美術史・技法

彫るは、深さで語られる——北斎・ギボンズ・ピサーノほか九点

観音菩薩
チューイン・ドルジェ《観音菩薩》1647年から48年、あるいは1658年。館の記録では、象牙。全体は29.2センチ。番号は1968.280。クリーヴランド美術館蔵。第十代黒帽カルマパ、チューイン・ドルジェ《観音菩薩》クリーヴランド美術館蔵

細長い立像である。

全体は29.2センチある。

人物は正面を向いて立つ。

顔は細長い。

顎が尖り、頬が長い。

目は細く、伏せられる。

頭には、高い冠がある。

冠には、細かい飾りが並ぶ。

耳には、大きな輪が下がる。

首から胸へ、飾りが幾重にも掛かる。

上半身は裸である。

右腕は下がり、体に沿う。

左腕は曲がり、胸の高さにある。

その手に、蓮の花を持つ。

腰から下には、布が巻かれる。

布には、細かい襞がある。

足は、蓮の台に乗る。

台の脇に、小さな像がもう一つある。

象牙の色は、淡い黄白である。

下のほうが、やや濃い。

館の記録では、この人はこの地方の仏教の歴史で最も影響力のある指導者の一人だった。

そして館は、その人の技について書いている。

伝記によれば、若いころから彫ることと描くことに才能と情熱があった。

その手による作がいくつか残り、この珍しい象牙の像もその一つであるという。

さらに館は、様式について書いている。

顔の独特の細長さは、この人だけの様式であるという。

館の記録は、そう説明している。

つまり彫る人の名が、宗派の長の名である。

館の記録は、その人が亡命していた時期にも触れている。

遠い土地の美術に触れたことが、様式に表れているという。

この像がその時期の作か、帰国後の作かは決められないという。

九点のうち、作られた時期が二つの候補で書かれるのは、この一点である。

彫刻の材料の欄については、材料の欄で扱った。

木で、果実の房を彫り抜く

五点目は、木の彫刻である。

暖炉上部装飾の彫刻
グリンリング・ギボンズ《暖炉上部装飾の彫刻》1675年から77年ごろ。館の記録では、菩提樹材。番号は1943.654.a。クリーヴランド美術館蔵。グリンリング・ギボンズ《暖炉上部装飾の彫刻》クリーヴランド美術館蔵

横に長い装飾である。

形は、垂れ下がる房である。

房は、いくつもの果実と葉でできる。

果実は丸く、大小がある。

葡萄の粒が、房になって垂れる。

粒は一つずつ彫られる。

粒と粒のあいだには、隙間がある。

隙間の奥まで、彫り抜かれている。

葉は薄く、縁が波打つ。

葉の裏まで、彫られている。

貝の形も、混じる。

貝は殻の筋が細かい。

上のほうには、鳥の羽根らしい形がある。

材の色は、淡い黄褐色である。

面は磨かれ、艶がある。

影が、隙間に深く落ちる。

館の記録は、材料と年代しか書いていない。

説明の欄には、別の記録を見るようにとある。

材料は、菩提樹材である。

この木は、軟らかく、繊維が細かい。

だから、細く彫り抜いても折れにくい。

九点のうち、彫り抜きが深いのは、この一点である。

房の裏側にも、彫りが回る。

壁に掛ければ、見えない面である。

それでも、同じだけ彫られている。

髭に、穴を穿つ

六点目は、石の頭部である。

預言者の頭部
ジョヴァンニ・ピサーノ《預言者の頭部》1300年から1325年ごろ。館の記録では、大理石。全体は31.8×18.6×13.4センチ。番号は1977.181。クリーヴランド美術館蔵。ジョヴァンニ・ピサーノ《預言者の頭部》クリーヴランド美術館蔵

首から上だけの像である。

全体は31.8×18.6×13.4センチある。

顔は正面をやや向く。

額は狭く、眉が張る。

目は大きく、瞳がくぼむ。

鼻は太く、先が欠けている。

頬はこけ、皺が深い。

口は開く。

口の中まで、彫られている。

髭は長く、顎の下で渦を巻く。

髭の毛は、束になって垂れる。

束と束のあいだに、丸い穴がある。

穴は深く、暗い。

錐で開けた穴である。

髪も、同じように渦を巻く。

石の色は、灰白である。

表面には、褐色の染みがある。

首の下は、粗く切られている。

館の記録では、この頭部は、ある彫刻家の工房と結びつく様式の特徴を多く示す。

とくに、心をとらえる顔の繊細な彫りと、際立って穿たれた髭においてそうであるという。

そして館は、こう続けている。

この頭部は、その彫刻家がある大聖堂の棟梁だった時期の彫刻とよく比べられる。

近年の研究では、かつては大聖堂の外に立つ全身の預言者像の一部だったかもしれないという。

館の記録は、そう説明している。

つまり穴が、様式の証拠になっている。

九点のうち、彫りの手法が帰属の根拠なのは、この一点で二点のうちの一点目である。

版画が、彫りを真似る

七点目では、彫りは印刷で真似られる。

シレノスの頭部
アダモ・スクルトーリ《シレノスの頭部》1547年から87年ごろ。館の記録では、エングレーヴィング。版の跡は13.5センチ。番号は2025.137。クリーヴランド美術館蔵。アダモ・スクルトーリ《シレノスの頭部》クリーヴランド美術館蔵

円い版画である。

版の跡は、直径13.5センチである。

画面いっぱいに、顔がある。

顔は正面を向く。

額は広く、皺が三本ある。

眉は太く、上へ跳ねる。

目は大きく、見開かれる。

鼻は太く、丸い。

口は開き、舌が出る。

歯が、上下に見える。

頬はたるみ、深い皺がある。

髭は渦を巻き、頬を囲む。

髪も渦を巻き、外へ広がる。

頭の上には、葉と実の輪がある。

葡萄の房らしい。

顔のまわりは、暗い。

暗さは、細い線を重ねて作られる。

線の密度が、影の深さになる。

輪郭の外側には、余白がない。

館の記録では、この版画は、ある画家が漆喰の装飾のために描いた図案にもとづく。

その図案は、いまは所在が分からないという。

そして館は、描かれた人物について書いている。

この人物は、ある神の教師であった。

大いなる知恵で知られたが、それは酒によって増したという。

そして館は、彫りとの関係を書いている。

濃い明暗と、深く彫り込まれた線の面が、深い影を作る。

その影が、漆喰のような浮き彫りの性質を伝えるという。

館の記録は、そう説明している。

つまり版画の線が、彫りの深さを写している。

実際に彫られたのは、銅の版である。

銅を彫って、漆喰の彫りを写す。

彫ることが、二重になっている。

九点のうち、彫りが二重なのは、この一点である。

貝の彫りが、大理石に移る

八点目は、浅い浮き彫りである。