作品を知る

七宝は、褪せない——ル・バスティエ・清風与平・カトリンほか九点

七宝文の蓋付鉢
二代清風与平《七宝文の蓋付鉢》1861年から78年。館の記録では、上絵の色絵と金の炻器。高さ20センチ、直径29.5センチ。番号は2022.146。クリーヴランド美術館蔵。二代清風与平《七宝文の蓋付鉢》クリーヴランド美術館蔵

大きな蓋付きの鉢である。

高さ20センチ、直径29.5センチある。

胴は低く、丸く広がる。

蓋は浅く、盛り上がる。

蓋の中央に、摘みがある。

摘みは桃の形で、茎と葉が付く。

地は、灰色がかった白である。

その上に、細い線の文様が散る。

文様は、四つの弧を組んだ輪である。

輪は赤と緑と白で描かれる。

輪と輪は、少しずつ重なる。

輪のあいだに、金の小さな形が置かれる。

地には、桃色の斑がいくつも浮かぶ。

斑は中心が淡く、縁が赤い。

大きさは一つずつ違う。

配置にも規則がない。

館の記録では、この鉢の箱の蓋は、これがある古い作風によると記している。

赤と緑と白の上絵が、宝の形をした金の格子の中に置かれる。

その意匠は、七つの宝と呼ばれる。

そして館は、桃色の斑について書いている。

これは、焼くときに土の鉄分が多いために現れる。

中心が乳白色で、縁に向かって赤に近づく。

この効果を持つ器は、ある国から輸入された灰釉の陶器を真似て作られたという。

館の記録は、そう説明している。

つまり赤と緑と白は、釉の上に置かれた七宝である。

低い温度で焼き付けるので、色が残る。

一方、桃色の斑は狙って作れない。

土と火が作る。

同じ一つの面に、狙った色と狙えない色が並んでいる。

上絵の輪は、どれも同じ形である。

斑は、どれも違う形である。

人の手と窯の手が、そのまま見分けられる。

磁器の人形が、色を着る

五点目も、焼き物である。

トランペット吹き
ウィーン国立磁器製作所《トランペット吹き》1760年から70年ごろ。館の記録では、硬質磁器、多色の上絵、金彩。高さ13.3センチ。番号は1963.1125。シカゴ美術館蔵。トランペット吹き》シカゴ美術館蔵

小さな人形である。

高さは13.3センチしかない。

若い男が立つ。

顔を上げ、口に細長い管を当てる。

管の先は、朝顔のように開く。

金色である。

右腕は高く上がり、管を支える。

左手は腰に当てる。

上着は桃色で、裾が広がる。

袖口には、白い折り返しがある。

首元には、緑の布が結ばれる。

ズボンは黄色で、膝下までである。

靴は黒く、小さな留め金が付く。

帽子は桃色で、羽根が立つ。

足元は、白と金の岩の形である。

岩は台を兼ねている。

下端は平らに削られている。

館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。

材料は、硬質磁器と多色の上絵と金彩である。

上絵は、釉の上に置いて焼く。

だから色が、面から少し盛り上がる。

光を当てると、色のところだけ厚みが見える。

白い部分は、磁器そのものの色である。

そこには、何も置かれていない。

置いた色と、置かない色が並ぶ。

九点のうち、七宝が人形の衣になっているのは、この一点である。

七宝の板に、顔を描く

六点目では、七宝が絵の地になる。

オーストリア皇帝ヨーゼフ二世
アダム・ルートヴィヒ・ダルジャン《オーストリア皇帝ヨーゼフ二世》1780年ごろ。館の記録では、エナメル。楕円で32×26ミリ。番号は95.14.68。メトロポリタン美術館蔵。アダム・ルートヴィヒ・ダルジャン《オーストリア皇帝ヨーゼフ二世》メトロポリタン美術館蔵

きわめて小さい肖像である。

楕円で、32ミリと26ミリしかない。

男が、胸から上まで描かれる。

顔は左を向き、目もそちらを見る。

髪は白く、耳の上で巻く。

後ろでは、短く束ねられる。

顔は赤みを帯び、頬が丸い。

上着は赤で、襟が高い。

胸には、金の飾りが並ぶ。

肩から、白と黒の帯が斜めに掛かる。

帯には、細かい文様がある。

背景は暗い灰緑で、上が明るい。

楕円のまわりは、白い粒の輪である。

粒は数十個あり、大きさがそろう。

粒は白く、光を強く返す。

枠に嵌められた石らしい。

その上に、小さな吊り環が付く。

館の記録では、材料はエナメルの一語である。

館の札には、人の名と「肖像」がある。

つまりこれは、絵の具ではなく硝子で描かれている。

色ごとに焼く温度が違う。

だから何度も窯に入れる。

一度でも温度を誤れば、前の色が飛ぶ。

直すことができない。

塗り重ねて隠すこともできない。

失敗すれば、はじめからやり直しになる。

この大きさで、それを繰り返している。

九点のうち、七宝が絵そのものなのは、この一点である。

七宝の細密画については、七宝の細密画で扱った。

写真を、硝子に焼き付ける

七点目では、七宝が写真の地になる。

無題(女性の肖像)
エティエンヌ・カルジャ《無題(女性の肖像)》1879年。館の記録では、七宝に焼き付けた写真、銅合金の枠とビロードの内張り。全体は7.7×6.3センチ。番号は2017.8.2。クリーヴランド美術館蔵。エティエンヌ・カルジャ《無題(女性の肖像)》クリーヴランド美術館蔵

小さな楕円の写真である。

全体は7.7×6.3センチしかない。

女性が、胸から上まで写る。

顔はこちらを向き、正面を見る。

髪は高く結い上げられ、額が広い。

耳には、細い飾りが下がる。

首元には、白い襟がある。

上着は暗い色で、細かい襞が寄る。

胸元に、小さな留め具が光る。

背景は褐色で、何もない。

写真のまわりは、濃い青の枠である。

青は、ビロードらしい。

その外側は、金の輪である。

金の輪には、細かい刻みが並ぶ。

刻みは斜めに走り、光を散らす。

輪の幅は、数ミリしかない。

館の記録では、この写真家は有名人の肖像で名を上げたが、仕事の中心は中流と上流の人びとの肖像だった。

紙に焼いたものより長持ちする像を求めて、この人たちは余分に払い、肖像を七宝に焼き付けさせた。

その方法は、きわめて細かく、丈夫な像を作る。

手に渡された日と同じように新しく見えるという。

館の記録は、そう説明している。

つまり紙の写真は褪せるが、七宝の写真は褪せない。

色を火で固めているからである。

紙の写真は、光と空気で像が薄くなる。

七宝の像は、硝子の中にある。

館の記録も、その丈夫さを繰り返し書いている。

買った人が、そのために余分に払ったことまで書いている。