寸法の欄に、聖人の名が並ぶ——タッデオ・ガッディの祭壇画ほか九点
切られた板
古い祭壇画は、しばしば切られている。
大きな一枚を、いくつかに分ける。
そのほうが、売りやすいからだ。
そして、上下を切って四角く整える。
つまり、もとの形が失われる。
前の回で、揃いの一部だけが残る話をした。
祭壇画では、それが日常的に起きた。
九点のうち何点かも、その結果だろう。
葉が、名を示す
いま見た一点の人物は、葉を持つ。
これは、殉教した人が持つ印である。
そして、館の題にある聖人には、車輪の印もある。
いまは、車輪が見えない。
板が切られたのだろう。
前の回で、板が切られる話をした。
持ち物が失われれば、名の手がかりが減る。
その分、記録に頼ることになる。
縁の余白が、何を語るか
描かれていない縁が残っていれば、当初の姿に近い。
削られていれば、余白が消える。
つまり、余白の有無が来歴を語る。
館の寸法の欄が、二つの数字を並べるのは、そのためでもある。
前の回で、差を残す意味を何度か書いた。
こちらでも、二つの数字の差が情報になる。
差がなければ、切られた可能性がある。
描かれた面と、板全体
いま見た一点の寸法は、二つある。
板全体と、描かれた面である。
差は、縦で三.八センチ。
つまり、上下に描かれていない部分がある。
そこは、枠に隠れていたのだろう。
あるいは、切ったときの余りである。
前の回で、見え掛かりの寸法の話をした。
こちらも、同じ考え方である。

正方形に近い板である。
中央に、翼のある人物が立つ。
翼は、青と赤で大きく広がる。
頭に、金の輪がある。
鎧を着て、赤い布を掛ける。
右手に、剣を高く掲げる。
左手に、丸い盾を持つ。
足もとに、獣が横たわる。
獣は、褐色で長い尾を持つ。
口を開き、牙が見える。
地は、金で平らである。
国と時代で、呼ぶ
作者の名が分からないとき、国と時代で呼ぶ。
十五世紀初めの、ある地方の画家。
前の回で、同じ書き方を何度も見た。
こちらの九点にも、二点ある。
つまり、名の分かる画家が七点。
分からない画家が二点である。
古い時代ほど、名は残りにくい。
そして、名の分かる画家ほど研究が進む。
記録の厚みに、差が出る。
作者の欄に、国と時代だけ
いま見た一点の作者の欄は、名前ではない。
ある地方の画家、と書かれる。
そして、疑問符が付く。
さらに、活動した土地が別に書かれる。
つまり、生まれた土地と働いた土地が違う。
前の回で、仮の名で呼ぶ話をした。
こちらは、仮の名すらない。
出身と時代だけで示されている。
二つの土地が、書かれる
作者の欄には、二つの土地が入ることがある。
生まれた土地と、働いた土地である。
そして、そのあいだを移動している。
前の回で、移った画家の話をした。
こちらでも、同じ書き方がされている。
移動が分かれば、様式の由来も見えてくる。
生まれた土地の型と、働いた土地の型が混ざる。
その混ざり方が、作品に出る。
疑問符が、作者の欄に付く
作者の欄の疑問符は、地方についての疑いである。
その地方の画家かもしれない、という意味だ。
言い切っていない。
前の回で、疑問符の使い分けを何度か見た。
作者の欄でも、同じ記号が働く。
そして、疑問符があれば、あとで訂正できる。
なければ、定説になってしまう。

三枚の板が、蝶番でつながる。
中央の板が、いちばん大きい。
上が、尖った形に切られる。
中央に、女性が玉座に座る。
膝に、幼児を抱く。
左右の下に、小さな人物が並ぶ。
左の翼には、上下二段に場面が入る。
右の翼にも、二段の場面がある。
上段は、磔刑の場面である。
地は、いずれも金である。
枠は、金と赤で飾られる。
三枚が、折りたためる
いま見た一点は、三枚組である。
中央と、左右の翼。
蝶番でつながり、折りたためる。
つまり、持ち運べる。
旅先で開いて祈る。
そういう使い方をした。
館の寸法の欄は、三枚それぞれを測る。
そして、枠を含む寸法と、描かれた面を分ける。
つまり、六つの数字が並ぶ。
枠が、板と一体である
九点のうち三点の寸法の欄には、一体の枠、という語が入る。
つまり、枠が板と一続きに削り出されている。
後から付けた枠ではない。
だから、外せない。
そして、当初の姿を保っている。
前の回で、額が付け替えられる話をした。
こちらは、付け替えられない。
板そのものが枠を含んでいる。

小さな板である。
輪郭が、複雑な形に切られる。
上が三つの弧に分かれる。
下も、弧を描いて広がる。
中央上に、男性が玉座に座る。
右手を上げ、左手に書物を持つ。
その左右に、人物が群れる。
いずれも小さく、頭だけが並ぶ。
中央下に、丸い金具が嵌め込まれる。
金具には、細かい透かしがある。
いちばん下に、文字が四行入る。
四行の文字が、下にある
いま見た一点の下には、文字がある。
四行にわたる。
つまり、この板には銘記がある。
しかし、館の記録には写されていない。
前の回で、銘記の欄がある館とない館の違いを見た。
こちらの部門には、その欄がない。
だから、写真を見て確かめるしかない。
読めるかどうかは、拡大してみないと分からない。