画家を知る

手が、止まっている——シャルダンの静けさ

晩年の自画像

材料の変わった一点を見たい。

日除け帽の自画像
ジャン・シメオン・シャルダン《日除け帽の自画像》1776年ごろ。青い簀の目紙にパステル、画布に裏打ち。縦45.7センチ、横37.4センチ。シカゴ美術館蔵。ジャン・シメオン・シャルダン《日除け帽の自画像》シカゴ美術館蔵

油彩ではない。紙にパステルで描かれている。

画面には、年配の男の半身がある。顔はやや右を向き、目はこちらを見る。

頭に白い布を巻き、その上に青い庇の付いた帽子をかぶる。

丸い眼鏡をかけている。金属の細い枠が、鼻と耳に架かる。

首には桃色と青の布が巻かれ、胸元で結ばれる。

上着は灰褐色で、簡略に描かれる。背景は暗い灰緑である。

パステルという材料

材料について補いたい。パステルは、顔料を固めた棒である。

紙に擦りつけて色を置く。溶剤も乾燥時間も要らない。

一方、粉が落ちやすい。定着させなければ、触れただけで崩れる。

だからこの一点も、紙のまま保管されず、画布に裏打ちされている。

材料の性質が、保存の方法を決めている。

青い紙を、使う

支持体も見ておきたい。記録は「青い簀の目紙」と書いている。

つまり、白い紙ではない。

青みのある紙の上では、肌の色が引き立つ。補色に近い関係だからである。

そして紙の色が、そのまま中間の明るさとして働く。

紙の色を活かす方法は、別のコラムでも扱った。

眼鏡と、庇

細部にも触れておきたい。庇の付いた帽子は、光を遮るための道具である。

眼鏡も、目の負担を減らすためのものである。

つまり、画面には仕事の道具が描かれている。

この画家は晩年に油彩から離れ、パステルを主に使ったとされる。

理由については諸説あり、記録も断定していない。ここは留保しておきたい。

獲物を描いた一点

主題の性格が違う静物もある。

獲物のある静物
ジャン・シメオン・シャルダン《獲物のある静物》おそらく1750年代。油彩・画布。縦49.6センチ、横59.4センチ。額を含めて縦72.2センチ、横82.1センチ、厚さ8.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジャン・シメオン・シャルダン《獲物のある静物》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

石の台の上に、雉と兎が横たわる。雉は羽を広げ、首が台の縁から垂れる。

兎は白い腹を見せ、前脚が伸びる。耳が台の右へはみ出す。

左に小さな橙が一つ置かれる。背景は灰褐色で、何も描かれていない。

狩りの獲物を描く形式は、当時のヨーロッパで一般的だった。台所に届く前の食材である。

つまりこれも、日常の物である。

早い時期の静物

制作年の幅も見ておきたい。

果物、水差し、グラス
ジャン・シメオン・シャルダン《果物、水差し、グラス》1726〜1728年ごろ。油彩・画布。縦33.5センチ、横43センチ。額を含めて縦49.5センチ、横59.4センチ、厚さ7.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジャン・シメオン・シャルダン《果物、水差し、グラス》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

公開分では最も早い時期の作である。

中央奥に、褐色の陶の水差しが立つ。口が広く、胴が膨らむ。

左手前にガラスのコップがある。中は空で、向こう側の暗さが透ける。

右に桃が四つ、五つ。手前に青い李が二つと、小さな実が一つ。

物の配置は、後年の静物と大きく変わらない。三十年以上、同じ形式を続けている。

描かれていないもの

何が描かれていないかも確かめたい。台所の場面に、火は描かれていない。

暖炉の縁は見えるが、炎は見えない。煮炊きの湯気も、匂いを示す描写もない。

つまり、賑やかな要素は避けられている。音のしない台所が描かれている。

実際の台所は、もっと騒がしかったはずである。画面は、現実の写しではない。

見立て——静けさは、引き算で作られる

ここまでを整理したい。人物は一人か二人。視線はこちらを向かない。

物は数個。背景は無地。光は柔らかく、影は薄い。

つまり、要素を減らすことで静けさが作られている。足すのではなく、引く方法である。

そして、動作は途中で止められる。次に何が起きるかを、見る側が想像する余地が残る。

額の記録が、そろっている

公開分の記録にも触れておきたい。10点のうち9点に、額を含む寸法が記載されている。

つまり所蔵館は、額まで作品の一部として記録している。

画面と額の比を計算すると、面積で二倍前後になる。小さな絵ほど、額の存在感が大きい。

数字を並べるだけで、飾られ方が推測できる。

十点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。人物のいる場面が六点、静物が三点、自画像が一点である。

制作年は1726年ごろから1776年ごろまで、五十年に及ぶ。

つまり長い活動期の作品が、まんべんなく含まれている。同じ形式を続けた画家であることが、数からも読める。

暮らしへ——机の上を、七つに減らす

家でできることを書いておきたい。机の上の物を、七つまで減らしてみてほしい。

残す物を選び、位置を少しずつ動かす。斜めの向きを一つ作ると、画面が締まる。

そして、光を一方向からだけ当てる。窓を一つ開け、他を閉じる。

それだけで、静物画の条件が揃う。数を減らすことが、静けさを作る最短の方法である。

静物は、何点あるか

公開分の静物についても整理しておきたい。果物と器を描いた小品が数点ある。

いずれも横長で、縦33〜50センチ、横41〜60センチに収まる。

つまり、静物には決まった判型が使われている。

主題ごとに判型が決まる点は、この画家の仕事に一貫している。

群として見ると、形式が見える

最後に、見方をまとめておきたい。10点を主題で分け、寸法で並べ替えてみる。

人物画は縦長の小品と、大きめの縦長に分かれる。静物はいずれも横長の小品である。

つまり主題ごとに、判型が決まっている。形式が仕事の型を示している。

そして、気づいた点は書き留めておきたい。額の寸法が一致するといった発見は、忘れやすい。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

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