画家を知る

窓のこちら側から——チャイルド・ハッサム

岩と、赤い花

二枚目は、屋外の絵である。

けしの花、シールズ諸島
チャイルド・ハッサム《けしの花、シールズ諸島》1891年。油彩・画布。縦50.2センチ、横61センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。フレデリック・チャイルド・ハッサム《けしの花、シールズ諸島》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

海辺である。手前に草地があり、赤い花が群れている。

けしの花である。点のような赤が、緑の中に散っている。

その奥に、白っぽい岩の露頭が横たわる。

岩の上には草が生え、風になびいて見える。

さらに奥は海である。青灰色の水面が広がる。

水平線の近くに、白い帆が二つ見える。

空は淡い青で、雲は薄い。

画面の下半分が陸、上半分が海と空である。

赤を、どう散らすか

この絵の要は、赤い花の置き方である。

均等に散らせば、模様のようになってしまう。

かたまりすぎれば、緑の面が単調になる。

実際には、手前に密で、奥へ行くほど疎になっている。

そして、赤の一点ずつが少しずつ違う色をしている。

朱に近いもの、桃色に寄るもの、暗く沈むもの。

これが、花の重なりと影を表している。

小さな点の描き分けだけで、草地に厚みが出ている。

島で描くということ

この絵が描かれた島について、少し書いておきたい。

シールズ諸島は、アメリカ北東部の沖にある小さな島々である。

十九世紀の後半、避暑地として知られた。

宿があり、文化人が集まり、庭が作られていた。

ハッサムはそこへ繰り返し通い、庭や岩場を描いたと伝えられる。

つまりこの赤い花は、自生の花ではなく庭の花の可能性がある。

自然の風景に見えて、人の手が入った風景である。

避暑地の絵は、避暑地に来る層に売れる。

主題の選択には、そういう事情も働いていただろう。

庭という主題

庭を描くことは、この時期の絵画で大きな主題になった。

自然そのものでも、都市でもない。人が手を入れた自然である。

花壇には、季節ごとに違う花が咲く。

色を選んで植えられている以上、庭は最初から配色されている。

画家にとっては、これほど都合のよい対象もない。

しかも庭は、私有地である。そこに立ち入れる人は限られる。

避暑地の庭を描いた絵は、その場所を知る人に向けて売られた。

風景画でありながら、閉じた社交の記録でもある。

そう考えると、この絵の赤い花の意味も少し変わる。

野に咲く花ではなく、誰かが選んで植えた花である。

帆と、水平線

この絵の水平線の高さにも触れておきたい。

画面のおよそ三分の二の高さに、水平線が置かれている。

その結果、陸と海が広く、空が狭い。

空を広く取れば、絵は開放的になる。

狭く取れば、画面は近くのものに集中する。

この絵では、手前の花に目を留めさせたい。

だから空を切り詰め、草地を広くしている。

水平線の高さは、絵の中で最も基本的な決定の一つである。

一度決めれば、あとの構図がほぼ決まってしまう。

同じ海岸を、別の日に

三枚目と四枚目も、同じ地域の海岸である。

ニューイングランドの岬
チャイルド・ハッサム《ニューイングランドの岬》1899年。油彩・画布。縦68.9センチ、横68.9センチ。シカゴ美術館蔵。フレデリック・チャイルド・ハッサム《ニューイングランドの岬》シカゴ美術館蔵

正方形の画面である。縦横ともに68.9センチ。

手前に岩場があり、その上に建物が並ぶ。

白い壁と、灰色の屋根の家である。

家々のあいだに木が生え、緑が点在する。

その向こうに湾が広がり、白い帆が数多く浮かぶ。

さらに奥に、低い陸地が横たわる。

空は淡い水色で、画面の上部を占める。

全体に明るく、影が薄い。

北東の岬
チャイルド・ハッサム《北東の岬》1901年。油彩・画布。縦63.8センチ、横76.4センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。フレデリック・チャイルド・ハッサム《北東の岬》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

こちらは、岩場そのものが主題である。

画面の中央に、大きな岩の塊が横たわる。

岩は黄褐色と灰色で、割れ目が縦横に走る。

手前には、崩れた石が散らばっている。

右奥は海で、青緑の水面が続く。

岩に当たる光は強い。影がはっきり出ている。

先ほどの二枚と比べると、色数が少ない。

黄褐色と青緑、この二色でほぼ画面ができている。

岩を描く画家

十九世紀のアメリカでは、海岸の岩がよく描かれた。

北東部の海岸線には、大きな露頭が並ぶ土地がある。

当サイトでも
リチャーズの水彩で、
同じ海岸を扱った画家を紹介した。

同じ土地を、複数の画家が別々の方法で描いている。

リチャーズは細部を精密に写した。

ハッサムは、面と色に還元している。

同じ岩でも、目的が違えば絵は変わる。

正方形という形

《ニューイングランドの岬》が正方形であることにも触れたい。

縦横ともに68.9センチ。ぴったり同じである。

風景画で正方形を使うのは、やや珍しい。

横長なら水平線が生き、縦長なら空か水面が強調される。

正方形は、そのどちらにも傾かない。

結果として、画面は地図のように平らに見えてくる。

この絵では、家と湾と遠景が、上へ積み重なるように配置されている。

奥行きよりも、面の重なりとして読める構図である。

こうした空間の扱いは、日本の版画の影響としてしばしば語られる。

高い視点から、面を積み上げるように風景を並べる方法である。

当サイトでも
浮世絵が西洋の絵を変えた話で扱った。

ただし、ハッサムがどの作例を見たかまでは確認できていない。

白い帆の数

この絵には、湾に浮かぶ帆が数多く描かれている。

一つずつは、白い三角の小さな面にすぎない。

しかし数が多いので、湾全体が明るく見える。

点在する白は、視線を画面の奥へ運ぶ役割も果たす。

手前の家並みの白い壁と、湾の白い帆。

同じ白が、手前と奥で呼応している。

こうした色の反復は、この画家がよく使う手である。

赤い屋根と赤い花、緑の木立と緑の海。

画面のあちこちに、同じ色を散らして統一を作る。