虫は、数がそろって主題になる——呉炳・歌麿・グランヴィルほか九点

細長い盆である。
長さは76.9センチある。
幅は19.9センチしかない。
つまり極端に細長い。
盆の面は金色で、平らに磨かれている。
その縁は、両端へ向かってすぼまる。
先端は細く尖り、上へ反り返る。
反り返った先には、白い象牙が付く。
盆の両側面には、細い金属の脚が並ぶ。
脚は下へ向かって折れ、床に接する。
数は左右に数本ずつある。
その並び方は、体の側面から出る虫の脚に似ている。
館の記録では、この盆は茶と珈琲の一組の一部である。
卓や、いまは失われた碗とともに、一つの組として意匠された。
そして、ある博覧会に出品されたという。
館はさらに、注意を引く一行を添えている。
いくつかの動物や昆虫の意匠は、神話の獣や、古い時代の動物の化石を思わせる。
館の記録は、そう書いている。
つまりこの盆の形は、虫を写したとは断定されていない。
思わせる、という言い方にとどまっている。
そして材料の組み合わせも見ておきたい。
金鍍金の銀と、象牙である。
金色の面の先端に、白い象牙が付く。
色の対比は、虫の体と触角の関係にも似ている。
もっとも、これもこちらの見立てである。
館の記録が書いているのは、材料の名と、この盆が組の一部だということだけである。
そして来歴の欄は長い。
作者から買った人が遠い国へ持ち帰り、その地に長くとどまった。
細長い金色の盆が、大陸を越えて運ばれている。
蜂は、姿を見せずに刺す
最後の二点で、虫は見えなくなる。

たいへん小さな浮き彫りである。
6.8×9.2センチしかない。
左に、衣をまとった女が立っている。
体をひねり、右手を前へ伸ばす。
顔は下を向く。
その足もとに、小さな人物がいる。
翼があり、片腕を上げている。
顔を女のほうへ向けている。
右には、木が数本立つ。
奥には、建物の屋根と塔が見える。
地面は平らで、細かい草が刻まれている。
館の記録では、この浮き彫りは古代の詩を絵解きしている。
蜜を盗もうとして蜂の群れに刺された小さな神が、母のもとへ逃げ込む。
これほど小さな生きものがこれほどの痛みを与えることに驚く子へ、母はこう言う。
蜂の刺すのと同じように、恋の矢も危ういのだと。
館の記録は、その話をそう伝えている。
つまりこの場面は、刺されたあとである。
蜂はすでに去っている。
画面のどこにも、羽のある虫はいない。
あるのは、訴える身ぶりと、それを受け止める姿だけである。

白い大理石の立像である。
高さは113センチある。
幼い子どもが、まっすぐ立っている。
髪は短く巻き、額の上でまとめられている。
顔は正面を向き、口を結ぶ。
右手には、小さな杯を持っている。
杯は胸の前で支えられている。
左手は下へ垂れ、犬の頭に触れている。
犬は右脇に座り、顔を上げている。
首輪には、文字が刻まれている。
台座は円く、低い。
館の記録では、この子は皇帝の姪である。
そして館は、杯についてこう書いている。
杯に付いた蜂は、皇帝の家の紋章である。
館の記録は、その一行を括弧に入れて添えている。
さらに、当時は子どもを裸で表すことが純真さを強調する作法だったと説明する。
そして犬は、月と狩りの女神を指すという。
首輪にはその女神の名が、古い文字で刻まれている。
つまりこの蜂は、虫ではなく家の印である。
杯という小さな面の上に、一匹だけ載っている。
大理石という材料では、虫は彫りにくい。
脚も羽も細すぎて、欠けてしまう。
だから杯の面に、浅い浮き彫りとして置かれている。
離れて見れば、点にしか見えない。
近づいてはじめて、蜂であることが分かる。
紋章は、近づいて確かめるものである。
見る人が近づくことを、この彫刻は前提にしている。
数えてみると
九点を並べ直す。
虫が一匹だけ描かれているのは、二点である。
葉に隠れる幼虫と、杯の上の蜂。
群れとして描かれているのは、三点である。
団扇の三匹、籠の中の蛍、そして舞踏会の二十匹あまり。
器や道具の形になっているのは、二点である。
虫の形の壺と、脚の並ぶ盆。
そして二点では、虫は姿を見せない。
刺したあとの蜂と、闇の中の輪郭だけの幼虫。
もう一つ数えておく。
九点のうち、虫の脚が数えられるのは三点だけである。
団扇の一葉、舞踏会の素描、そして幼虫の水彩。
残りでは、脚は省かれるか、器の脚に変えられるか、闇に溶けている。
脚の本数は、虫を虫と決める大事な特徴である。
しかし絵の中では、真っ先に省かれる。
言えることと、言えないこと
言えるのは、虫が「数えるために描かれる」ということである。
団扇の一葉では、三匹が種類ごとに描き分けられていた。
籠の中の蛍は、光の点として数えられる。
舞踏会では、二十匹あまりが並んでいる。
大きな獣なら、一頭で画面が埋まる。
虫は、数がそろってはじめて主題になる。
言えないのは、虫がつねに小さく描かれるという話である。
壺は虫の形で、長さ26.7センチある。
盆は76.9センチある。
道具になるとき、虫は人の手に合う大きさへ拡大される。
最後に、はじめの一葉へ戻る。
三匹は、飛ぶもの、止まるもの、そして通りかかるものとして描き分けられていた。
葉の先の黄色が、季節を示していた。
虫は、季節が動いていることを知らせる役をしている。
その役は、数と種類がそろってはじめて果たせる。
九点を数え終えて残るのは、その三匹の描き分けのほうである。








