象牙には、上限がある——レンクハルト・プライマー・キッドほか九点
象牙が、紙の色になる
八点目でも、象牙は色である。

縦長の版画である。
画面は29.6×24.7センチある。
画面いっぱいに、木がある。
幹は太く、画面の左右に立つ。
幹の表面には、細かい皺がある。
皺は、短い線を重ねて表される。
枝は上へ広がり、葉に覆われる。
葉は、点と短い線の集まりである。
黒が濃く、密である。
木と木のあいだに、明るい隙間がある。
隙間の向こうは、白い。
地面には、下草が茂る。
下草も、細かい線でできている。
画面の下は、暗い。
下草の線が、密に重なるためである。
幹の根元は、ほとんど黒い。
明暗は、線の密度だけで作られる。
色は、二種類の紙の色だけである。
インクは黒の一色しかない。
館の記録では、この版画は二枚の紙でできている。
上の紙は、クリーム色のアジアの紙である。
その下に、象牙色の織紙がある。
薄い紙を刷ってから、厚い紙に全面を貼る。
薄い紙は、細い線をよく受ける。
しかし、そのままでは扱えない。
だから厚い紙が要る。
館の記録は、そう書いている。
つまり象牙という語は、下の紙の色を指す。
九点のうち、象牙が紙の色なのは、この一点である。
二枚の紙の色は、わずかに違う。
上がクリーム色で、下が象牙色である。
どちらも白ではない。
館の記録は、その差を書き分けている。
色の名を二つ使い分けるのは、細かい仕事である。
どちらも白ではないと言うためである。
象牙が、鳥の名になる
最後の一点で、象牙は嘴の色である。

縦長の画面である。
99.7×66.7センチある。
中央に、太い木の幹が立つ。
幹は縦に伸び、上で二つに分かれる。
幹には、鳥が三羽とまる。
いちばん下の鳥は、幹に爪を立てる。
体は黒く、腹が白い。
頭には、赤い冠羽が立つ。
嘴は白く、太く、まっすぐである。
その上の二羽は、上のほうにいる。
一羽は下を向く。
一羽は、体をひねる。
どの鳥も、嘴が白い。
嘴の長さは、頭の半分ほどある。
先はやや平たく、鑿のようである。
背景の下には、水辺がある。
空は青く、白い雲が浮かぶ。
遠くには、低い山の稜線がある。
水面は、灰緑である。
館の札には「鳥類」とある。
館の記録は、それ以上のことを書いていない。
題にある象牙という語は、嘴の色を指す。
つまり画面の白い嘴が、その名の由来である。
材料にも、象牙はない。
油彩とカンヴァスだけである。
そして、この鳥はいま見られない。
最後に確かめられたのは、ずっと前である。
つまり画面は、いない鳥の記録になっている。
嘴の色の名だけが、残っている。
館の記録は、そこまで書いていない。
書かれているのは、題と材料と寸法だけである。
札にある一語も、鳥類とあるだけである。
数えてみると
九点を並べ直す。
象牙でできているのは、五点である。
彫刻、箱、立像、細密画の地、そして把手。
握りを加えれば、六点になる。
象牙が色の名なのは、三点である。
焼き物の素地、紙、そして鳥の嘴。
もう一つ数える。
九点のうち、象牙が彫られているのは三点である。
残る三点では、象牙は削って平らにされている。
細密画の地、把手、そして握り。
把手は削って曲げた形である。
細密画の地は、透けるほど薄い。
象牙の楕円については、象牙の楕円で扱った。
平らな面と、彫った面で、使い方が分かれる。
さらに数える。
九点のうち、館の記録の材料の欄に象牙という語があるのは六点である。
残る三点では、象牙は題か説明文の中にある。
鳥の題、紙の説明、そして箱の蓋の銘。
三つとも、色の名としての象牙である。
材料の欄に入るのは、物としての象牙だけである。
欄の区別が、物と色を分けている。
読む側は、その区別を頼りにできる。
書かれた場所が、意味を決めている。
言えることと、言えないこと
言えるのは、象牙が「大きさに上限のある材料だ」ということである。
一本の牙より大きくは作れない。
だから最初の彫刻は、幅16.5センチに収まっていた。
十人以上の人物が、その幅に詰め込まれている。
箱も、立像も、細密画も、手のひらか腕の長さに収まる。
九点のうち六点が、その範囲にあった。
大きな作品を作るには、継ぐしかない。
継げば、継ぎ目が見える。
九点の中に、継いだものはない。
どれも、一つの塊から取られている。
言えないのは、象牙が白いという話である。
彫刻は淡い黄白で、褐色の部分がある。
立像は、下へ行くほど濃い。
色の名として使われるときも、白ではない。
紙も、素地も、わずかに黄を含む。
白い紙と並べれば、違いが分かる。
わずかに黄を帯びた、温かい色を指す。
最後に、はじめの一つへ戻る。
十字架の下に、十人以上が群がっている。
その全部が、一本の牙の中にあった。
彫るとは、材料の形に合わせて数を決めることでもある。
牙が太ければ、もっと入る。
九点を数え終えて残るのは、材料が決めた人数のほうである。
幅が決まれば、入る人数が決まる。
人数が決まれば、場面の描き方も決まる。
材料の寸法が、絵の構成まで決めている。
そして色の名になったときも、その温かさが残る。
物としての象牙を知らなくても、色は伝わる。









