面は、覆いである——明珍宗介・小川破笠・デューイングほか九点
怒りの表情に固めた鉄の総面、舞踏会の小さな面、手に持たれた白い面。面の九点を数えると、実際にかぶれるのは二点だけだった。死んだ顔の型も面と呼ばれ、釉をよける作業も面と呼ばれる。覆うことが、その語の芯である。

鉄で、顔の全部を覆う
鉄の面である。
高さ22.9センチ。
幅17.4センチ。
奥行き9.7センチ。
重さは、三百五十グラムほどである。
顔の全部を覆う形をしている。
額から、顎までがある。
眉は、太く盛り上がる。
眉間に、深い皺が二本寄る。
目の穴は、細長い。
縁が、金で覆われる。
鼻は、大きく突き出る。
鼻の脇にも、皺がある。
頬骨は、張る。
その下が、こけている。
口は、大きく開く。
口角が、下がる。
歯は、彫られていない。
顎は、丸く前へ出る。
表面は、褐色の漆である。
つやは、鈍い。

館の記録は、短い。
産地は日本、時代は十八世紀のはじめとある。
説明の文はない。
題が、形と表情を言っている。
顔の全部を覆う面で、怒りの表情をしている。
日本語では、総面という。
すべてを覆う面である。
甲冑の一部である。
かぶれば、顔が見えなくなる。
見えなくなるだけではない。
別の顔が、そこに現れる。
怒った顔である。
九点の最初に、これを置く理由である。
面は、顔を隠すだけでなく、別の顔を出す。
そして、その顔は動かない。
怒ったまま、固定されている。
戦の場で、表情を読ませないためだろう。
痛みも、恐れも、外へ出ない。
前の回で見た甲冑と、同じ考え方である。
体の要所を、鉄で置き換えている。
甲冑については、一領を組み上げるで扱った。
半分だけ、覆う
こちらも、鉄の面である。
高さ24.9センチ。
幅24センチ。
奥行き15.6センチ。
重さは、七百グラムを超える。
前の一点の倍である。
しかし、覆う範囲は狭い。
鼻から下だけである。
額も、目も、覆わない。
鼻は、高く突き出る。
その下に、口がある。
口角は、上がる。
歯が、並ぶ。
顎の下に、髭が付く。
頬の両脇に、大きな環がある。
紐を通すための環である。
下に、垂が続く。
細長い板が、何段も重なる。
板の縁に、金の丸が並ぶ。

館の記録は、日付まで書いている。
一七三〇年の正月、と記されている。
面の裏に、年が刻まれているのだろう。
説明の文はない。
日本語では、頬当という。
頬を当てる、という名である。
そして、垂が首を覆う。
前の回で、同じ作り手の一族の面を見た。
同じ姓の職人が、代々この仕事をした。
こちらは、半分しか覆わない。
目と額が出るので、視界が広い。
かわりに、そこは守られない。
守ることと、見ることは、両立しない。
どこまで覆うかが、その折り合いである。
そして、重さも折り合いに入る。
この一点は、前の一点の倍の重さがある。
覆う範囲は狭いのに、重い。
垂が付いているからである。
首を守る部分が、重さの大半を占める。
顔より、首のほうが手厚い。
絵の中に、面が貼られる
丸い画面である。
直径27.3センチ。
地は、灰色である。
粗い粒が、一面にある。
その中央に、面がある。
紙を貼り重ねて作られている。
浮き上がっている。
面の地は、白い。
目は、大きく見開く。
金色の縁が、光る。
眉は、細く吊り上がる。
額に、二本の角がある。
金色である。
口は、耳まで裂ける。
赤い。
上下に、牙が並ぶ。
髪は、黒く、細い線で描かれる。
乱れて、横へ流れる。

館の札は「頭部」と「鬼」の二つである。
面の札はない。
しかし題に、能の面の名がある。
般若という。
嫉妬と怒りが、鬼になった女の面である。
この一点は、面そのものではない。
面を描いた、あるいは作った絵である。
紙を貼り重ねて、浮き出させている。
だから、平らな絵より厚い。
しかし、かぶることはできない。
裏は、平らな紙である。
面の形をした、絵である。
前の二点は、実際にかぶる面だった。
この一点は、かぶれない。
前の回で見た硝子の帽子と、同じ関係である。
形だけが、移されている。
この作者は、漆の細工で知られた。
貼り重ねた紙に彩色し、額に納める。
壁に掛けて見るものである。
面は、掛けられるものになった。
顔に当てる物が、壁に掛かる物になっている。
舞踏会の装いで、立つ
大きな油彩である。
全体で166.4×127センチ。
縦長である。
画面に、三人が立つ。
左に、男が一人。
緑と黄の衣を着る。
肩から、布を掛ける。
中央に、女が一人。
大きく広がる衣を着る。
白地に、桃色と赤の飾りがある。
胸元に、青い飾りがある。
手に、小さなものを持つ。
右に、もう一人の男。
毛皮の帽子をかぶる。
その顔の前に、黒いものがある。
面である。
小さく、目のまわりだけを覆う。
背景は、石の柱と階段である。

館の記録は、短い。
作者と題と年と材料と寸法である。
説明の文はない。
題が、場面を言っている。
仮面舞踏会のための装いをした三人。
面をかぶっているのは、一人だけである。
他の二人は、顔を出している。
つまり、これから着けるところか、外したところである。
そして、この面は小さい。
目のまわりだけを覆う。
口も、顎も出ている。
前の三点の面は、顔の大半を覆った。
この面は、ほとんど覆わない。
それでも、顔を隠したことになる。
隠す量ではなく、隠すという約束が働いている。
約束が働けば、見る側は気づかないふりをする。
誰かはわかっていても、わからないことにする。
面は、その合図である。
小さくてよいのは、合図だからである。