美術史・技法

意匠した人と、作った人——ゴドウィンの飾り棚ほか

書き物机
ジョン・タウンゼンドに帰される《書き物机》1770年ごろ。館の記録では、マホガニー、栗、ユリノキ。縦86.6センチ、横93.4センチ、奥行き58センチ。番号は1984.1387。シカゴ美術館蔵。ジョン・タウンゼンド《書き物机》シカゴ美術館蔵

低い書き物机である。

天板は一枚で、縁が段になる。

正面は、左右と中央の三つに分かれる。

左右には、引き出しが三段ずつ並ぶ。

中央は、一段くぼんで扉になる。

引き出しと扉のすべてに、貝殻の形が彫られる。

貝殻は放射状の筋を持ち、面から盛り上がる。

上段の三つは筋が外へ開き、下段は内へ閉じる。

金具は金色で、把手と鍵穴に付く。

脚は短く、外へ反って床に着く。

木の色は、赤みの強い褐色である。

木目が、面ごとに向きを変えて見える。

技法の欄に、木の名が三つ並ぶ

いま見た一点の技法の欄には、三種類の木が並ぶ。

マホガニー、栗、ユリノキ。

外から見えるのは、最初の一つだけである。

残る二つは、内部や裏に使われている。

家具は、見える面と見えない面で木を変える。

高価な木を、表だけに使う。

館の記録は、その全部を書く。

見える面だけを書けば、作りの実態は伝わらない。

前の回の記事で、板の裏の技法を書く例を見た。

家具でも、同じ姿勢が取られている。

飾り棚
ダニエル・パプスト《飾り棚》1868年から1880年。館の記録では、くるみと瘤のある楡。縦256.5センチ、横185.4センチ、奥行き62.2センチ。番号は2005.51。シカゴ美術館蔵。ダニエル・パプスト《飾り棚》シカゴ美術館蔵

二段に分かれた大きな棚である。

上段は、三層の棚板を持つ。

棚板の縁に、細かい彫りが連なる。

いちばん上に、山形の冠が載る。

冠の上に、獣が三頭並ぶ。

いずれも座って正面を向く。

下段は、扉が三枚ある。

扉の中央に、それぞれ別の図が象嵌される。

左は翼のある獣、中央は植物、右は四つ足の獣。

象嵌は明るい木で、地は濃い木である。

側面には、細い柱が付く。

高さは二メートル半を超える。

品名の欄が、用途を書く

七点の品名を並べてみる。

飾り棚。蓋付きの箱。壁掛け時計。

ピアノ。書き物机。飾り棚。ランプ。

いずれも、用途がそのまま名になっている。

何をするための道具かが、まず書かれる。

絵画の題は、描かれているものを指す。

家具の品名は、使い方を指す。

同じ題の欄でありながら、指すものが違う。

そして、家具の品名には固有名がない。

同じ形の机が何百とあれば、すべて同じ品名になる。

区別は、作者と年と番号でつける。

前の回の記事で、器の名がそのまま題になる例を見た。

家具でも、同じことが起きている。

道具は、道具の名で呼ばれる。

七点に、何人が関わったか

七点の作者の欄に出てくる名は、十一である。

うち二つは、会社や工房の名である。

残る九つが、個人の名だ。

しかし、家具は一人では作れない。

木を挽く人、組む人、彫る人、磨く人。

象嵌を切り出す人、金具を鋳る人。

硝子を吹く人、色を混ぜる人。

数十人が関わった品も含まれている。

記録に残るのは、図を引いた人と、工房の名。

そして、責任を持った職人の名である。

数を書く欄は、どこにもない。

硝子と金属が、木の中に入る

七点の技法の欄を、材料の数で並べてみる。

いちばん少ないのが、木を二種類書くだけの一点。

いちばん多いのが、八つの材料が並ぶ一点である。

木だけで作られた家具は、七点のうち二点しかない。

残る五点には、金属か硝子が含まれる。

真鍮、青銅、銀めっき、銅、錫合金。

硝子、鼈甲、象牙、真珠層。

これらは、木工の職人が作るものではない。

外から買うか、別の職人に頼む。

技法の欄に並ぶ材料の数は、関わる職能の数に近い。

八つの材料が並ぶ一点は、少なくとも数種類の職人を必要とした。

作者の欄には、一人の名しか書かれていない。

欄の長さと、名の数が釣り合わない。

その不釣り合いが、家具の記録の特徴である。

二つの飾り棚を、並べてみる

七点のうち、同じ品名を持つ点が二つある。

どちらも飾り棚である。

一方は1867年に意匠され、1876年ごろ作られた。

他方は1868年から1880年のあいだに作られた。

ほぼ同じ時期の、大きな棚である。

しかし、見え方はまるで違う。

一方は黒く塗られ、面が平らで、装飾がほとんどない。

他方は木の色を生かし、彫りと象嵌で埋め尽くされる。

高さも、181センチと256センチで七十センチ違う。

同じ時代に、正反対の作りが並んでいた。

記録の欄は、その差を数字と材料で示す。

見え方の差までは、書かない。

写真を並べて、はじめて分かることである。

意匠と製作を、分けて書くということ

最後に、この書き方の意味を考えてみたい。

意匠した人と作った人を分けて書く。

この形は、絵画の記録には存在しない。

絵は、描いた人が作った人だからである。

家具では、その二つが分かれる。

分かれるからこそ、記録も分ける。

そして分けたことで、新しい問いが生まれる。

どちらが作者なのか。

館は、その問いに答えを出していない。

二つの名を並べ、役割を添えるだけである。

答えを出さないことが、この記録の判断である。

読む側が、必要に応じて重みを決めればよい。

七点を並べて、そう読めるようになった。

七点を閉じて、もう一度作者の欄を思い返す。

意匠、製作、そして帰属の語。

三つの要素の組み合わせで、欄が作られている。

同じ欄に、性質の違う情報が同居している。

同居させたまま、館は整理していない。

整理すれば、分かりやすくはなる。

そのかわり、いま書けていることの一部が失われる。

読みにくさを引き受けて、書けることを全部書く。

その選択が、この欄の形を決めている。

七点のうち、いまも動くものはどれだけあるだろう。

時計は止まっているかもしれない。

ピアノは調律されていないかもしれない。

電灯には、いまの電気が通るだろうか。

館の記録は、動くかどうかを書かない。

保存の欄があれば、そこに書かれることもある。

七点では、いずれも書かれていない。

道具として作られたものが、見るものになる。

その移り変わりを、記録の欄は追いかけない。

追いかけないことが、記録の限界であり、範囲でもある。

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