作品を知る

眠ることと、横たわることは違う——春信・ピルス・ベロックほか九点

横たわる体を、練習する

横たわる裸婦の習作
イジドール・ピルス《横たわる裸婦の習作》1841年ごろ。館の記録では、布に油彩。72.5×92センチ。番号は1939.63。クリーヴランド美術館蔵。イジドール・ピルス《横たわる裸婦の習作》クリーヴランド美術館蔵

館の記録には、額の寸法がない。

絵そのものの寸法だけが書かれている。

九点のうち、額の寸法が記録にあるのは一点だけだった。

同じ館でも、作品によって書く欄が違う。

横長の画面である。

人物が、こちらへ背を向けて横たわる。

体は右下から左上へ、斜めに置かれる。

背中の線が、大きな曲線を描く。

黒い髪が、背中へ長く垂れる。

体の下に、白い布がある。

その下は、赤みのある褐色の面である。

背景の上のほうは、緑がかった暗い色。

そして、画面の縁に近い部分は、塗られていない。

下地が透けている。

館の記録は、この点に触れている。

多くの部分が薄塗りか、まったく塗られていないという。

だから、完成作ではなく習作だろうと書かれる。

そして館は、この姿勢が当時の有名な絵を思わせるとも記す。

これは館の見解である。

こちらで確かめられるのは、塗りが均一でない、ということだ。

第二回で、途中で止まった肖像を見た。

そこでは、顔だけが仕上げられていた。

ここでは、体だけが仕上げられている。

習作は、必要な部分だけを塗る。

長椅子に横たわる裸婦習作
オーギュスト・ベロック《長椅子に横たわる裸婦習作》1855年ごろ。館の記録では、湿板の陰画から作った塩紙の印画。画面15.8×21.2センチ。番号は1998.55。クリーヴランド美術館蔵。オーギュスト・ベロック《長椅子に横たわる裸婦習作》クリーヴランド美術館蔵

写真である。

長椅子の上に、人物が横たわる。

こちらへ背を向ける。

体は右から左へ、斜めに置かれる。

頭は右にあり、腕を枕にする。

背景に、大きな布が垂れる。

その布に、太い襞が寄る。

床にも、布が広がる。

画面の四隅は、切り落とされている。

八角形に近い形になっている。

館の記録によれば、この作者はもと水彩と細密画を描いていた。

そして、1851年までにパリで商業の写場を開いたという。

肖像と、体の習作を専門にしたと記録は書く。

さらに館は、決まった小道具を使ったとも書く。

長椅子と布が、その道具である。

これは館の記述である。

先の油彩と、姿勢がよく似ている。

背を向け、斜めに横たわり、腕を枕にする。

十四年しか離れていない。

写真と絵で、同じ型が使われている。

どちらが先かは、この二点からは決められない。

線だけの、横たわる体

横たわる裸婦
アメデオ・モディリアーニ《横たわる裸婦》1914年。館の記録では、黒鉛。紙全体26.3×43.3センチ。番号は1950.456。クリーヴランド美術館蔵。アメデオ・モディリアーニ《横たわる裸婦》クリーヴランド美術館蔵

白い紙に、ごく薄い線がある。

線は細く、途切れがちである。

左に、頭がある。

顔は、輪郭と目の位置が示される程度だ。

そこから右へ、体の線が伸びる。

肩、腰、脚と続く。

腰のあたりで、線が大きく膨らむ。

脚は、右へ流れて消える。

紙の下のほうに、小さな書き込みがある。

背景は、まったくの白である。

床も、寝具もない。

それでも、横たわっていると読める。

体の線が水平に近いからである。

前の回でも、同じことを書いた。

姿勢は、体の各部の角度で読める。

支えるものが描かれていなくても伝わる。

第九回と第二回で、この作者の作品を見た。

衣を着ない体の話で扱った一点は、油彩だった。

こちらは、その三年前の素描である。

小川のほとりに横たわる男
エリファレット・フレイザー・アンドリューズ《小川のほとりに横たわる男》制作年不明。館の記録では、布に油彩。26.3×34.9センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。エリファレット・フレイザー・アンドリューズ《小川のほとりに横たわる男》スミソニアン協会蔵

小さな油彩である。

左右に、細い幹の木が何本も立つ。

その間に、明るい草地が広がる。

奥に、水面が光る。

右のほうに、人が一人横たわる。

黒っぽい服を着て、白い帽子をかぶる。

上半身を少し起こし、肘をつく。

顔は下を向く。

草には、白い小さな花が点々と散る。

奥に、低い柵と、屋根が見える。

館の記録には、制作年がない。

年不明と書かれている。

九点のうち、年が分からないのはこの一点だけである。

この人物は、眠っていない。

肘をついて上半身を起こしている。

横たわりながら、起きている姿勢である。

九点のうち、この姿勢は一点だけだった。

語で拾うと、こうなる

化粧する女
樹下石上《化粧する女》18世紀後半。館の記録では、木版画。紙に墨と色。画面35.2×22.9センチ。番号はJP1095a。メトロポリタン美術館蔵。樹下石上《化粧する女》メトロポリタン美術館蔵

九点の最後は、まったく関係のない一点である。

縦長の版画である。

女が一人、前かがみになる。

黒い髪を高く結い、多くの簪を挿す。

灰色と赤の衣を重ねる。

左下に、丸い鏡らしいものがある。

右上に、四角い札があり、文字が書かれる。

顔は下を向き、口元に指を当てる。

化粧をしているところである。

眠ってもいないし、横たわってもいない。

ではなぜ、この一点が集まったのか。

理由は、記録の英語の題にある。

「化粧をする」という語の中に、横たわるという語の綴りが含まれている。

語の一部が、たまたま一致した。

機械で拾うと、こういうことが起きる。

第十九回でも、似た外れが出た。

谷の名が花束の語を含み、人名が鷹の語を含んでいた。

今回は、語の中に別の語が入っていた形である。

外れではあるが、削らずに残した。

記録を語で検索することの限界を、この一点がよく示すからである。

そして、削らなかったおかげで気づいたこともある。

この女性の姿勢は、うつむいて体を折っている。

眠る人の姿勢と、輪郭がよく似ている。