縦八センチの象牙に、顔を置く——エドワード・グリーン・マルボーン
髪を、一本ずつ描くか
巻き毛の描き方を見たい。
一本ずつ描かれてはいない。
束ごとに、暗い面を置く。
その上に、明るい線を数本重ねる。
すると、光沢が出る。
そして、輪郭の外側に細い毛を数本描く。
その数本が、髪全体を柔らかく見せる。
細密画では、この省略と強調の配分が要になる。
すべてを描けば、かえって硬くなる。
金の枠に収まる
五点目は、枠ごと写っている。

金色の楕円の枠に、画面が収まっている。
枠の上部には、吊るすための輪が付く。
その輪に、小さな留め具がある。
中には、若い女性の胸像がある。
髪は短く縮れ、額の上で膨らむ。
衣は白く、胸元に襞飾りがある。
背景は薄い水色と灰である。
空を思わせる色である。
この一枚は、色のある画像で公開されている。
身に着ける肖像
枠の上の輪に注目したい。
鎖を通して、首から下げるためのものである。
つまり、この細密画は装身具でもある。
胸に留め、あるいは首から下げる。
そして、外出のときに身に着ける。
当サイトの
手のひらに、顔を持ち歩くでも、この用途を扱った。
肖像を持ち歩くという行為が、この形式の核である。
壁に掛ける絵とは、まったく性格が違う。
空を、背景に置く
この一枚の背景は、薄い水色である。
雲を思わせる調子が入る。
つまり、屋外を示している。
細密画の背景には、いくつかの型がある。
暗い平面、幕、そして空。
空を置くと、明るく、軽くなる。
そして、白い衣とよく合う。
九点のうち、空らしい背景は二点である。
いずれも、後期の作である。
夫婦の対
六点目を飛ばして、七点目を先に見たい。

こちらも、金色の枠に収まる。
上部に、吊るすための輪がある。
中には、男性の胸像がある。
髪は明るい茶で、額の上で乱れる。
顔はやや左を向く。
首元には白い布、上着は黒である。
背景は、薄い水色と灰。
五点目と、寸法も枠も背景も同じである。
対として、作られた
二点は、明らかに対である。
寸法が同じ、枠が同じ、背景が同じ。
年代も、いずれも一八〇六年ごろ。
そして、一九六三年に同じ遺贈で館に入っている。
つまり、対のまま伝わってきた。
夫婦の細密画を、対で作る。
十八世紀から十九世紀にかけて、広く行われた。
一方が他方を持ち歩く、という使い方もあっただろう。
向きを、逆にする
二点の顔の向きを見てほしい。
一方は右を、他方は左をわずかに向く。
つまり、並べると向かい合う。
対の肖像の原則どおりである。
大きな肖像画でも、同じ作法が使われる。
当サイトでは、繰り返しこの点に触れてきた。
寸法が九センチでも、原則は変わらない。
形式の作法は、大きさによらない。
白い衣の女性
六点目に戻りたい。

女性の胸像である。
髪は黒く、細かい巻き毛が顔の周りを囲む。
顔は正面を向き、目が大きい。
衣は白く、胸元に襞飾りが重なる。
その襞は、細かく描き込まれている。
肩には、薄い布がかかる。
背景は明るく、右上がやや暗い。
二点目の男性と、同じ年代である。
同じ日に、二人を描く
夫婦の対は、たいてい同じ時期に描かれる。
同じ滞在中に、二人が順に座る。
だから、背景も枠も揃えられる。
そして、絵具も同じものが使われる。
つまり、対の二点は制作の条件が同じである。
だから、比較の材料としても優れている。
同じ条件で、男と女をどう描き分けたか。
顔の輪郭、影の置き方、肌の色。
その差だけが、描き分けの結果である。
もう一組の対
二点目と六点目も、対である。
姓が同じで、年代も同じ。
そして、同じ遺贈で館に入っている。
つまり、九点のうち四点が、二組の夫婦の対である。
対で注文し、対で伝わり、対で寄贈される。
細密画は、こうして家の中で受け継がれる。
そして、家が絶えるか、売られるかで、館へ移る。
四点が対のまま残っているのは、幸運である。
枠と、箱
細密画は、枠と一組で作られる。
金や金鍍金の楕円の枠に嵌め、硝子で覆う。
そして、裏に髪を編んだものを入れることもあった。
肖像の相手の髪である。
つまり、絵と身体の一部を一つの容れ物に収める。
さらに、革張りの箱に入れて保管する。
九点のうち、枠が写っているのは三点である。
残りは、枠を外して撮影されている。
作品として何を撮るかの判断が、館ごとに違う。
襞飾りを、どう描くか
この一枚の襞飾りに注目したい。
胸元に、白い布が何重にも重なる。
一つずつの襞に、影が入る。
その影は、灰色ではなく、薄い青灰である。
そして、山の部分は象牙の白をそのまま使う。
つまり、影だけを塗り、明るい部分は残す。
象牙の白は、絵具の白より明るい。
だから、残したほうが効く。
材料の性質を、そのまま使っている。