作品を知る

銅は、下にある——プラクシテレス・カラッチ・モリゾほか九点

銅の板が、絵の下に隠れる

四点目からは、銅が見えなくなる。

キリストの埋葬
アンニーバレ・カラッチ《キリストの埋葬》1595年。館の記録では、銅板に油彩。43.8×34.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。アンニーバレ・カラッチ《キリストの埋葬》メトロポリタン美術館蔵

縦長の小さな画面である。

43.8×34.9センチしかない。

画面の大部分は暗い。

中央に、横たわる裸の男がいる。

体は青白く、力なく垂れる。

その体を、両側から人が支える。

左の人物は茶の衣、右の人物は白い頭巾である。

手前の右下には、赤い衣の女がひざまずく。

赤は画面で最も強い色である。

背後には、岩壁がある。

岩の上のほうに、わずかに青い空が見える。

青は細く、画面の右上の隅だけにある。

そのほかは、褐色と黒で埋まっている。

館の札は「悲しみ」と、聖書の場面の名である。

材料の欄には、銅板に油彩とある。

つまり支持体は布でも板でもない。

金属の板である。

銅板は目が詰まっていて、絵の具の粒が沈まない。

そのため、細かい描写ができ、色も濁りにくい。

布であれば、織り目に絵の具が引っかかる。

木であれば、木目が動いて割れることがある。

金属の板には、そのどちらもない。

かわりに重い。

だから大きな絵には向かず、この大きさが上限に近い。

しかし完成した絵からは、銅は一切見えない。

九点のうち、銅が見えないのは三点で、これはその一点目である。

銅の板に、針で線を引く

五点目も、銅が見えない。

素描の稽古
ベルト・モリゾ《素描の稽古》1889年。館の記録では、ドライポイント。番号は1925.1036。クリーヴランド美術館蔵。ベルト・モリゾ《素描の稽古》クリーヴランド美術館蔵

縦長の紙である。

線は細く、灰色に近い。

画面の中央に、二人の人物がいる。

左は大人の女性で、こちらを見ている。

右は少女で、横を向く。

少女の手は、膝の上で組まれている。

二人の衣は、短い線を重ねて表されている。

線は方向がそろわず、斜めに走る。

背景の上部には、太い縦の線が数本ある。

家具の脚らしい。

画面の下のほうは、線がまばらである。

紙の白がそのまま残る。

線の密なところと疎なところの差が大きい。

顔のまわりだけが、細かく描き込まれている。

館の記録では、この画家は1887年から1889年のあいだ、版画を試みた。

そしてドライポイントについて、館はこう説明している。

鋭い道具で銅板に線を引っかく技法である。

この作では、画家がまっすぐこちらを見ている。

まるでこちらの肖像を描いているようだという。

そのかたわらで、十一歳の娘が母の仕事を見ている。

館の記録は、そう書いている。

この画家の描き方については、未完成に見える絵で扱った。

銅板は、やわらかい。

だから針が沈み、縁に金属のめくれができる。

そのめくれが、刷ったときに線をにじませる。

線が灰色に見えるのは、そのためである。

そして、めくれは刷るたびに潰れる。

だから刷れる枚数が少ない。

銅がやわらかいことは、利点でもあり限界でもある。

銅の縁が、象牙を囲む

六点目も、銅が見える面積はごく小さい。

チャールズ・リーランド
ダニエル・ディキンソン《チャールズ・リーランド》1822年。館の記録では、象牙に水彩、金めっきの銅のロケットに納める。裏に髪を納める。6.5×5.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ディキンソン《チャールズ・リーランド》メトロポリタン美術館蔵

小さな楕円の肖像である。

6.5×5.2センチしかない。

若い男が、胸から上まで描かれる。

顔はこちらを向き、目はやや左を見る。

髪は短く、こめかみで巻く。

黒い上着を着て、白い襟を立てる。

首元には、白い布が巻かれている。

背景は灰色で、上のほうが明るい。

顔の肌は、細かい点を重ねて描かれている。

点の間からは、下の象牙の白が透ける。

白の絵の具を使わずに、明るさを出している。

楕円のまわりは、金色の枠である。

枠の上には、小さな飾りと吊り環がある。

館の記録では、枠は金めっきの銅である。

そして裏側には、髪を納める部分がある。

つまり銅は、枠として金の下にある。

見えているのは金で、銅ではない。

金めっきは、ごく薄い層である。

擦れれば、下の赤い銅が現れる。

この枠では、いまのところ現れていない。

この画家の仕事については、旅する肖像画家で扱った。

銅は、焼き物の赤になる

七点目で、銅は色に変わる。

一輪挿
四代清風与平《一輪挿》1914年から46年。館の記録では、型による文様と辰砂釉の磁器。高さ17.1センチ、直径9.5センチ。番号は2022.210。クリーヴランド美術館蔵。四代清風与平《一輪挿》クリーヴランド美術館蔵

細長い花瓶である。

高さ17.1センチ、口の直径9.5センチしかない。

肩が張り、下へ向かって細くなる。

上のほうは、強い赤である。

下へ行くにつれて、赤が紫に変わる。

境目はなく、連続して移る。

釉薬は流れ、下のほうに溜まっている。

口の縁だけが、白く残る。

肩の左右には、小さな飾りが付く。

獅子の頭である。

その頭も、白く残っている。

釉が薄くかかった部分が、白く抜けている。

出っ張ったところほど、釉が流れて薄くなる。

館の記録では、この花瓶は上が銅赤で、下へ行くほど紫に近づく。

斑や流れがあり、中国の窯変の釉に似ているという。

そして箱の蓋には、この釉の色が辰砂と書かれている。

辰砂は、銅赤あるいは牛血、ときに朱と訳される。

館の記録は、そう説明している。

つまり赤は、銅から出た色である。

金属の板でも塊でもなく、釉の中に溶けた銅である。

焼くときの空気の具合で、緑にも赤にもなる。

酸素が多ければ緑に、少なければ赤に寄る。

つまり色は、窯の中の条件が決める。

作り手は、赤を狙って窯を閉じる。

それでも、狙いどおりにならないことがある。

流れと斑は、その結果である。

九点のうち、銅が色そのものになっているのは、この一点である。