額をどう選ぶか——ラファエロとデッカーの額から考える
絵の大きさは二つある。画面の寸法と、額込みの寸法である。小さな静物画は額に入ると面積が五倍を超える。美術館の記録で額の幅を比べ、明るい絵と暗い絵の違いを見たうえで、家で額を選ぶ六つの手順と紙作品の注意点をまとめた。

絵の大きさは、二つある
一枚の小さな油彩から始めたい。

木の籠が横倒しになっている。
中から緑色の実がこぼれ、台の上に散っている。実の数は二十数個。
籠は薄い板を組んだもので、隙間から向こうが見える。
背後に灰青色の布。折り目が硬く、紙のような質感である。
台は暗褐色で、実の影が短く落ちている。
右下に署名がある。
実の質感が細かい。表面の粉っぽさと、光の当たった側の照りが描き分けられている。
籠の板は薄く、木目と割れ目まで拾われている。
こういう絵は、近づいて見ることを前提に描かれている。
騙し絵に近い写実については別のコラムで扱った。
面積では、五倍以上になる
さて、寸法を見てほしい。
画面は22.9×27.8センチ。葉書を二枚並べたほどの大きさである。
一方、額込みでは55.6×63.5センチになる。
縦も横も二倍以上。面積で比べると五倍を超える。
壁に掛けたときに占める場所は、絵そのものではなく、この額込みの寸法で決まる。
さらに、額の外にも余白が要る。
絵の左右に何も無い壁が残らないと、画面が窮屈に見える。
目安として、額の幅の二倍から三倍の空きを見ておきたい。
そう考えると、この小さな絵一枚のために、幅1メートル以上の壁が必要になる。
小さな絵を買ったつもりで、実際には座卓ほどの面積を壁に確保することになる。
額を選ぶ話は、まずこの事実から始めたい。
額は装飾ではなく、寸法の決定である。
そのうえで、額の仕事を三つに分けておきたい。
一つ、保護である。縁の欠けを防ぎ、板や画布の反りを抑える。
紙の作品では、ガラスと裏板で挟んで湿気と埃を遮る。
二つ、境界である。絵と壁のあいだに線を入れ、画面を独立させる。
境界が無いと、絵は壁の模様の一部として読まれてしまう。
三つ、格付けである。太く彫りの深い額は、その絵が重要だと告げる。
この三つ目は厄介である。額が絵の価値を主張してしまうからだ。
安い絵に立派な額を付けると、絵より額が目立つ。逆もある。
つまり額選びは、絵に対する評価をこちらが表明する行為でもある。
美術館の記録には、寸法が三つ書かれている
もう一点、寸法の話を続ける。

金地の前に、髭の男性が半身で立っている。
赤い衣に緑の外衣。右手に細い筆を持ち、左手に赤い書物を支えている。
頭のうしろに、細かい打ち出し模様の光輪がある。
顔の左右に文字がある。「SCS」「MATHEV」——聖マタイの意味である。
そして画面の外側を、暗い色の枠が囲んでいる。
上部は半円形のアーチで、下辺には金の細い縁が見える。
この枠は、あとから付けた額ではない。
14世紀の板絵では、枠と画面が同じ板から作られることが多かった。
つまり額は、絵の一部だった。
所蔵館の記録も、寸法を三つ書き分けている。
描画面、板の全体、そして額込み。
「作品の大きさ」は、どこまでを作品と考えるかで変わる。
もう一つ、この一点には来歴の問題がある。
同じ所蔵館には、同じ寸法の聖人像が四点ある。
いずれも同じ画家の作で、制作年も同じとされる。
もとは一つの祭壇画の部分だったと考えられている。
つまりこれらは、大きな一点から切り分けられた断片である。
現在は一点ずつ額に入り、独立した作品として並んでいる。
額が、断片を「一枚の絵」に見せているということだ。
額の働きとして、これは見逃せない。
いつから、額は別部品になったのか
板と一体だった枠が、独立した額になるのは16世紀以降である。
画布が支持体として広まったことが関係している。
木枠に張った画布は、それ自体が縁を持たない。だから外から縁を与える必要がある。
さらに、絵が売り物として移動するようになった。
移動する絵には、取り替えられる額のほうが都合がよい。
こうして額は、絵とは別に選ばれ、別に注文され、別に売られるようになった。
18世紀から19世紀のヨーロッパでは、額は建物の内装に合わせて選ばれた。
部屋の壁と天井の装飾に揃えるため、同じ様式の額を並べる。
絵ごとに最適な額を選ぶという考え方は、比較的新しい。
美術館という場所ができて、絵が一点ずつ独立して見られるようになった結果である。
現在私たちが見ている古い絵の額は、後の時代のものであることが多い。
小さい絵ほど、額が太い
数字を並べてみると、傾向がはっきり出る。

白馬に乗った騎士が、槍で竜を突いている。
騎士は銀色の甲冑をまとい、背に青緑の外套が翻る。
竜は緑色で、口を開けて地に伏している。翼が黒い。
右奥に赤い衣の女性が跪き、手を合わせている。その先は水辺である。
左は岩、中央奥に城の塔、空は淡い青。
画面は葉書大よりわずかに大きい。しかし額の奥行は8.3センチある。
厚みのある箱に、小さな絵が納められている状態である。
この絵がなぜ小さいのかにも、理由がある。
所蔵館の記録には、画中の細部に「ガーター勲章の銘の冒頭」が書かれていると記されている。
騎士の脚に巻かれた帯の文字である。
イギリスの勲章に関わる図像が入っているということは、贈り物として作られた可能性を示す。
小さい絵は運べる。運べる絵は贈れる。
持ち運ぶ前提の絵に厚い額が付くのは、移動のあいだ画面を守るためでもある。
額の厚みは、その絵がどう扱われたかの記録でもある。