美術史・技法

同じ姓が、九回並ぶ——後藤家の小柄

後藤栄乗、顕乗、程乗、廉乗。九点の作者の欄には、同じ家の名が代を替えて並ぶ。長さは九.七センチ、幅は一.四センチ。寸法の欄が同じ数字で埋まる。三百年変わらない規格を読みたい。番号は、代の順ではなく群の順に並ぶ。

小柄
後藤栄乗《小柄》メトロポリタン美術館蔵

作者の欄に、同じ姓が九回並ぶ

小柄(こづか)という道具がある。

刀の鞘の脇に差す、小さな刃物の柄である。

長さは十センチに満たない。

その小柄を九点、記録の欄で並べてみる。

作者の欄に並ぶ名は、こうなる。

後藤栄乗。後藤顕乗。後藤程乗。後藤廉乗。

後藤通乗。後藤寿乗。後藤延乗。後藤桂乗。

後藤真乗。

九点とも、姓が同じである。

そして九点とも、名の末尾が同じ一字で終わる。

同じ家の、別々の代の人が作った九点なのだ。

名が、代ごとに一字を受け継ぐ

九点の作者の名は、いずれも二字である。

上の一字だけが違い、下の一字は共通する。

家を継いだ人が、代ごとに同じ字を名に入れる。

そういう決まりがあったことになる。

美術館の記録は、その決まりを説明しない。

ただ名を並べるだけである。

しかし九点を並べれば、規則は目に見える。

一点だけを見ていたのでは、気づけない。

館の記録には、個人の名が括弧で添えられた例もある。

家を継いだあとの名と、その前の名だろう。

同じ人が、二つの名で呼ばれている。

小柄
後藤栄乗《小柄》16世紀後半から17世紀初め。館の記録では、赤銅(銅と金の合金)、金、銅。長さ9.7センチ、幅1.4センチ。番号は45.24.17。メトロポリタン美術館蔵。後藤栄乗《小柄》メトロポリタン美術館蔵

九点でいちばん古い一点である。

細長い板の四隅が、金の縁で囲まれる。

地は黒く、細かい粒で覆われる。

その上に、道具らしいものが横一列に並ぶ。

七つほどの品が、大きさを変えて置かれる。

赤い箱、黄色い包み、黒い塊。

金、銀、赤銅、銅を使い分けている。

一つ一つの幅は、一センチに満たない。

その中に、面の切り替えと影が作られる。

何を表したものかは、記録に書かれていない。

宝尽くしと呼ばれる図に近いが、断定はできない。

番号が、連番になっている

九点の受入番号は、いずれも45.24で始まる。

そのあとに続く数字だけが違う。

9、11、12、13、14、15、16、17、20。

つまり、一つの群としてまとめて受け入れられた。

出所の行も、九点すべて同じである。

基金による購入、1945年。

一点ずつ買い集めたのではない。

すでに揃っていた一群を、そのまま受け入れている。

前の回の記事で、群で入る作品と一点ずつ入る作品を見た。

こちらは、その典型である。

寸法の欄が、同じ数字で埋まる

九点の寸法の欄を並べると、ほとんど同じである。

長さ9.7センチ、幅1.4センチ。

八点までが、この数字で揃う。

残る一点だけが、長さ9.5センチ。

二ミリの差である。

なぜ揃うのか。

小柄は、鞘に彫られた溝に差し込む。

溝の寸法が決まっていれば、柄の寸法も決まる。

つまり、規格に合わせて作られている。

三百年近い隔たりのある九点が、同じ寸法を守っている。

彫る図は自由でも、外形は動かせない。

美術館の記録は、この事情を書かない。

書かないが、数字の一致がそれを示す。

小柄
後藤顕乗《小柄》17世紀なかば。館の記録では、赤銅、金、銀。長さ9.7センチ、幅1.4センチ。番号は45.24.16。メトロポリタン美術館蔵。後藤顕乗《小柄》メトロポリタン美術館蔵

九点のうち、この一点だけ写真が縦向きである。

ほかの八点は、横に寝かせて撮られている。

細長い板を、縦に立てて撮った一枚だ。

地は黒く、細かい粒が立つ。

上の三分の二には、何も置かれていない。

下寄りに、小さな人物が一つ。

金の衣をまとい、旗のようなものを持つ。

その足もとに、赤い塊が置かれる。

図が下に寄っているぶん、上の空白が広い。

黒い地の広さが、そのまま見える一点である。

写真の向きが、記録には書かれない

いま見た一点だけが縦向きだった。

これは撮影の都合であって、作品の向きではない。

小柄は、横に差して使う道具である。

館の記録に、写真の向きを書く欄はない。

寸法の欄は、長さと幅だけを書く。

どちらが縦かは、記録の関心の外にある。

見る側からすれば、向きは印象を変える。

縦に立てれば、細長さが強調される。

横に寝かせれば、図が読みやすくなる。

同じものが、撮り方で違って見える。

技法の欄に、余分な一字がある

九点の技法の欄は、どれもよく似ている。

赤銅を地にして、金や銀を置く。

ところが一点だけ、欄の書き方が乱れている。

銀を示す語の末尾に、余分な一字が付いている。

意味のある表記ではない。

入力の際に紛れ込んだものだろう。

館の記録も、人が手で打ち込んだものである。

数万点の記録があれば、こういう傷は残る。

こちらで直すことはできない。

直せないが、そこに気づくことはできる。

記録を疑うのではなく、記録も作られたものだと知ることだ。

小柄
後藤程乗《小柄》17世紀。館の記録では、赤銅、金。長さ9.5センチ、幅1.4センチ。番号は45.24.9。メトロポリタン美術館蔵。後藤程乗《小柄》メトロポリタン美術館蔵

九点で唯一、長さが9.5センチの一点である。

上下と両端が、金の細い縁で囲まれる。

中央から右へ、金の面が斜めに広がる。

扇を開いたような形である。

その面の上に、人物が一人立つ。

鎧をつけ、長い柄の武器を構える。

顔は右を向き、兜の吹き返しが跳ね上がる。

金の面の縁には、細かい点が打たれる。

左の三分の一は、黒い地のまま残される。

斜めの構図が、細長い画面をよく使っている。

番号の順と、代の順

九点を番号の小さい順に並べてみる。

9、11、12、13、14、15、16、17、20。

そして、それぞれの作者の代を当てはめる。

すると、9から15までの六点が、代の順に並ぶ。

九代、十一代、十二代、十三代、十四代、十五代。

番号の枝と、家の代が一致している。

ところが16、17、20では、この一致が崩れる。

七代、六代、十代の順になる。

前半だけが揃い、後半は揃わない。

意図してそう並べたのか、偶然なのか。

館の記録は、番号の付け方の理由を書かない。

だから、ここは推測にとどめるほかない。

一致している区間があることだけが、確かである。