画家を知る

横126センチの版画——鳥文斎栄之の続き物

肉筆の横長

最後に、版画でない一点を見たい。

桜を見る三美人
鳥文斎栄之《桜を見る三美人》18世紀後半〜19世紀。掛軸、絹に墨と色。画面は縦32.1センチ、横70.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。鳥文斎栄之《桜を見る三美人》メトロポリタン美術館蔵

絹に描かれた一点物である。

そして、掛軸としては珍しく横長である。

画面は縦32.1センチ、横70.2センチ。

右に桜の幹が立ち、枝が左へ伸びる。

その下に女性が三人。歩きながら、上を見上げている。

左下に水面があり、鴨が二羽浮かぶ。

背景は淡い金茶で、遠くに丘が霞む。

表装は褐色の唐草文様で、画面を細い縁が囲む。

細身という様式

人物の描き方も整理しておきたい。栄之の女性は、頭が小さく、首から下が長い。

肩は落ち、腰の位置が高い。実際の人体の比率とは違う。

同時代の絵師と比べると、この傾向がはっきりする。歌麿の人物は顔が大きく、体つきに厚みがある。

清長の人物は背が高く、脚が長い。いずれも、それぞれの型である。

つまり美人画の人体は、観察ではなく様式で決まっている。誰の型かを見分ける手がかりにもなる。

版画と肉筆で、線が違う

同じ絵師の二つの仕事を比べておきたい。

版画の線は、彫師の刀が作る線である。

太さが均一で、始まりと終わりがはっきりする。

肉筆の線は、筆の圧がそのまま残る。

入りで太く、抜けで細くなる。

衣の裾では、線が途中で薄れている箇所もある。

同じ人物像でも、線の性質がまるで違う。

版画を見るときは、絵師と彫師の合作だと考えたい。

続き物は、離ればなれになりやすい

保存の話にも触れておきたい。

続き物は、紙が複数枚に分かれている。

だから、途中で一枚だけ売られることがある。

三枚のうち中央だけが残る、という例も多い。

当サイトの公開分では、五点が組のまま揃っている。

これは、束のまま収蔵された結果だと考えられる。

一枚ずつ収蔵されていれば、組は復元しにくい。

図譜の組が崩れる話は、
別のコラムでも扱った。

継ぎ目は、隠されていない

もう一度、画面に戻りたい。

五枚続の公開画像では、継ぎ目がはっきり見える。

紙の縁が重なり、色にわずかな段差がある。

これを欠点と見るか、構造の証拠と見るかは、見る側の姿勢による。

続き物は、もともと分かれているものを並べた形式である。

継ぎ目を消すことが目的ではない。

線と面をつなげて、視線を横に流すことが目的である。

大きさの比較

寸法を並べ直しておきたい。

五枚続は横126.7センチ。

三枚続は横73センチから76.2センチ。

大判の一枚は横26センチ前後。

柱絵は横11.7センチ。

つまり、同じ絵師が横幅で十倍以上の幅を扱っている。

判型ごとに、構図の作り方を変えるしかない。

十一点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。11点のうち、続き物が五点を占める。

一枚ものの大判が数点、柱絵が一点、肉筆が一点である。主題は遊里と花見に集中している。

つまり、当世の女性を描く仕事が中心だった。風景や武者絵は含まれていない。

続き物は、どこで売られたか

売り方も確かめておきたい。版画は絵草紙屋で売られた。店先に紙を吊り、通りから見えるようにする。

続き物は、三枚を並べて掛ければ看板にもなる。買う側は一枚ずつでも、三枚まとめてでも買える。

つまり店の側にも、客の側にも都合のよい形式である。値段の記録は公開分に含まれていないため、
高かったかどうかは推測にとどめたい。

版元の印を探す

画面の隅も見ておきたい。多くの版画には、版元の印と改印が押されている。

改印は、出版の許可を示す印である。時期によって形が変わるため、制作年の手がかりになる。

この五点にも、下端や隅に小さな印が見える。ただし公開画像の解像度では、読み取りが難しい。

所蔵館の記録も、印の内容までは書いていない。だから、ここでは印があるという事実にとどめる。

見立て——横長は、時間を入れる器である

ここまでを整理したい。

続き物の画面は、単に広いだけではない。

行列の先頭と後尾、支度をする人と待つ人。

同時に起きている複数の場面が、横に並ぶ。

見る側は、右から左へ視線を動かしながら読む。

つまり、横長の画面は時間を入れる器である。

絵巻が横に長い理由も、これに近い。

日本の絵には、この形式が繰り返し現れる。

一枚で見ると、意味が変わる

続き物の読み方についても書いておきたい。

一枚だけを見ると、構図が完結して見える。

しかし三枚並べると、その一枚は端になる。

視線の入口だったのか、出口だったのかが変わる。

つまり、同じ図でも位置によって役目が違う。

組が揃っているかどうかは、読み方に直結する。

暮らしへ——写真を、横につないでみる

家でできることを書いておきたい。

同じ場所で、少しずつ角度を変えて三枚撮ってみてほしい。

それを横に並べて印刷する。

継ぎ目でずれるが、全体は一つの場面に見える。

そして、端の一枚だけを隠してみる。

構図の重心が動くのが分かる。

続き物の絵師が考えていたのは、この移動である。

五枚続は、どこに飾ったのか

飾り方も考えておきたい。横126センチの画面を、そのまま壁に貼れる家は限られる。

襖に貼る、屏風に仕立てる、巻いてしまっておく。いくつかの使い方が考えられる。

当サイトの公開画像では、五枚が並んだ状態で撮影されている。つまり、いまは平らに保管されている。

摺られた当時、どう使われたかは分からない。記録にも書かれていない。

群として見ると、形式が見える

最後に、見方をまとめておきたい。

11点を形式で分けると、続き物、一枚もの、柱絵、肉筆になる。

主題で分けるより、この分け方のほうが仕事の形に近い。

公開画像は、そのための道具である。

寸法欄を読み、横幅で並べ替える作業は画面の上でできる。

そして、並べた結果は書き留めておきたい。

枚数と寸法の組み合わせは、覚えにくい。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

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