美術史・技法

彫るは、深さで語られる——北斎・ギボンズ・ピサーノほか九点

深く彫れば影が濃くなり、浅く彫れば面が平らに見える。彫るの九点を数えると、三点で館の記録は彫りの深さや硬さを様式や年代の根拠にしていた。彫る場面は三点だけで、どれも手が止まって見える。一回で削れる量は粉ほどしかない。

彫金師
葛飾北斎《彫金師》メトロポリタン美術館蔵

板の上で、細い鏨が金属に当たる

小さな版画である。

14×19.1センチしかない。

紙は、淡い黄褐色である。

画面の中央に、低い台がある。

台は横に長く、厚みがある。

台の面は、褐色である。

台を挟んで、二人が向かい合う。

右の人は、男である。

黒い羽織を着て、膝をつく。

体は前へかがむ。

顔は下を向き、手元を見る。

右手には、細い棒を持つ。

棒は、槌らしい。

左手には、もっと細いものを持つ。

先が尖り、台の上の小さな物に当たる。

鏨である。

台の上の物は、平たく小さい。

親指ほどしかない。

左の人は、女である。

薄い橙の衣を着て、座る。

体は右を向く。

顔は男のほうへ向く。

手は膝の上にある。

見ているだけである。

背後には、緑の面がある。

衝立らしい。

画面の左と右に、文字が並ぶ。

文字は縦書きで、行が短い。

右上には、四角い枠がある。

枠の中にも、文字がある。

彫金師
葛飾北斎《彫金師》1802年。館の記録では、摺物、紙に墨と色。14×19.1センチ。番号はJP2573。メトロポリタン美術館蔵。葛飾北斎《彫金師》メトロポリタン美術館蔵

館の札には「男性」と「女性」の二つがある。

つまり館は、この一枚を人物の図として登録している。

題だけが、仕事の名を示している。

彫るとは、面を削って形を作ることである。

削った分は、屑になって落ちる。

戻すことはできない。

だから彫る人は、少しずつ進む。

この画家の連作については、未完の連作で扱った。

彫るは、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、彫ることにまつわる九点を数えていく。

彫る対象には、いくつもの材料がある。

木、石、象牙、金属である。

そして彫る道具は、どれも似ている。

槌と、刃の付いた棒である。

先に言ってしまうと、九点のうち、彫っている場面は三点である。

四点は、彫られた物そのものである。

一点では、彫りが版画で真似られている。

そして一点では、彫りの硬さが年代の判断になる。

つまり九点のうち六点で、彫る人は画面にいない。

少年が、十字架像を彫る

二点目も、彫る場面である。

十字架像を彫る少年の習作
トビー・エドワード・ローゼンタール《十字架像を彫る少年の習作》1908年ごろ。館の記録では、黒鉛(白のグワッシュ・緑の網目紙)。28.3×38.6センチ。番号は1993.102.2。メトロポリタン美術館蔵。トビー・エドワード・ローゼンタール《十字架像を彫る少年の習作》メトロポリタン美術館蔵

横長の紙である。

28.3×38.6センチある。

紙は緑がかっている。

線は黒鉛で、細い。

明るい部分には、白い絵の具が置かれる。

画面の中央に、少年が座る。

椅子は木で、背が高い。

体は右を向く。

背中は丸く、前へかがむ。

顔は下を向く。

髪は短く、耳が出る。

上着は白く、袖が広い。

前掛けは暗い色で、膝を覆う。

両手は、卓の上にある。

右手に、細い刃物を持つ。

左手は、小さな像を支える。

像は、十字の形をしている。

像の上に、人の姿がある。

腕は水平に伸びる。

卓の上には、木屑が散る。

卓の奥には、別の像がある。

そちらは、まだ形が粗い。

背景は、線がまばらである。

輪郭だけが、引かれている。

館の札には「少年たち」「磔刑」「働くこと」がある。

つまり館は、これを労働の図としても登録している。

題には、習作という語がある。

つまりこれは、大きな絵のための試しである。

彫る場面を描くための、下描きである。

九点のうち、彫る場面が習作なのは、この一点である。

鑿を持って、こちらを見る

三点目では、彫る人は手を止めている。

アトリエのマリー・ドルレアン王女
アリー・シェフェール《アトリエのマリー・ドルレアン王女》1838年ごろ。館の記録では、布に油彩。額なしで67.3×40.7センチ。番号は1977.119。クリーヴランド美術館蔵。アリー・シェフェール《アトリエのマリー・ドルレアン王女》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

額なしで67.3×40.7センチある。

画面の左に、女性が座る。

椅子は木で、低い。

体は右を向く。

顔はこちらへ向く。

目は、まっすぐこちらを見る。

髪は黒く、真ん中で分ける。

耳の下で、束ねられる。

衣は淡い灰緑で、床まで届く。

袖は広く、肘までまくられる。

上には、白い前掛けを着ける。

作業着らしい。

右手は膝の上にある。

手に、細い棒を握る。

先が平たく、刃になっている。

鑿である。

その右に、台がある。

台の上に、白い像がいくつか載る。

像は小さく、人の姿である。

奥には、大きな石の像が立つ。

像は白く、鎧を着た姿である。

背後の壁は、暗い。

館の記録では、この画家は、その最も好んだ弟子をたびたび描いた。

その人は王の娘であり、名の知られた彫刻家であったという。

そして館は、道具について書いている。

打ち込みと才能の証しとして、その人は仕事着を着て、鑿を持っているという。

そばには、その人の作がいくつか見える。

最も有名な彫刻の原型も含まれるという。

館の記録は、そう説明している。

つまり鑿は、身分ではなく仕事を示す道具である。

九点のうち、道具が肖像の持ち物なのは、この一点である。

象牙を彫る人が、僧である

四点目からは、彫られた物になる。