暮らしと名画

額をどう選ぶか——ラファエロとデッカーの額から考える

大きい絵は、縁が細い

反対の例を見てほしい。

父と息子
ジョナサン・バディントン《父と息子》1800年。油彩・画布。画面は縦104.1センチ、横89.8センチ。額込みで縦105.2センチ、横91.4センチ、奥行5センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。父と息子》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

赤い垂れ布の前に、二人が座っている。

左の男性は黄土色の上着に黒い胴着、白い襟布を結んでいる。

緑の椅子の背が、体の左に見える。

右の少年は黒い上着に白いひだ襟。手には黄色い紙のようなものがある。

顔はどちらも正面を向き、視線がこちらへ来る。

寸法を確かめたい。画面104.1センチに対し、額込み105.2センチである。

差は1.1センチ。つまり縁の幅は片側で5ミリ程度しかない。

若者とその家庭教師の肖像
ニコラ・ド・ラルジリエール《若者とその家庭教師の肖像》1685年。油彩・画布。画面は縦146センチ、横114.8センチ。額込みで縦147.3センチ、横115.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ニコラ・ド・ラルジリエール《若者とその家庭教師の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

こちらは1メートル半の大きな肖像である。

左に黒衣の年長者、右に巻き毛の若者。若者は金色の布を膝に掛けている。

手前に長毛の犬が一匹、顔を上げている。

背景は列柱と秋の木立。石の台に日付と署名がある。

この作品も、額込みとの差は1.3センチしかない。

大きい絵は細い縁で足り、小さい絵は太い額を必要とする。

理由は難しくない。

小さい絵は、壁の中で見失われやすい。額が視線を集める役をする。

大きい絵は、それ自体が壁を支配する。太い額は、かえって邪魔になる。

もう一つ、実務的な理由もある。重さである。

1メートルを超える絵に、幅10センチの木の額を回すと、相当な重量になる。

壁の強度と吊り具の限界がある。細い縁は、その制約への答えでもある。

美術館の記録に奥行が書かれているのは、この重さと厚みを扱うためだろう。

明るい絵と、暗い絵

もう一つの軸は、明るさである。

ルネ・ド・ガス
エドガー・ドガ《ルネ・ド・ガス》1855年。油彩・画布。画面は縦38.6センチ、横32.1センチ。額込みで縦55.9センチ、横49.2センチ、奥行6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。エドガー・ドガ《ルネ・ド・ガス》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

少年の胸像である。画家の弟を描いたものだ。

背景は一様なオリーブ色。上着は黒に近く、襟だけが白い。

顔だけが明るく、頬に淡い赤みがある。

画面全体が暗い。だから顔が浮き上がる。

この絵の額は、片側で8センチほどの幅を持つ。

暗い絵に太い額を付けると、画面の暗さが「閉じた空間」に見えてくる。

逆に細い縁だと、暗い画面が壁の穴のように見える。

どちらがよいかは目的次第だ。落ち着かせたいなら太く、緊張させたいなら細く。

なお、この絵の画面は40センチ足らずである。

家の壁に掛けるなら、いちばん扱いやすい大きさでもある。

窓辺の少女
メアリー・カサット《窓辺の少女》1883〜1884年ごろ。油彩・画布。画面は縦100.3センチ、横64.7センチ。額込みで縦134センチ、横96.5センチ、奥行12.7センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。メアリー・カサット《窓辺の少女》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

対照的に、こちらは明るい絵である。

白い帽子と白い服の少女が、籐椅子に座っている。

膝に小さな犬を抱き、右手で背を撫でている。

背後は緑の手すりと、パリらしい灰青の街並み。

筆触は粗く、白の中に桃色と水色が混ざる。

額込みの寸法を見てほしい。片側で17センチ近い。奥行は12.7センチある。

明るく淡い絵に、深く太い額が付けられている。

このくらい強い縁がないと、白っぽい画面は壁に溶けてしまう。

ただし、現在の額がいつ作られたものかは、公開されている記録からは分からない。

いま美術館で見る組み合わせは、後世の判断である場合が多い。

だから美術館で絵を見るときは、額も一緒に見ておくと面白い。

その額が絵と同じ時代のものか、後から付けられたものか。

金の摩耗の位置、角の継ぎ目、彫刻の様式。手がかりはいくつもある。

絵の年代と額の様式が合わない例は、意外に多い。

家で額を選ぶ——六つの手順

ここから実際の話に移りたい。

順番に決めていくと、迷いが減る。

一つめ。掛ける壁を先に決める。

窓からの光が横から当たる壁が扱いやすい。正面から当たると反射する。

二つめ。高さを決める。

画面の中心を、床から140〜150センチに置く。立って見る高さである。

座って見る部屋なら、少し下げる。

三つめ。額込みの寸法から考える。

先に見たとおり、額は面積を大きく変える。

壁の空きに対して、額込みで七割を超えないほうが落ち着く。

四つめ。額の幅を決める。

目安として、絵の短辺の八分の一から十二分の一で試すとよい。

30センチの絵なら、幅2.5〜4センチである。

小さい絵は比率を上げ、大きい絵は下げる。先の数字と同じ考え方である。

五つめ。色を決める。

絵の中で二番目に多い色を額に持ってくると、たいてい馴染む。

いちばん多い色を使うと、絵と額が一体化して主題が弱くなる。

六つめ。紙の作品は、必ず余白を入れる。

マットを挟み、画面がガラスに触れないようにする。

紙は湿気で波打つ。ガラスに密着すると、貼り付いて剥がれなくなる。

余白の幅は、上下左右を同じにしなくてもよい。

下だけ少し広くすると、視覚的に安定する。掛けたときに絵が沈まない。

古い版画の台紙も、下辺を広く取ったものが多い。

湯浴みする女
メアリー・カサット《湯浴みする女》1890〜1891年。淡黄色の簀の目紙に多色アクアチント・ドライポイント。版面は縦36.4センチ、横26.9センチ。紙全体は縦43.2センチ、横30.5センチ。シカゴ美術館蔵。メアリー・カサット《湯浴みする女》シカゴ美術館蔵

紙の作品では、余白そのものが作品の一部になることがある。

この一点を見てほしい。女性が身をかがめ、洗面台の器で手を洗っている。

縞の布が腰に巻かれ、床には青地に花模様の敷物。壁は深い緑青色である。

輪郭は細い線で、色は平らな面で置かれている。浮世絵の影響が明らかである。

注目したいのは画面の外側だ。

版の跡が四角く残り、その外に紙の余白が広がっている。

下の余白には鉛筆の書き込みがある。

「画家とムッシュー・ルロワにより刷られた」「メアリー・カサット」「25枚」と読める。

刷った人の名と部数が、余白に手書きされている。

つまりこの余白を隠すと、作品の情報が消える。

紙の作品を額装するとき、版面のぎりぎりで切ってはいけない理由がここにある。

窓を開けるマットは、紙の縁より内側に入れない。書き込みまで見せる。

浮世絵が西洋の絵に何を与えたかは別のコラムで扱った。