作品を知る

指すのは、犬である——プラクシテレス・ティエポロ・バリーほか九点

燃える頭部を、指し示す

腐蝕銅版である。

版の跡は22.6×18.5センチ。

紙は、それより大きい。

画面の左に、木が立つ。

幹は太く、上で二つに分かれる。

その根方に、人が三人いる。

一人は立ち、二人はしゃがむ。

立っている一人は、頭に布を巻く。

長い衣を着ている。

右腕を、斜め下へ伸ばす。

その手の先に、地面がある。

地面に、丸いものが置かれる。

館の記録では、燃える頭部である。

しゃがんだ二人は、そちらを見る。

背景には、細い線で空が刻まれる。

線は、水平に並ぶ。

右手前に、低い石積みがある。

石には、浮彫らしい影が見える。

古代の断片という設定である。

燃える頭部を二人の若者に指し示す魔術師(スケルツィ・ディ・ファンタジアより)
ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《燃える頭部を二人の若者に指し示す魔術師》一七五〇年代。館の記録では、腐蝕銅版。版の跡は22.6×18.5センチ。番号は1998.113。クリーヴランド美術館蔵。ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《燃える頭部を二人の若者に指し示す魔術師(スケルツィ・ディ・ファンタジアより)》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この連作の性格を書いている。

スケルツォとは、短い句でできた音楽である。

戯れの含みがある。

この連作は、即興の場面を集めたものである。

決まった物語に従っていない。

だから、何を指しているかは題でしか知れない。

魔術師、哲学者、兵士、頭に布を巻いた老人、羊飼い。

彼らは、星占い、髑髏、骸骨、蛇に向き合う。

場所は、祭壇、廃墟、古代の浮彫のあいだ。

主題は、命の儚さと人の営みの虚しさだという。

ここでも、指は言葉の代わりである。

魔術師は、若者に何かを教えている。

その内容は、指の先にある。

前の一点では、指が人を選んだ。

ここでは、指が物を示す。

どちらも、指が文の役をしている。

版画では、これがとくに効く。

版画には、声も文字も入れにくい。

入れれば、左右が逆になるからである。

指なら、その面倒がない。

指すのは、犬である

小さな青銅である。

幅は21.6センチ。

高さは11.5センチしかない。

犬が一匹、立っている。

体は細長い。

耳は垂れ、頭は低い。

鼻先は、前へ突き出る。

尾は、水平に伸びる。

前脚の一本が、地面から浮く。

後ろ脚は、踏ん張っている。

犬の前に、小さな塊がある。

兎である。

兎は、体を縮めている。

耳を、背に伏せている。

台座は、二段になっている。

上は青銅、下は木である。

木の台は、楕円形に削られる。

縁が、なだらかに落ちる。

兎を指し示すスパニエル
アントワーヌ・ルイ・バリー《兎を指し示すスパニエル》1830年から1875年のあいだ。館の記録では、青銅。全体で幅21.6センチ。番号は1960.91。クリーヴランド美術館蔵。アントワーヌ・ルイ・バリー《兎を指し示すスパニエル》クリーヴランド美術館蔵

題には「指し示す」とある。

しかし犬に、指はない。

犬がしているのは、体を止めることである。

鼻先から尾まで、一直線に固める。

その線が、兎の方向を示す。

つまり、体全体が一本の指になっている。

猟の言葉では、これを止めると言う。

英語では、指すと言う。

同じ動作を、二つの言語が違う語で呼ぶ。

止めるは、犬のしていることを言う。

指すは、犬の伝えていることを言う。

同じ姿勢の、別の側面である。

彫刻は、その姿勢を青銅で固定する。

止まっている動作を、止まった材料で作る。

館の記録には、説明の文がない。

題と、材料と、寸法だけである。

それでも、題の一語が動作を伝える。

狩りの絵については、狩りの絵に、血は流れないで扱った。

草のなかで、二匹が止まる

板に描かれた油彩である。

25.4×34.3センチと小さい。

画面は、ほぼ全面が草である。

草は、細い線の重なりでできている。

穂が、あちこちで垂れる。

左寄りに、犬が二匹いる。

手前の一匹は、腹を低くする。

顔だけを、前へ向ける。

後ろの一匹は、立っている。

こちらも、首を伸ばす。

二匹とも、動いていない。

視線の先に、鳥が三羽いる。

鶉である。

一羽は歩き、二羽はうずくまる。

犬と鳥の距離は、二メートルほどに見える。

鳥は、犬に気づいていないように見える。

草の穂が、両者のあいだを隔てる。

空は、画面の上の細い帯だけである。

灰色で、雲の形は描かれない。

草の緑も、抑えられている。

獲物を指して
アーサー・フィッツウィリアム・テイト《獲物を指して》1874年。館の記録では、油彩・板。25.4×34.3センチ。番号は1979.490.6。メトロポリタン美術館蔵。アーサー・フィッツウィリアム・テイト《獲物を指して》メトロポリタン美術館蔵

館の札は「鳥」「狩猟」「犬」の三つである。

指という札はない。

英語の題は、二語だけである。

止まった状態を指す言い方である。

日本語にすると、指すという語が出てくる。

訳すときに、指が入りこむ。

原語にない体の部分が、訳語に現れる。

これは、訳の癖である。

前の一点も、同じ題だった。

犬が獲物を指す場面は、繰り返し描かれた。

十九世紀の合衆国では、狩猟の絵がよく売れた。

同じ構図が、何度も作られている。

この画家も、猟の場面を数多く描いた。

館は、この一点を板に描かれたものとする。

板は小さく作れるので、居間に掛けやすい。

同じ題が、もう一枚ある

やはり油彩である。

全体で46.4×52.1センチ。

前の一枚より、ひとまわり大きい。

画面の手前に、草地が広がる。

草は、黄緑と黄土で描かれる。

中央に、犬が一匹いる。

白と茶の斑である。

耳は長く、垂れる。

顔は、正面をやや外れて向く。

口は閉じている。

犬の前に、鳥が三羽いる。

こちらも鶉である。

一羽は首を伸ばし、二羽は地面をつつく。

背景に、低い茂みがある。

空は、明るい青である。

雲は、薄く刷かれる。

地平は、画面の三分の二あたりにある。