五脚が、同じ寸法である——ダンカン・ファイフの工房
五脚の椅子が、数ミリの差で揃っている。ダンカン・ファイフの工房は、手仕事で規格を実現していた。八点を寸法で並べ、揃いの椅子と大型家具の作りを読む。張り地と帰属の扱いにも触れておきたい。材の使い分けと分業の仕組みも確かめる。

五脚の椅子が、同じ寸法である
一脚の椅子から始めたい。

椅子である。高さ83.2センチ、幅45.1センチ、奥行41.6センチ。
背は二本の支柱で、上部に横木が渡る。横木の中央に、彫りの装飾がある。
その下に、細い材が交差する。X字の形を作り、中央に小さな円い飾りが付く。
座面は籐を編んだものである。四辺の枠に細かい溝彫りがある。
脚は前後とも外へ湾曲する。刀のような曲線である。
前脚の先には、金色の獣の足の飾りが付く。真鍮製である。
同じ形の椅子が、五脚ある
ここで、公開分を確かめたい。同じ形式の椅子が、五脚公開されている。
寸法を並べると、こうなる。
高さは83.2センチが四脚、82.6センチが一脚。
幅は45.1センチが三脚、45.4センチが二脚。
奥行は41.3センチが四脚、41.6センチが一脚。
つまり、差は数ミリである。
揃いの椅子という商品
この一致が意味することを考えたい。食卓には、複数の椅子が要る。
同じ形で揃えるなら、同じ寸法で作る必要がある。
つまり、これは一組として注文された可能性が高い。
家具は、一点ずつ独立した作品ではない。部屋の設えの一部である。
家具が美術館に入る事情については、
別のコラムで扱った。
問い——手作りの家具は、どこまで揃うのか
ここで問いを立てたい。機械による量産の前、家具は手で作られていた。
材を挽き、削り、組む。すべて職人の手仕事である。
その方法で、どこまで同じものが作れるのか。
当サイトには、この工房に関わる家具が25点公開されている。
並べて確かめたい。
座面の仕上げが、違う
五脚を比べたい。まず、座面である。

この一脚も、座面は籐である。細かい格子に編まれている。
しかし別の一脚では、座面に布が張られている。

こちらは、青い絹のクッションが載る。文様の織り込まれた布である。
つまり、同じ骨組みでも仕上げが違う。
籐の座面は涼しく、布のクッションは柔らかい。用途と季節で使い分けられる。
布は、あとから替えられる
材料の記録にも触れておきたい。所蔵館は、材料を「マホガニー、真鍮」と書いている。
布は材料欄に入っていない。
つまり、布は作品の一部として扱われていない。
理由は簡単で、布は交換されるからである。二百年のあいだに、何度も張り替えられている。
家具の張り地が現代のものである例は、
別のコラムでも扱った。
白黒の画像もある
画像についても触れておきたい。五脚のうち一脚は、白黒の画像で公開されている。

形は他の四脚と同じである。X字の背、湾曲した脚、獣足の金具。
しかし色が分からない。マホガニーの赤みも、真鍮の金色も見えない。
つまり、同じ組の椅子でも、画像から読める情報が揃っていない。
画像の差は作品の差ではないという点は、
別のコラムでも扱った。
作者欄が、揃っていない
記録の書き方にも注目したい。この五脚のうち、作者欄に工房名が入るものと、
空欄のものがある。
つまり、同じ形式でも帰属の確からしさに差がある。
家具には署名がないことが多い。だから、形式と材料と来歴から推定する。
推定に幅があれば、記録は断定を避ける。
帰属の根拠は、何か
推定の手がかりを整理したい。第一に、彫りの様式。
第二に、材の選び方と組み方。第三に、来歴の記録である。
第四に、請求書や帳簿が残っていれば、それが最も強い証拠になる。
つまり、家具の帰属も、絵の帰属と同じ問題を抱えている。
帰属が更新される点は、別のコラムでも扱った。
別の形式の椅子
同じ工房の、別の形を見たい。

高さは83.8センチ。先の五脚とほぼ同じである。
しかし、形が違う。背の上部が大きく後ろへ反る。
背の中央には、X字ではなく、渦を巻いた装飾が入る。
そして脚が違う。前脚は旋盤で挽かれた丸い柱で、細かい溝が縦に彫られる。
先端には、金色の小さな飾りが付く。
つまり、背も脚も別の型である。
同じ高さで、形を変える
寸法の共通点に注目したい。高さは83センチ台で揃っている。
これは、卓の高さに合わせた寸法である。
つまり、形式が変わっても、機能に関わる寸法は変えられない。
装飾は流行で変わる。しかし、座面の高さは体の寸法で決まる。