暮らしと名画

額をどう選ぶか——ラファエロとデッカーの額から考える

絵の大きさは二つある。画面の寸法と、額込みの寸法である。小さな静物画は額に入ると面積が五倍を超える。美術館の記録で額の幅を比べ、明るい絵と暗い絵の違いを見たうえで、家で額を選ぶ六つの手順と紙作品の注意点をまとめた。

緑の梅
ジョセフ・デッカー《緑の梅》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

絵の大きさは、二つある

一枚の小さな油彩から始めたい。

緑の梅
ジョゼフ・デッカー《緑の梅》1885年ごろ。油彩・画布。画面は縦22.9センチ、横27.8センチ。額込みで縦55.6センチ、横63.5センチ、奥行7.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョセフ・デッカー《緑の梅》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

木の籠が横倒しになっている。

中から緑色の実がこぼれ、台の上に散っている。実の数は二十数個。

籠は薄い板を組んだもので、隙間から向こうが見える。

背後に灰青色の布。折り目が硬く、紙のような質感である。

台は暗褐色で、実の影が短く落ちている。

右下に署名がある。

実の質感が細かい。表面の粉っぽさと、光の当たった側の照りが描き分けられている。

籠の板は薄く、木目と割れ目まで拾われている。

こういう絵は、近づいて見ることを前提に描かれている。

騙し絵に近い写実については別のコラムで扱った。

面積では、五倍以上になる

さて、寸法を見てほしい。

画面は22.9×27.8センチ。葉書を二枚並べたほどの大きさである。

一方、額込みでは55.6×63.5センチになる。

縦も横も二倍以上。面積で比べると五倍を超える。

壁に掛けたときに占める場所は、絵そのものではなく、この額込みの寸法で決まる。

さらに、額の外にも余白が要る。

絵の左右に何も無い壁が残らないと、画面が窮屈に見える。

目安として、額の幅の二倍から三倍の空きを見ておきたい。

そう考えると、この小さな絵一枚のために、幅1メートル以上の壁が必要になる。

小さな絵を買ったつもりで、実際には座卓ほどの面積を壁に確保することになる。

額を選ぶ話は、まずこの事実から始めたい。

額は装飾ではなく、寸法の決定である。

そのうえで、額の仕事を三つに分けておきたい。

一つ、保護である。縁の欠けを防ぎ、板や画布の反りを抑える。

紙の作品では、ガラスと裏板で挟んで湿気と埃を遮る。

二つ、境界である。絵と壁のあいだに線を入れ、画面を独立させる。

境界が無いと、絵は壁の模様の一部として読まれてしまう。

三つ、格付けである。太く彫りの深い額は、その絵が重要だと告げる。

この三つ目は厄介である。額が絵の価値を主張してしまうからだ。

安い絵に立派な額を付けると、絵より額が目立つ。逆もある。

つまり額選びは、絵に対する評価をこちらが表明する行為でもある。

美術館の記録には、寸法が三つ書かれている

もう一点、寸法の話を続ける。

聖マタイ
シモーネ・マルティーニ《聖マタイ》1315〜1320年ごろ。板にテンペラ。描画面は縦26.4センチ、横19.6センチ。板の全体は縦30.8センチ、横23.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。シモーネ・マルティーニ《聖マタイ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

金地の前に、髭の男性が半身で立っている。

赤い衣に緑の外衣。右手に細い筆を持ち、左手に赤い書物を支えている。

頭のうしろに、細かい打ち出し模様の光輪がある。

顔の左右に文字がある。「SCS」「MATHEV」——聖マタイの意味である。

そして画面の外側を、暗い色の枠が囲んでいる。

上部は半円形のアーチで、下辺には金の細い縁が見える。

この枠は、あとから付けた額ではない。

14世紀の板絵では、枠と画面が同じ板から作られることが多かった。

つまり額は、絵の一部だった。

所蔵館の記録も、寸法を三つ書き分けている。

描画面、板の全体、そして額込み。

「作品の大きさ」は、どこまでを作品と考えるかで変わる。

もう一つ、この一点には来歴の問題がある。

同じ所蔵館には、同じ寸法の聖人像が四点ある。

いずれも同じ画家の作で、制作年も同じとされる。

もとは一つの祭壇画の部分だったと考えられている。

つまりこれらは、大きな一点から切り分けられた断片である。

現在は一点ずつ額に入り、独立した作品として並んでいる。

額が、断片を「一枚の絵」に見せているということだ。

額の働きとして、これは見逃せない。

いつから、額は別部品になったのか

板と一体だった枠が、独立した額になるのは16世紀以降である。

画布が支持体として広まったことが関係している。

木枠に張った画布は、それ自体が縁を持たない。だから外から縁を与える必要がある。

さらに、絵が売り物として移動するようになった。

移動する絵には、取り替えられる額のほうが都合がよい。

こうして額は、絵とは別に選ばれ、別に注文され、別に売られるようになった。

18世紀から19世紀のヨーロッパでは、額は建物の内装に合わせて選ばれた。

部屋の壁と天井の装飾に揃えるため、同じ様式の額を並べる。

絵ごとに最適な額を選ぶという考え方は、比較的新しい。

美術館という場所ができて、絵が一点ずつ独立して見られるようになった結果である。

現在私たちが見ている古い絵の額は、後の時代のものであることが多い。

小さい絵ほど、額が太い

数字を並べてみると、傾向がはっきり出る。

聖ゲオルギウスと竜
ラファエロ《聖ゲオルギウスと竜》1506年ごろ。板に油彩。画面は縦28.5センチ、横21.5センチ。額込みで縦53.3センチ、横47.6センチ、奥行8.3センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ラファエロ・サンティ《聖ゲオルギウスと竜》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

白馬に乗った騎士が、槍で竜を突いている。

騎士は銀色の甲冑をまとい、背に青緑の外套が翻る。

竜は緑色で、口を開けて地に伏している。翼が黒い。

右奥に赤い衣の女性が跪き、手を合わせている。その先は水辺である。

左は岩、中央奥に城の塔、空は淡い青。

画面は葉書大よりわずかに大きい。しかし額の奥行は8.3センチある。

厚みのある箱に、小さな絵が納められている状態である。

この絵がなぜ小さいのかにも、理由がある。

所蔵館の記録には、画中の細部に「ガーター勲章の銘の冒頭」が書かれていると記されている。

騎士の脚に巻かれた帯の文字である。

イギリスの勲章に関わる図像が入っているということは、贈り物として作られた可能性を示す。

小さい絵は運べる。運べる絵は贈れる。

持ち運ぶ前提の絵に厚い額が付くのは、移動のあいだ画面を守るためでもある。

額の厚みは、その絵がどう扱われたかの記録でもある。