象牙には、上限がある——レンクハルト・プライマー・キッドほか九点

小さな楕円である。
75ミリと57ミリしかない。
若い女性が、胸から上まで描かれる。
顔は正面を向き、目もこちらを見る。
髪は褐色で、額の上で細かく巻く。
耳のあたりで、巻き毛が垂れる。
目は大きく、間隔が広い。
鼻は小さく、口は閉じる。
衣は白く、肩が大きく開く。
胸元には、白い布が斜めに寄る。
背景は、明るい水色である。
上のほうは、白い雲のようになる。
下のほうは、褐色に沈む。
楕円のまわりは、金の枠である。
上には、吊り環が付く。
環は小さく、金色である。
身につけるための細密画である。
館の記録では、材料は象牙の一語である。
館の札には「肖像」と「女性たち」がある。
象牙は、薄く削ると光を通す。
その下から、白い光が返ってくる。
だから、肌が明るく見える。
白の絵の具を使わずに、明るさを作れる。
背景の水色も、下から光が返る。
そのぶん、色が澄む。
紙に描けば、同じ色でも沈む。
象牙の地については、象牙の地で扱った。
銀の器に、象牙の把手を付ける
五点目では、象牙は部品である。

小さな注ぎ器である。
全体は12.7×9.1×6.4センチしかない。
胴は丸く、上が大きく開く。
開いた口は、獣の頭の形である。
頭には、目と鼻がある。
口が開き、そこから注ぐ。
胴の下は、丸く膨らむ。
底は平らである。
上から後ろへ、細長い把手が伸びる。
把手は大きく反り返る。
先は細く、尖る。
把手だけが、白い。
胴は金色である。
金と白の対比が、強い。
白い部分は、全体の三割ほどしかない。
しかし目は、そちらへ行く。
曲線が長く、輪郭が目立つためである。
館の記録では、この一組は茶と珈琲の道具、盆、卓として作られた。
いまは失われた杯もあり、すべて同じ作り手の意匠である。
ある年の装飾美術の博覧会で発表されたという。
そして館は、この一組の来歴を書いている。
別の年の展覧会で、ある国から来ていた裕福な未亡人が買ったらしい。
その人が国へ帰るとき、この作り手の品を持ち帰った。
そして生涯、その国に留まったという。
館の記録は、そう説明している。
さらに館は、動物や昆虫の意匠が、伝説の獣や太古の動物の化石を思わせると書いている。
つまり把手の形は、獣の牙にも見える。
そして実際に、牙でできている。
形と材料が、同じものを指している。
九点のうち、その一致があるのはここだけである。
ほかの八点では、形と材料は別のことを言う。
象牙が、箱の中に納まる
六点目では、象牙は握りである。

開いた箱が写っている。
箱は32.84×20.78×6.65センチある。
箱の内側は、赤褐色である。
内側は、いくつもの区画に切られている。
区画の形は、収める道具に合わせてある。
中央に、短銃がある。
銃身は六本で、束になる。
銃身は黒く、短い。
握りは白く、下へ曲がる。
握りだけが、白い。
その左右に、白い柄の道具が並ぶ。
上に二つ、下に二つある。
柄はどれも、同じ白である。
中央下には、金属の筒がある。
左の隅には、小さな部品が並ぶ。
部品は金属で、小さい。
弾を込めるための道具らしい。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
材料は六つで、四番目が象牙である。
銃の全長は17.78センチしかない。
つまり握りは、手のひらほどの大きさである。
小さいので、牙の端の部分で足りる。
彫刻に使えない細い部分でも、握りにはなる。
材料は、大きさに応じて用途が分かれる。
九点のうち、象牙が握るための材料なのは、この一点である。
象牙が、焼き物の色になる
七点目から、象牙は色になる。

小さな香炉である。
蓋を含めて高さ12.9センチ、直径13.5センチしかない。
胴は丸く、下に三本の脚が付く。
脚は短く、外へ開く。
胴の面は、淡い灰白である。
わずかに桃色を帯びる。
面には、浅い浮き彫りがある。
牡丹の花と、渦を巻く葉である。
花弁には、細い線が刻まれる。
首のあたりには、雲の帯が回る。
蓋は銀で、丸く盛り上がる。
蓋の面は、透かし彫りである。
花の形が、いくつも抜かれている。
透かしの穴から、中が見える。
中は空である。
香を焚けば、煙がその穴から出る。
穴の形が、煙の出方を決める。
銀は灰色で、胴より暗い。
磨けば白く光る。
いまは、わずかに曇っている。
館の記録では、胴に牡丹と如意の頭の形の文様が巡り、首に雲の帯がある。
どれも低い浮き彫りで、花弁と葉の細部は彫り線で示される。
銀の蓋には、百合や牡丹や菊が咲き乱れるという。
そして館は、箱の蓋の銘について書いている。
象牙色の素地の上の淡い桃色を、暁の光の磁器と呼んでいる。
作者は、ある年にその釉を考え出したという。
館の記録は、そう説明している。
つまり素地の色が、象牙にたとえられている。
九点のうち、象牙が焼き物の色なのは、この一点である。
そして館の記録は、断定していない。
この香炉がその釉の例かもしれない、と書いている。
箱の蓋の銘が、唯一の手がかりである。
器そのものには、作者の名しか記されていない。
釉の名は、箱にだけある。
器と箱が離れれば、名も失われる。