美術史・技法

意匠した人と、作った人——ゴドウィンの飾り棚ほか

番号の頭が、近年に寄る

七点の番号を並べてみる。

1975、1984、1985、2001、2005、2005、2006。

いちばん古い受入が1975年である。

七点とも、この五十年のあいだに入った。

絵画の受入が百年以上前から続くのと、対照的である。

家具や調度が美術館の収蔵対象になったのは、比較的近年だ。

それまでは、実用品として扱われていた。

いまでも、応用美術という名の部門に置かれる。

応用、という語が残っている。

純粋な美術ではない、という含みがある。

その分け方自体が、二百年ほど前の考え方の名残である。

館の部門の名には、そういう歴史が沈んでいる。

会社の名が、作者の欄に入る

七点のうち二点は、作った側が個人ではない。

一方は、十八世紀に創業した楽器の会社。

他方は、二十世紀初めの硝子の工房である。

いずれも、創業や活動の年が括弧に添えられる。

人の生没年と同じ形式で書かれている。

会社を、一人の作者のように扱っているのだ。

これは、便法である。

会社には、何十人もが働いている。

その全員の名を書くことはできない。

だから、まとめて一つの名にする。

前の回の記事で、窯の名が作者の欄に入る例を見た。

同じ考え方が、ここでも使われている。

マンクスマン・ピアノ
マッケイ・ヒュー・ベイリー・スコット意匠、ジョン・ブロードウッド・アンド・サンズ製作《マンクスマン・ピアノ》1897年。館の記録では、樫、黒檀、象牙、真珠層、銅。縦128.9センチ、横143.2センチ。番号は1985.99。シカゴ美術館蔵。ベイリー・スコット《マンクスマン・ピアノ》シカゴ美術館蔵

箱形のピアノである。

上蓋が開き、後ろへ倒れている。

正面の扉が、左右に一枚ずつ開く。

扉の外面には、菱形の象嵌がある。

開いた内側に、透かしの金具が三枚並ぶ。

金具の文様は、植物の形をしている。

その下に、鍵盤が横に伸びる。

鍵盤の上に、細い横板が渡る。

下部は、濃紺と木地の縦縞になる。

縞は等間隔で、床まで届く。

脚は見えず、箱がそのまま床に立つ。

閉じれば、ただの木の箱に見えるだろう。

寸法が、状態によって変わる

いま見た一点の寸法の欄は、三つの数字組を持つ。

閉じた状態の縦と横。

蓋を開けた状態の高さ。

扉を一枚開けた状態の幅。

同じ品が、三通りの大きさを持つ。

家具は、動く。

引き出しが出て、扉が開き、板が広がる。

だから、一つの数字では表せない。

別の一点でも、板を広げた状態の横幅が書かれている。

絵画では、こういうことは起きない。

額の内外で二つ書くことはあっても、形は変わらない。

動くかどうかが、寸法の欄の書き方を分ける。

数字の並びに、傷が残る

いま見た「広げた状態」の一点には、小さな傷がある。

その説明の語の中に、掛け算の記号が紛れ込んでいる。

本来は、別の文字が入るはずの位置だ。

一括で置き換える作業のときに、巻き込まれたのだろう。

寸法の数字のあいだにある記号と、同じ形である。

だから、まとめて処理されてしまった。

記録は、こういう形でも傷つく。

意味は通るので、読む側は気づきにくい。

前の回の記事でも、似た傷をいくつか見た。

見つけたときに、静かに読み替えておけばよい。

銘記の欄に、型番が刻まれている

七点のうち一点は、銘記の欄がとくに変わっている。

刻まれているのは、工房の名と、数字である。

傘の型番が1507。

台の型番が355。

さらに、別の数字が押されている。

つまり、この品には型番がある。

同じ型が、いくつも作られたということだ。

一点ものではなく、注文に応じて作られる商品である。

館の番号とは別に、作った側の番号がある。

二種類の番号が、一つの品に付いている。

前の回の記事で、館の番号の付け方を何度も見た。

こちらは、作った側の番号である。

同じ数字でも、意味する体系がまったく違う。

蜻蛉の笠と亀甲文の台のランプ
ドリスコルに帰される意匠、ティファニー工房《蜻蛉の笠と亀甲文の台のランプ》1906年までに製作。館の記録では、ファブリル硝子と青銅。高さ86.4センチ、幅57.2センチ。番号は2006.2。シカゴ美術館蔵。クララ・ドリスコル《蜻蛉の笠と亀甲文の台のランプ》シカゴ美術館蔵

傘の付いた電灯である。

傘は半球に近い形で、下へ広がる。

上部は、細長い硝子片を放射状に並べる。

色は紫と緑が交互に入る。

下縁に沿って、蜻蛉が輪になって並ぶ。

蜻蛉の羽は青く、細い筋が入る。

目は赤く、丸く突き出る。

胴のあいだの地は、緑の硝子である。

台は青銅で、上が細く下が広がる。

台の上部に、緑の丸い硝子が数個嵌る。

裾は波打ちながら、床に接する。

硝子は、光を通して色を変える。

意匠した人が、後から特定される

いま見た一点の意匠は、ある女性に帰されている。

長いあいだ、工房の名だけで語られてきた品である。

近年の調査で、意匠を担った人が特定された。

そのため、館の記録に名が加わっている。

ただし、確定ではないので、帰属の語が付く。

記録は、書き換えられる。

新しい資料が出れば、欄の中身が変わる。

作者の欄は、いちばん書き換えられやすい欄である。

前の回の記事で、四百年後に番号が付いた作品を見た。

こちらは、百年後に名が付いた例である。

館の記録は、完成した文書ではない。

いまも書き足されている途中の文書だ。

一人の名しかない、二点

七点のうち二点は、作者の欄が一人だけである。

一方は、フィラデルフィアの家具職人。

他方は、ロードアイランドの家具職人に帰される一点。

どちらも、意匠と製作を分けて書かれていない。

自分で図を引き、自分の工房で作ったのだろう。

そう考えるのが自然である。

ただし、記録はそこまで書かない。

一人の名しかない、という事実だけがある。

工房に弟子がいたかどうかも、書かれない。

書かれないことを、書かれたように読まない。