額をどう選ぶか——ラファエロとデッカーの額から考える
ガラスと、光の話
材料の選択もいくつかある。
ガラスは平滑で写りがよいが、重く、割れる。
アクリルは軽く割れにくいが、傷が付きやすく、静電気で粉状の絵具を引き寄せる。
パステルや木炭の作品にアクリルを使わないのは、この静電気のためである。
紫外線を減らす加工のあるものもある。値段は上がるが、色の褪せは確実に遅くなる。
そして、いちばん効くのは置き場所である。
直射日光の当たる壁は、どんなガラスを使っても避けたほうがよい。
西向きの窓の正面は、夏の午後に温度も上がる。
紙も木も、温度と湿度の変動で伸び縮みする。動きが続くと、波打ちや割れになる。

横長の絵である。緑の草地に、騎手が六人ほど並んでいる。
上着の色は黄、白、青、赤。馬は栗色で、影が足元に短く落ちる。
右奥に見物の人影があり、遠くの丘は霞んでいる。
この絵の額は、片側で6センチほど。横幅に対しては細い。
横長の画面は、視線が左右に動く。太い縁はその動きを止めてしまう。
額は、絵の一部になることがある
もう一つ書いておきたい。
画家が額まで設計した例がある。
19世紀後半には、自分で額の形と色を決め、署名まで入れた画家がいた。
その場合、額を替えることは作品を変えることに近い。
題名と額を自分で管理した画家の話は別のコラムで扱った。
現代の複製画やポスターを飾るときも、この考え方は使える。
額を「保護する箱」と見るか、「絵の一部」と見るかで、選び方が変わる。
複数枚を並べるとき
壁に何枚か並べる場合の原則は二つである。
一つ、額を揃えて中身の違いを見せる。
もう一つ、額を変えて一枚ずつ独立させる。
混ぜると散らかる。どちらかに決めたほうがよい。
美術館の展示室でも、この二通りが使い分けられている。
同じ画家の連作は額を揃え、時代の違う作品は額を変える。
見比べてほしいものを揃え、切り離したいものを変える。原則は同じである。
並べる間隔は、額の幅と同じか、少し狭くすると連続して見える。
離しすぎると、別々の絵として読まれる。
高さの揃え方も二通りある。
中心を揃えるか、上辺を揃えるか。
大きさの違う額を並べるときは、中心を揃えたほうが乱れが少ない。
数字で言うと、隣り合う額の間隔は5〜8センチが扱いやすい。
壁の面積が広い場合は、間隔を広げるより、額を大きくするほうがまとまる。
飾らないという選択
最後に、逆の話もしておきたい。
額に入れなくてもよい。
紙の作品は、平らな箱に入れて仕舞い、季節ごとに出す方法がある。
日本の掛け軸や屏風は、もともとそういう扱いをされてきた。
出しておかなければ、色は褪せない。
一年のうち数週間だけ掛ける、という付き合い方もある。
季節に合わせて掛け替えると、同じ一枚でも見え方が変わる。
掛け替えの手間を含めて、暮らしの一部にできるかどうかが分かれ目になる。
美術館が水彩や版画の展示期間を短く区切るのと、同じ理屈である。
家具として置く物と、仕舞う物を分けて考えると、暮らしの負担が減る。
賃貸で壁に穴を開けたくない場合は、床置きという方法もある。
大きめの額を床に立て、壁に軽く寄せる。棚の上に立てるのも同じ考え方だ。
この置き方だと、額の下辺が汚れる。安価な額のほうが向いている。
固定しないぶん、模様替えも簡単になる。
家具が美術館でどう扱われているかは別のコラムで扱った。
暮らしへ——壁に、紙を貼って測ってみる
最後に、日常に持ち帰れる話をひとつ。
額を買う前に、新聞紙を額込みの寸法に切って壁に貼ってみてほしい。
数日置いて、生活の中で邪魔にならないかを見る。
これだけで、失敗はかなり減る。
家族がいるなら、貼ったまま数日過ごしてもらうとよい。
視線の高さは人によって違う。座る位置も違う。
住む人の目の高さの平均で決めると、落ち着く場所が見つかる。
高さの感覚も、紙を上下に動かして確かめられる。
そのうえで一つ、覚えておくとよいことがある。
額は、あとから替えられる。絵は替えられない。
美術館の額も、そう考えられている。
作品は動かせないが、額は時代ごとの判断で付け替えられてきた。
いま見ている組み合わせは、その時代の趣味の記録でもある。
家の壁でも同じことが起きる。数年たてば、別の額が合うようになる。
だから最初の一枚は、額に迷って買うのをやめないほうがよい。
市販の規格額から始めて、気に入ったら作り直せばよい。
額を替えて掛け直すと、同じ絵が別の絵のように見える。
その変化を自分の目で確かめておくと、次の一枚を選ぶときに効いてくる。
一枚と長く付き合う方法はこちらのコラムにまとめた。










