美術史・技法

家具の金具だけを、九点集める——十九世紀アメリカの真鍮

引き出しの取っ手、扉の飾り。家具の部品だけが美術館に収蔵されている。金鍍金の真鍮という材料と、型で量産する仕組みを見る。九点のうち四点が同じ記録写真である事情にも触れる。作者の生没年と制作年が合わない点も、そのまま記しておく。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

金具だけを、集める

一枚の記録写真から始めたい。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。直径5.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。エドワード・ハンティング・スミス夫人の寄贈、1968年。この作品は古い記録写真で公開されている。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

画像には、写真そのものが写っている。

黒い縁があり、その内側に白い台紙がある。

さらにその中に、金具が並ぶ。

十点ほどが、間隔を空けて置かれる。

丸い取っ手、細長い引き手、留め具。

いずれも、金属の部品である。

画面の下には、手書きの番号が見える。

そして、上下が反転している。

つまり、撮影用の原板を写したものだろう。

そして、金具の輪郭だけが白く浮く。

記録写真という画像

この画像は、作品そのものではない。

作品を撮影した写真を、さらに写したものである。

そして、番号や文字が写り込んでいる。

美術館の記録写真には、こうした情報が付く。

整理番号、撮影の日付、資料の管理記号。

いずれも、収蔵品を管理するための情報である。

公開画像に、それがそのまま残っている。

見る側には余分に見えるが、記録としては意味がある。

家具の金具という分野

九点は、いずれも家具の金具である。

引き出しの取っ手、扉の飾り、鍵穴の縁。

つまり、家具に取り付ける部品である。

美術館では、家具の部門に分類される。

そして、独立した作品として登録されている。

つまり、部品でありながら、収蔵品でもある。

十九世紀前半の米国で作られた品である。

金鍍金の真鍮

九点の技法は、いずれも同じである。

金鍍金の真鍮とある。

真鍮は、銅と亜鉛の合金である。

黄色く、加工しやすく、錆びにくい。

そこへ、金の薄い層をかける。

すると、金のように見える。

つまり、安価に豪華な見た目を作る技術である。

家具の金具には、この材料がよく使われた。

型で、量産する

金具は、型で作られる。

原型を彫り、そこから鋳型を取る。

そして、溶けた真鍮を流す。

冷えたら、削り、磨き、鍍金する。

つまり、同じ形をいくつでも作れる。

家具には、同じ金具が複数付く。

引き出しが五段なら、取っ手が五組要る。

だから、量産できることが前提になる。

同じ写真が、繰り返される

ここで、画像について書いておきたい。

九点のうち四点は、同じ写真が使われている。

複数の金具を並べた、一枚の集合写真である。

つまり、四つの作品番号に、同じ画像が割り当てられている。

理由は、撮影の都合だろう。

小さな部品を一つずつ撮るより、まとめて撮るほうが早い。

そして、その一枚を各番号に紐づける。

館の記録では、よく行われることである。

集合写真の中の、どれか

同じ写真が使われている以上、どれがその作品かは分からない。

写真には、十数点の金具が写っている。

そのうちの一つが、その番号の作品である。

しかし、どれかは示されていない。

つまり、画像だけでは特定できない。

寸法の記録と照らせば、絞れるかもしれない。

しかし、確実ではない。

当サイトとしては、この状態をそのまま書いておく。

記録の限界を、書く

見えているものと、記録が一致しないことがある。

当サイトでは、繰り返しこの点に触れてきた。

寸法が合わない、年代が合わない、画像が共有されている。

いずれも、公開データにはしばしば現れる。

そのときは、鵜呑みにせず、状態を書く。

分からないことは、分からないと書く。

九点の画像についても、同じ方針である。

集合写真を、見る

二点目も、同じ集合写真である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。縦6.4センチ、横6.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。この作品は、複数の金具を並べた記録写真で公開されている。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

白い台紙の上に、金具が並ぶ。

左の列には、小さな部品が縦に並ぶ。

翼のある人物、二人が向かい合う姿。

そして、机に向かう二人の姿。

右の列には、細長い飾り板が六つ並ぶ。

いずれも、左右対称の文様である。

渦を巻く葉、花、そして中央の装飾。

画像は白黒で、色は分からない。

左右対称という原則

右の列の飾り板を見たい。

いずれも、中央を軸に左右対称である。

渦の向き、葉の数、花の位置。

すべてが、鏡のように対応する。

これは、家具の金具の基本である。

家具は、たいてい左右対称に作られる。

だから、金具も対称でなければならない。

そして、対称の文様は型を作りやすい。

半分を彫れば、反転して写せる。

人の姿を、金具にする

左の列の小さな部品に注目したい。

いずれも、人の姿をしている。

翼のある幼児、女性の像、働く人。

つまり、家具の金具に人物像が使われている。

これは、当時の様式による。

古代の装飾を模した意匠が流行していた。

翼のある幼児、竪琴、月桂の輪。

いずれも、古代に由来する図像である。

鍍金という技術

金鍍金について、もう少し書いておきたい。

当時の方法は、水銀を使うものだった。

金を水銀に溶かし、真鍮の表面に塗る。

そして、熱を加えて水銀を飛ばす。

すると、金だけが残って地に密着する。

薄い層でも、金色に光る。

もっとも、水銀の蒸気は人体に有害である。

職人の健康を損なう作業だった。

技術の歴史には、そうした面もある。

家具に、古代を貼る

十九世紀の前半、古代風の家具が流行した。

脚を獣の足の形にし、背に竪琴の形を使う。

そして、金具に古代の図像を貼る。

つまり、家具そのものが古代の建築や器を模す。

当サイトの
家具の店でも、この時期の家具に触れた。

金具は、その様式を最も安く実現する部分である。

木を彫るより、金具を貼るほうが速い。

三点目も、同じ写真

三点目も、同じ集合写真が使われている。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。縦6.4センチ、横6.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。この作品も、同じ記録写真で公開されている。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

二点目と、同じ写真である。

寸法の記録も、二点目と同じである。

縦6.4センチ、横6.5センチ。

つまり、同じ形の金具が二つあるということだろう。

家具には、同じ金具が対で使われる。

左右の扉に一つずつ、あるいは引き出しごとに。

だから、同じ品が複数収蔵されている。

そして、同じ写真で公開されている。

摩耗の跡

金具は、使われる部品である。

だから、手が触れる場所は摩耗する。

鍍金が薄くなり、下の真鍮が現れる。

そして、色が黄色く変わる。

九点の画像でも、光の当たり方に差がある。

もっとも、白黒の写真では判別できない。

摩耗の程度は、実物を見なければ分からない。

対で、作られる

金具が対で残るのは、自然なことである。

家具から外されるとき、まとめて外される。

そして、まとめて売られ、まとめて寄贈される。

九点がすべて同じ寄贈であるのも、その事情による。

一九六八年、同じ人物からの寄贈である。

つまり、一括して館へ入っている。

もとは、一つの家具か、一組の家具に付いていたのかもしれない。

型の共有

金具の意匠は、作り手のあいだで共有された。

図案集が出回り、そこから型が起こされる。

だから、別々の工房が似た金具を作る。

そして、輸入品も混ざる。

十九世紀前半の米国では、欧州からの輸入が多かった。

つまり、同じ意匠が海を越えて広がる。

館の記録が作者を一人に絞りにくいのも、その事情による。

誰が作ったのか

九点の作者は、一人の名で登録されている。

しかし、実際には工房の仕事だろう。

原型を彫る者、鋳造する者、仕上げる者、鍍金する者。

工程ごとに、担当が分かれる。

つまり、一人の手による作品ではない。

美術館の記録は、代表の名で一括して示す。

そのことは、覚えておきたい。

竪琴を弾く幼児

四点目は、色のある画像である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。縦7.9センチ、横5.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

灰色の背景に、一点だけが置かれる。

金色の金具である。

翼のある幼児が、立っている。

体をひねり、右腕を上げる。

その手に、竪琴らしきものを持つ。

布が、体に巻きついて風になびく。

足元には、花と葉がある。

そして、下端が平らな板になっている。

家具に留めるための面だろう。

一点ずつ、撮る

四点目からは、一点ずつ撮影されている。

灰色の背景に、金具が一つ置かれる。

つまり、集合写真とは撮り方が違う。

同じ寄贈の中でも、扱いが分かれている。

理由は、撮影の時期だろう。

古い記録写真と、新しい撮影が混ざっている。

九点の画像の質の差は、その履歴である。

立体を、平らに近づける

この金具を見ると、厚みが薄い。

人物の体は丸く盛り上がるが、深さは数ミリだろう。

つまり、浅い浮き彫りである。

理由は、用途による。

家具に貼るので、出っ張りすぎると邪魔になる。

そして、衣に引っかかる。

だから、浅く作る。

当サイトの
円い青銅に、横顔を留めるでも、浮き彫りの深さに触れた。

用途が、彫りの深さを決めている。

二人の人物

五点目も、一点ずつの撮影である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。縦6.2センチ、横5.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

金色の金具である。

二人の人物が、寄り添って座る。

左は、衣をまとった女性。

右は、翼のある人物である。

二人は顔を寄せ、腕を絡める。

女性の膝の上に、翼のある人物が座る。

足元には、三日月のような形がある。

そして、下端が平らな板になる。

物語を、金具に刻む

この二人の組み合わせには、由来がある。

古代の物語に登場する一組とされる型である。

つまり、家具の金具にも物語がある。

もっとも、家具に取り付けられれば、細部は見えにくい。

数センチの人物像である。

近づかなければ、模様にしか見えない。

にもかかわらず、物語のある図像が選ばれる。

作る側の教養と、買う側の趣味が、そこに表れている。

六点目も、同じ写真

六点目は、また集合写真である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。この作品も、同じ記録写真で公開されている。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

二点目、三点目と同じ写真である。

つまり、九点のうち四点が同じ画像を共有する。

写真には、十二点ほどの金具が写る。

左の列に、人物像が六つ。

右の列に、細長い飾り板が六つ。

いずれも、白黒である。

そして、台紙の縁が見える。

記録写真の年代

この集合写真は、いつ撮られたのか。

館の記録には、記載がない。

しかし、白黒であること、台紙の形式から、古い撮影とみられる。

寄贈は一九六八年である。

つまり、受け入れの直後に撮られた可能性が高い。

その写真が、いまも公開画像として使われている。

半世紀以上、同じ画像が使われ続けている。

撮り直されないもの

美術館の収蔵品は、すべてが撮り直されるわけではない。

展示に出る機会の多いものは、新しく撮影される。

一方、収蔵庫にあるものは、古い写真のままになる。

家具の金具は、単独で展示される機会が少ない。

だから、古い写真が残る。

当サイトでも、繰り返しこの点に触れてきた。

画像の質にも、館の事情が写っている。

結び目の飾り

七点目は、細長い金具である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

灰色の背景に、横長の金具が置かれる。

中央に、輪が二つ絡み合う。

そして、その左右から細い枝が伸びる。

枝の先は、渦を巻いて終わる。

表面には、細かい葉の模様が刻まれる。

金色に光り、影が下に落ちる。

つまり、引き手か、飾り板だろう。

集合写真の右上にも、同じ形が見える。

集合写真と、単独写真

七点目の形は、集合写真の中にもある。

つまり、同じ品が二通りの方法で撮影されている。

一方は白黒の集合写真、他方は色のある単独写真。

比べると、細部の見え方がまったく違う。

単独写真では、表面の模様まで読める。

集合写真では、輪郭しか分からない。

つまり、撮影の方法が、伝わる情報を決めている。

撮影が、資料を作る

美術館の画像は、資料である。

そして、その質は撮影の条件に依存する。

照明の当て方、背景の色、解像度。

いずれも、見えるものを左右する。

金属の品では、とくに照明が重要である。

反射が強すぎると、模様が飛ぶ。

弱すぎると、彫りが読めない。

九点の画像の差は、その条件の差である。

八点目も、同じ写真

八点目も、集合写真である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。この作品も、同じ記録写真で公開されている。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

四度目の同じ写真である。

九点のうち、四点がこの画像を使う。

つまり、記事の図版としては重複が生じる。

当サイトでは、図版の重複を避けている。

しかし今回は、作品番号が異なるため、別の作品として扱う。

同じ画像であることは、キャプションに明記した。

見る側が混乱しないようにするためである。

別々の番号、同じ画像

同じ画像が複数の作品に使われるのは、なぜか。

作品が小さく、数が多いためである。

一点ずつ撮れば、撮影の回数が膨大になる。

そして、金具は個体差が小さい。

同じ型から作られているからである。

つまり、代表の一枚で足りる、という判断だろう。

もっとも、研究には不十分である。

個体ごとの傷や摩耗は、分からない。

色のある一枚

九点目は、色のある画像である。

家具金具
ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》1820〜30年。金鍍金の真鍮。メトロポリタン美術館蔵。1968年寄贈。ヘンリー・ケラム・ハンコック《家具金具》メトロポリタン美術館蔵

薄い青緑の板の上に、金具が並ぶ。

十四点ほどが、格子状に置かれる。

いずれも、円形か花形である。

中央に穴があり、その周りに模様が広がる。

菊の花のような形、渦を巻く形、平らな円盤。

そして、二つの穴がある細長い板もある。

金色に光り、それぞれ影が落ちる。

つまり、取っ手や飾りの一群である。

円い金具の種類

この一枚に写る金具を分類したい。

花の形をした円盤が七点ほど。

平らな円盤が三点ほど。

そして、細長い板が二点ほど。

つまり、同じ用途の中に、複数の意匠がある。

家具の意匠に合わせて、選べるようにしてある。

つまり、これは見本のような並びである。

注文主が、この中から選ぶ。

見本として、残る

金具は、見本帳として作られることがある。

台紙に貼り、種類を並べて見せる。

そして、注文主が選ぶ。

九点の中にも、そうした見本らしい並びがある。

とくに、九点目の格子状の配置は、その形式に近い。

もっとも、館の記録には、その説明がない。

だから、断定はしない。

見えているのは、複数の金具が並んでいることだけである。

作者の記録が、合わない

ここで、記録の疑問を書いておきたい。

館の記録では、作者の生没年が一八一六年から一八五一年とされる。

一方、作品の年代は一八二〇年から三〇年である。

つまり、作者が四歳から十四歳のころになる。

数字が合わない。

考えられるのは、いくつかである。

同名の別人の生没年が入っている。

あるいは、作品の年代の推定が広い。

または、工房の名として登録されている。

数字が合わないとき

当サイトでは、こうした食い違いを書くことにしている。

館の記録は、多くの担当者と長い年月の積み重ねである。

だから、まれに整合しない箇所が出る。

そして、それは隠されていない。

公開されているから、私たちも気づける。

分からないことは、分からないと書く。

推測で補うことは、しない。

家具の部品を、収蔵する

家具の金具を美術館が収蔵するのは、なぜか。

まず、意匠の資料になる。

十九世紀の家具の様式を知る手がかりである。

次に、修復の参照になる。

失われた金具を補うとき、同時代の品が要る。

そして、工芸の技術の記録でもある。

鋳造、彫金、鍍金。

いずれも、当時の技術水準を示す。

一括寄贈の意味

九点は、いずれも同じ寄贈である。

一九六八年、同じ人物から。

つまり、まとまった一群が館へ渡った。

金具だけを集めた収集だったのかもしれない。

あるいは、家具から外された部品の束だろう。

いずれにせよ、散逸せずに残った。

まとまっているから、種類の幅が分かる。

一点だけでは、比較ができない。

部品の美術

最後に、部品を見ることの意味に触れたい。

金具は、それ自体が目的ではない。

家具を使うための部品である。

引き出しを引き、扉を開けるための道具である。

にもかかわらず、意匠が凝らされている。

翼のある人物、花、渦を巻く葉。

手が触れる小さな面積に、それだけの手間がかかる。

九点を、順に見る

見方を提案して、終わりたい。

九点を、単独の写真と集合写真に分けて見てほしい。

単独で撮られた三点は、細部まで読める。

表面の刻み、縁の処理、鍍金の光。

集合写真の四点は、輪郭だけである。

そして、記録写真の一点は、番号まで写り込む。

つまり、同じ寄贈の品でも、見え方がまったく違う。

作品の違いではなく、撮影の違いである。

美術館の画像を見るとき、その差を意識したい。

見えているのは、物そのものではない。

物を撮った写真である。

そして、写真もまた、時代の産物である。

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