったことは、衣裳としての甲冑で扱った。
真鍮の帯が、金めっきの下にある
五点目も甲冑である。

胴と両腕だけが残る。
高さは61センチ、重さは17.7キロある。
胸当ては銀色で、中央に細い稜がある。
その左右に、金色の帯が縦に走る。
帯の中には、細かい文様が彫られている。
肩の防具は大きく、外へ張り出す。
肩から肘、肘から手首へと、板が続く。
板の縁にも、金色の帯が回る。
金と銀が、交互に並ぶ。
金色の帯は、幅がおよそ指一本ぶんある。
銀色の面のほうが、面積は広い。
腰の下には、赤みの布が見える。
首の部分は空で、兜がない。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
材料の欄には、鋼、真鍮、金めっき、革、絹ビロードとある。
つまり金色の帯は、金めっきである。
そして真鍮は、別の場所にある。
鋲か、留め具か、金具である。
見えているのは金で、真鍮ではない。
九点のうち、真鍮が見えないのは、この一点である。
記録に材料として書かれていなければ、あることも分からない。
見えないものを数えられるのは、記録があるからである。
真鍮が、箱の中で仕事をする
六点目では、真鍮は入れ物の側にある。

小型の短銃である。
全長は22.9センチしかない。
銃身は二本で、上下に重なる。
銃身の長さは10.3センチである。
握りは木で、赤褐色をしている。
握りは下へ向かって大きく曲がる。
木肌には、細かい斑の文様がある。
金属の部分は灰色で、光を鈍く返す。
引き金は小さく、輪に囲まれる。
胴の側面には、四角い部品が付く。
雷管を滑らせる仕組みである。
装飾は、ほとんどない。
金属の面には、細い線が数本刻まれているだけである。
実用のための道具として作られている。
館の記録は、材料を部品ごとに分けて書いている。
銃は鋼と胡桃材と銀。
ケースは桃花心木と真鍮と織物と象牙。
小瓶は象牙、油差しは鋼。
洗い矢は真鍮と鋼である。
つまり真鍮は、ケースの金具と洗い矢に使われている。
銃そのものには入っていない。
つまり真鍮は、道具を収めるための金属である。
蝶番、留め金、角の当て金。
どれも開け閉めに耐える必要がある。
錆びにくいことが、そこで効いてくる。
短銃の対と題の付け方については、対の短銃で扱った。
真鍮の小箱に、写真が十二枚入る
七点目では、真鍮は小さな箱である。

きわめて小さい。
全体は2.7×2×1センチしかない。
形は、旅行鞄をかたどっている。
表面には、留め金と帯が浮き彫りにされている。
角には、補強の当て金の形もある。
上には、細い提げ手が付く。
正面には、文字が二行刻まれている。
色は全体に黄色く、金のように見える。
蓋を開くと、内側が屏風のように広がる。
広がった面には、小さな楕円の写真が並ぶ。
写真は褐色で、人物が写る。
一枚には、二人が並んで立つ。
一枚には、一人が椅子に座る。
一枚には、女性が幼子を抱く。
写真の一枚ずつは、2.3×2センチしかない。
顔の大きさは、数ミリである。
目や口は、点として見えるだけである。
館の記録では、これは高級な土産物である。
ある興行の出演者二人の結婚を記念して作られた。
その結婚は数日にわたって新聞の一面を占めたという。
記念の名刺判写真は何千枚も売れ、この写真家は図像を石版屋やほかの写真家にも使わせた。
一枚では、女性が赤子を抱いている。
その赤子は、撮影のために借りられたものである。
家庭を営む力を示すためだったという。
そしてロケットは小さな旅行鞄の形で、ある小説の題の言葉が刻まれている。
館の記録は、そう説明している。
真鍮でなければ、この形は作れない。
薄く延ばして、細かい形に打ち出せるからである。
銀では高すぎ、鉄では錆びる。
鞄の留め金や当て金まで写すには、細工のしやすさが要る。
九点のうち、真鍮が箱の形をしているのは、この一点である。