意匠した人と、作った人——ゴドウィンの飾り棚ほか
図を引いた人と、木を刻んだ人は別である。七点のうち四点の作者の欄は、その二つに分かれる。年も場所も二つ書かれ、銘記の欄には型番が刻まれている。家具の記録が何を残すのかを読みたい。硝子と金属が、木の中に入る。

作者の欄が、二段に分かれる
家具と調度を七点、記録の欄で並べてみる。
作者の欄が、二つに分かれている点が四つある。
分かれ方は、いずれも同じ形をしている。
意匠したのは誰。
作ったのは誰。
図を引いた人と、木を刻んだ人が別なのだ。
絵画の記録では、まず見ない形である。
家具では、これがふつうに近い。
図面と製作が分かれるのは、規模の問題だ。
大きな戸棚を一人で作るのは難しい。
工房が請け負い、そこに何人もが関わる。
年が、二つ書かれる
作者の欄が二段なら、年も二つ要ることがある。
七点のうち一点は、こう書かれている。
意匠されたのは1867年、作られたのは1876年ごろ。
九年の差がある。
図面が先にでき、後から実際に作られた。
同じ図面から、複数の品が作られたのだろう。
年が二つ並ぶことで、その事情が読める。
一つの年しか書かなければ、この差は消える。
どちらを書くべきか、という問いになってしまう。
館は、どちらも書くことで問いを回避している。

黒く塗られた木の棚である。
下段は、横に長い天板を持つ。
天板の両端に、補助の板が広げられる。
その下に、細い脚と横木が組まれる。
天板の上に、細い柱が何本も立つ。
柱に支えられて、箱形の戸棚が四つ浮く。
戸棚のあいだは、空いたままである。
棚板は薄く、水平に何枚も渡る。
面と空隙が、格子のように交互に並ぶ。
金具は銀色で、扉の中央に小さく付く。
装飾らしい装飾は、ほとんどない。
場所も、二つ書かれる
七点のうち一点は、場所の欄まで分かれている。
外側の箱はパリ、中の機械はヘントで作られた。
ヘントは、いまのベルギーにあたる都市である。
一つの品が、二つの国で作られたことになる。
作者の欄も、それに対応して二段になる。
箱を作った人と、時計の機械を作った人。
そして銘記の欄に、機械を作った人の名が刻まれている。
品そのものに、名が残っているのだ。
箱を作った人の名は、品には刻まれていない。
館は、資料から特定したのだろう。
同じ一点の中で、名の残り方が違う。

壁に掛ける形の時計である。
全体が、金色の装飾で覆われる。
上部に、女性の姿の像が座る。
体をひねり、片手を頭の上へ上げる。
その下に、円形の文字盤がある。
文字盤の地は銀色で、数字が並ぶ。
盤の周囲から、渦を巻く金の形が広がる。
渦は左右へ大きく張り出す。
下部には、台座が前へ突き出る。
台座の上に、もう一つ小さな像が載る。
いちばん下は、尖った形で終わる。
木の地が見える部分は、ほとんどない。
帰属の語が、三点に付く
七点のうち三点は、作者の欄に修飾の語がある。
に帰される、という語である。
確実ではないが、その人の作と考えられる。
そういう意味だ。
そのうち一点は、語の位置が変わっている。
意匠が誰それに帰される、と書かれる。
つまり、作ったのは工房で確実だが、図案の人は推定である。
修飾の語が、どこに掛かるかで意味が変わる。
前の回の記事で、帰属の語の段階を見た。
工房、追随者、周辺、に帰される。
家具でも、同じ語が同じように使われている。
分類の枠を越えて、共通の語彙がある。

蓋の付いた横長の箱である。
蓋は、山なりに盛り上がる。
表面は、赤褐色の鼈甲で覆われる。
その上に、真鍮の細い線で唐草が象嵌される。
唐草は左右対称に広がる。
正面の中央に、金色の人面が付く。
人面の左右に、翼を持つ獣が向かい合う。
四隅には、金の角金具が回る。
蓋の上にも、二つの金の飾りが載る。
縁は黒檀で、細く締まる。
脚は低く、丸い形である。
技法の欄には、八つの材料が並ぶ。
材料の欄が、油紙で終わる
いま見た一点の技法の欄には、最後に油紙とある。
木、鼈甲、金属が並んだあとの、油紙。
外からは見えない材料である。
おそらく、内側の張りに使われている。
見えないものまで書かれているのは、調査したからだ。
修理や調査のときに、内部を見る機会がある。
そこで分かったことが、記録に加わる。
技法の欄は、外観の説明ではない。
分かっている材料の一覧である。
分かる機会があったかどうかで、長さが変わる。
出所の行が、六点まで購入である
七点の出所の行を並べてみる。
寄贈が一点、購入が六点。
購入の行は、いずれも長い。
いくつもの基金の名が、読点で区切られて並ぶ。
一点では、二十を超える名が連なる。
一つの基金では足りず、複数から出したのだろう。
家具は、大きく、高価である。
館が買うときには、資金をかき集めることになる。
行の長さが、その苦労を映している。
さらに、以前の受入品を手放して得た資金、と書かれる例もある。
売って、買う。
その履歴まで、出所の行に残される。
前の回の記事で、交換による購入を見た。
家具では、その形がとくに多い。