美術史・技法

面は、覆いである——明珍宗介・小川破笠・デューイングほか九点

広間に、面が散る

油彩である。

88.9×119.4センチ。

横長である。

画面は、大きな広間である。

奥に、扉が開く。

柱が、左右に立つ。

天井から、緑の飾りが下がる。

右のほうに、卓が並ぶ。

白い布が、掛かる。

人が、大勢いる。

三十人以上いる。

衣は、さまざまである。

赤、青、白、黄。

帽子をかぶった者が多い。

中央に、噴水がある。

その手前で、二人が踊る。

一人は、桃色の衣である。

床には、何かが落ちている。

右奥に、椰子の葉が見える。

仮面舞踏会
ライムンド・マドラゾ《仮面舞踏会》1909年。館の記録では、油彩・カンヴァス。88.9×119.4センチ。番号は37.20.3。メトロポリタン美術館蔵。ライムンド・マドラゾ《仮面舞踏会》メトロポリタン美術館蔵

館の札は、六つある。

噴水、室内、男性たち、女性たち、踊り、そして都市の名である。

面の札はない。

題には、仮面舞踏会という語が入る。

しかし、画面の人物は小さい。

一人ひとりの顔は、点ほどの大きさしかない。

面を着けているかどうか、確かめにくい。

前の一点では、面が一つだけ見えた。

ここでは、面は見えない。

見えないが、題がそれを保証している。

そして、この絵の主題は面ではない。

大勢が集まっていることである。

面は、その集まりの名の一部にすぎない。

集まりの名に、面が入る。

入っていれば、誰が誰かわからない催しだとわかる。

わからないことが、この催しの条件である。

だから、顔が小さく描かれていてもよい。

描き分ける必要が、そもそもない。

踊ることについては、踊る足は、地に着いているで扱った。

面を、手に持つ

油彩である。

全体で56.2×61.3センチ。

横長である。

画面の右寄りに、女が座る。

椅子に、浅く腰かける。

体は、左を向く。

顔は、やや下を向く。

髪は、後ろでまとめる。

衣は、淡い灰緑である。

肩から、ゆるく落ちる。

袖は、肘までである。

腕が、露わになる。

右手は、膝の上にある。

その手に、小さなものがある。

丸く、白い。

面である。

顔に、当てていない。

持っているだけである。

背後の壁に、細長い掛物がある。

画面全体が、霞んでいる。

仮面を持つ婦人
トマス・デューイング《仮面を持つ婦人》1911年。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体で56.2×61.3センチ。番号は2014.79.16。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。トマス・デューイング《仮面を持つ婦人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

館の記録は、短い。

作者と題と年と材料と寸法だけである。

説明の文はない。

題が、動作を言っている。

面を持つ婦人。

かぶっているとは、書かれていない。

そして、画面でも持っているだけである。

膝の上で、下を向いている。

顔は、そのまま出ている。

前の二点は、舞踏会の場面だった。

この一点は、室内に一人である。

面は、使われていない。

使われていない面は、ただの物である。

それでも、題に残る。

持っているというだけで、題になる。

そして、この面は白い。

何の表情もない。

前の五点の面には、表情があった。

怒り、鬼、あるいは仮装の華やぎ。

この面だけが、何も言わない。

そして、持ち主の顔のほうに表情がある。

面と顔の役が、入れ替わっている。

額の中に、怪奇な面がある

板に描かれた油彩である。

額を外すと85×74センチ。

女が一人、椅子に座る。

上半身が描かれる。

頭に、白い布をかぶる。

顔は、やや右を向く。

目は、こちらを見る。

衣は、黒い。

袖に、毛皮が付く。

胸元に、細い金の鎖がある。

腰に、紐が垂れる。

両手は、体の前にある。

指が、長い。

右手に、小さな数珠を持つ。

椅子の背は、木彫りである。

そして、画面の左に柱がある。

柱の上に、顔が彫られている。

人とも獣ともつかない。

その口から、鎖が下がる。

鎖の先に、盾がある。

マハテルト・セイスの肖像
マールテン・ファン・ヘームスケルク《マハテルト・セイスの肖像》一五四〇年から四五年。館の記録では、油彩・板。額を外して85×74センチ。番号は1987.136。クリーヴランド美術館蔵。マールテン・ファン・ヘームスケルク《マハテルト・セイスの肖像》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この彫りの由来を書いている。

作者は、四年ほど羅馬に住んだ。

その町の美術と遺物に、深く影響を受けた。

半身の座像、緊張しつつ優美な手、そして怪奇な古代風の面。

それらが、その経験の跡である。

一方で、質感を細かく写す好みは、北方の伝統に由来する。

館は、描かれた人物の経歴も書く。

一五三五年に結婚し、ある町に住んだ。

画家は、その町で描いたのだろう。

そして、面から下がる紋章についても書く。

二つの家の印を組み合わせている。

だから、対になる夫の肖像があったはずである。

ここで面は、建築の飾りである。

顔の形をしているが、かぶるものではない。

前の回で見た、壺の肩や口と同じである。

体の部分の形が、建物に移されている。

そして、この面は口を開けている。

その口から、鎖が下がる。

鎖の先に、家の印が付く。

口が、物を吊るす金具になっている。

顔の形をした道具が、顔の働きをしていない。

死んだ顔から、型を取る

青銅である。

高さ19.5センチ。

顔だけがある。

耳の前までがある。

額の上は、平らである。

髪は、彫られていない。

目は、閉じている。

瞼が、落ちくぼむ。

眉は、目立たない。

鼻は、高い。

鼻梁が、まっすぐである。

小鼻は、張る。

口は、閉じる。

唇は、薄い。

口角に、力がない。

頬は、こけている。

顎は、丸い。

首は、ない。

裏は、空洞である。