作品を知る

虫は、数がそろって主題になる——呉炳・歌麿・グランヴィルほか九点

壺が、丸まった虫の形をしている

四点目では、虫が器になる。

人頭形の注口をもつ、丸まった昆虫の形の壺
チムー《人頭形の注口をもつ、丸まった昆虫の形の壺》1200年から1450年。館の記録では、陶器。15.2×26.7×25.7センチ。番号は1957.594。シカゴ美術館蔵。チムー《人頭形の注口をもつ、丸まった昆虫の形の壺》シカゴ美術館蔵

黒っぽい陶器の壺である。

全体は輪の形に近い。

胴が太く曲がり、両端が近づいている。

その曲がった胴の表面に、節が並ぶ。

節は輪のように、体を横に区切る。

一方の端には、脚らしい短い突起が幾つも並ぶ。

もう一方の端は、少し持ち上がる。

そして胴の上に、筒が立っている。

筒の口は上を向く。

その筒の根元に、人の頭が付いている。

顔は正面を向き、目と口が浅く彫られている。

頭には帽子のようなものが載る。

館の記録では、これは丸まった昆虫の形をした壺である。

そして注ぎ口が、人の頭の形をしている。

館の記録は、そう書いている。

つまりこの器は、虫の体に人の頭を接いだ形をしている。

古代の南米の器については、器という単位で扱った。

九点のうち、虫が器そのものになっているのは、この一点である。

そして丸まった形が選ばれていることにも意味がある。

まっすぐな虫では、器の胴にならない。

丸まれば、中に空洞ができる。

つまり虫の姿勢が、器の機能を決めている。

節の並びは、そのまま器の表面の装飾になる。

指で持てば、節に指がかかる。

飾りと持ち手が、同じ形で兼ねられている。

そして注ぎ口だけが、人の頭になっている。

液体は、その頭の口ではなく、頭の上から出る。

虫たちが、服を着て踊る

五点目は、風刺の素描である。

昆虫の舞踏会
ジャン=ジャック・グランヴィル《昆虫の舞踏会》1835年。館の記録では、ペンと黒インク、水彩。紙は12.5×21.3センチ。番号は2008.345。クリーヴランド美術館蔵。ジャン=ジャック・グランヴィル《昆虫の舞踏会》クリーヴランド美術館蔵

横長の小さな紙である。

12.5×21.3センチしかない。

画面の下半分に、虫が大勢集まっている。

数えると、二十匹を超える。

みな後ろ脚で立っている。

閉じた羽が、体の後ろへ垂れる。

その垂れ方が、上着の裾や、裾の広がった服の輪郭に見える。

触角が頭から伸び、髪飾りのようになる。

中央では、二匹が向かい合って手を取る。

左のほうでは、太鼓のようなものを叩く一匹がいる。

弦のある楽器を抱えた一匹もいる。

上のほうには、細長い台が横に走る。

そこにも虫が並んでいる。

館の記録では、作者はこの群れを自然に忠実に描いた。

そして同時に、当時の社会の風刺にもなっているという。

虫は後ろ脚で立ち、閉じた羽が十九世紀の服の輪郭を写している。

館の記録は、そう読んでいる。

さらに、この人が動物を人のように描く空想の挿絵で知られていたと書く。

この図案は、ある雑誌に載せた五十点を超える挿絵の一つだという。

つまりこの虫たちは、印刷されて広く配られた。

九点のうち、虫が服を着ているのは、この一点だけである。

そして虫の種類は、描き分けられている。

甲虫らしい丸い体、蜻蛉らしい細い体、蜂らしい縞の体。

館の記録が自然に忠実と書くのは、この描き分けを指している。

つまり風刺でありながら、種類は正確である。

正確であることが、笑いを強くしている。

もし種類が曖昧なら、ただの空想の生きものになる。

見る人が虫を知っているからこそ、服を着た姿がおかしい。

幼虫は、闇の中の顔になる

六点目は、石版である。

醜い幼虫
オーギュスト・クロ《醜い幼虫》1896年。館の記録では、中国紙に石版、網目紙に貼付。図は17.9×17センチ。番号は1966.413.6。クリーヴランド美術館蔵。オーギュスト・クロ《醜い幼虫》クリーヴランド美術館蔵

暗い画面である。

上半分は、黒く塗り込められている。

黒の中には、細かい引っかき傷のような白い線が走る。

下半分は、灰色から白へ向かって明るくなる。

その明暗の境目に、形がある。

丸い塊が二つ、並んでいる。

それぞれの中に、白い点がある。

目のように見える。

塊の下には、細い線が幾筋も垂れる。

脚のようにも、髭のようにも見える。

輪郭ははっきりしない。

館の記録では、この連作はある小説から着想を得ている。

十九世紀半ばに出た、怪異を扱った物語だという。

作者は、あいまいでありながら喚起する図像によって、その本の気配を捉えた。

ときに抽象に近づくと記録は書く。

そして、この石版は熟練の刷り師との共同で作られた。

石版のクレヨンを寝かせて使い、痕を重ね、石の表面を直接引っかいた。

その技によって、豊かな階調が生まれているという。

館の記録は、そう説明している。

題の下には、醜い幼虫という語が刷り込まれている。

つまり題も、印刷された文字として画面に入っている。

この一枚は、画家と刷り師の共同で作られている。

館の記録は、刷り師の名を作者として登録している。

石に描いたのは画家で、刷ったのはこの人である。

一枚の版画に、二人の手が入っている。

そして図は中国紙に刷られ、それを別の紙に貼ってある。

薄い紙は階調をよく受けるが、そのままでは扱えない。

だから台紙に貼る。

紙が二枚重なっていることが、この黒の深さを支えている。

盆の縁が、虫の脚になる

七点目は、銀の盆である。