美術史・技法

寸法の欄に、聖人の名が並ぶ——タッデオ・ガッディの祭壇画ほか九点

区画ごとの幅が、聖人の名を見出しにして順番に並んでいる。その名は文字ではなく、手に持った物から読まれたものだ。車輪、石、書物、そして十字。図が文字の代わりをする仕組みと、それを支える記録を読みたい。持ち物が名を語っている。

玉座の聖母子と諸聖人
タッデオ・ガッディ《玉座の聖母子と諸聖人》メトロポリタン美術館蔵

寸法の欄に、聖人の名が並ぶ

板絵を九点、記録の欄で並べてみる。

九点とも、金の地に描かれている。

そして九点とも、複数の人物が並ぶ。

館の題は、その人物の名を挙げる。

聖母と幼児。

そして、両脇の聖人たち。

ところが、名が現れるのは題だけではない。

寸法の欄にも、名が並ぶ。

金の地という、共通点

九点とも、地が金である。

薄い金箔を貼り、磨いて艶を出す。

その上に、絵具で人物を描く。

つまり、背景に景色がない。

空も、部屋も描かれない。

金の面が、そのまま背景になる。

前の回で、金地の意味を書いた。

蝋燭の光を受けて、輝く。

そして、この世でない場所を示す。

九点は、いずれもその約束の中にある。

区画ごとに、測る

九点のうち一点は、横長の祭壇画である。

五つの区画に分かれる。

中央に聖母子、その左右に聖人が二人ずつ。

館の寸法の欄は、区画ごとに数字を書く。

そして、区画の名を聖人の名で示す。

つまり、名が寸法の見出しになっている。

前の回で、部分ごとの寸法の話をした。

こちらでは、部分に名前が付いている。

玉座の聖母子と諸聖人
タッデオ・ガッディ《玉座の聖母子と諸聖人》1340年ごろ、1480年ごろに手が加えられた。館の記録では、板にテンペラ、金の地。全体は縦109.9センチ、横228.9センチ。寸法の欄には、聖人ごとの区画の幅が並ぶ。番号は10.97。メトロポリタン美術館蔵。タッデオ・ガッディ《玉座の聖母子と諸聖人》メトロポリタン美術館蔵

横長の祭壇画である。

木の枠が、全体を囲む。

枠の上に、水平の帯が渡る。

その下が、五つの区画に分かれる。

区画は、細い柱で仕切られる。

中央の区画に、女性が座る。

膝に、幼児を抱く。

左の二区画に、聖人が一人ずつ立つ。

右の二区画にも、一人ずつ立つ。

いずれも、赤や緑の衣を着る。

地は、金である。

中央を、広く取る

祭壇画では、中央がいちばん広い。

そして、いちばん高いこともある。

つまり、大きさで序列が示される。

これは、決まりごとに近い。

見る人は、まず中央を見る。

そして、左右へ目を移す。

前の回で、絵が見る順序を作る話をした。

祭壇画では、区画の幅がその順序を決めている。

幅が、区画ごとに違う

五つの区画の幅を並べてみる。

中央が、72.4センチ。

その左右が、40センチと39.4センチ。

さらに外が、34.3センチと、もう一つ。

つまり、中央がいちばん広い。

そして、外へ行くほど狭くなる。

中央の主題が、いちばん大事だからだ。

面積が、格を示している。

前の回で、大きさが役割を示す話をした。

一枚の板か、複数の板か

祭壇画は、一枚の板で作ることもある。

複数の板をつなぐこともある。

寸法の欄を見れば、見当がつく。

高さが揃っていれば、一続きかもしれない。

区画ごとに高さが違えば、別々の板だろう。

前の回で、寸法から作りを読む話をした。

こちらでも、同じ読み方ができる。

数字の一致が、物の作りを語る。

高さは、揃っている

一方、高さは五区画とも同じである。

109.9センチ。

つまり、一枚の板を縦に切っていない。

横に並べて、柱で仕切っただけである。

だから、高さは変わらない。

寸法の欄の数字が、そこを示している。

同じ数字が五回並べば、一続きだと分かる。

順序を、どう書くか

区画の順序は、左から右へ書かれる。

つまり、見る順序と同じである。

もし右から書けば、混乱する。

だから、館は左からと決めている。

前の回で、記録が読む人の手つきに合わせる話をした。

祭壇画の寸法の欄も、同じ配慮でできている。

数字の並びが、実際の並びと一致している。

名を、記録の見出しにする

寸法の欄に聖人の名を使うのは、便利である。

左から一番目、二番目と数えるより分かりやすい。

そして、誰がどこにいるか、同時に伝わる。

つまり、寸法と配置が一つの欄で示される。

前の回で、記録が二つの仕事をする話をした。

こちらも、同じことをしている。

数字と名前が、一行に同居している。

持ち物を、覚える

聖人の持ち物は、何十種類もある。

鍵。

網。

塔。

矢。

車輪。

それぞれに、由来の物語がある。

つまり、覚えるには物語を知る必要がある。

当時の人は、説教で聞いて知っていた。

いまの私たちは、書物で調べる。

前の回で、共有された知識の話をした。

聖人の持ち物も、その一つである。

名は、どこから分かるか

では、その名はどこから分かるのか。

一つは、持ち物である。

聖人には、それぞれ決まった持ち物がある。

車輪。

石。

書物。

十字。

それを見れば、誰か分かる。

つまり、図が名の代わりをしている。

前の回で、紋章が図の言葉である話をした。

聖人の持ち物も、同じ仕組みである。

部門によって、欄が違う

同じ館でも、部門によって欄が違う。

絵画の部門には、銘記の欄がないことがある。

装具の部門には、詳しい寸法の欄がある。

つまり、扱う物に合わせて欄が作られている。

前の回で、部門ごとの書き方の違いを何度か見た。

これは、避けがたいことである。

すべての物に同じ欄を用意しても、空欄が増える。

必要な欄だけを持つほうが、実用的だ。

枠に、名が書かれることもある

もう一つは、文字である。

区画の下の枠に、名が書かれることがある。

あるいは、光輪に書かれる。

前の回で、光輪の文字を見た。

こちらの九点では、館の記録に銘記の欄がない。

つまり、写されていない。

だから、文字があるかどうか分からない。

図から判断されたのかもしれない。

アレクサンドリアの聖カタリナ
ピエトロ・ロレンツェッティ《アレクサンドリアの聖カタリナ》1342年ごろ。館の記録では、板にテンペラ、金の地。全体は縦66センチ、横41.3センチ。描かれた面は縦62.2センチ、横41.3センチ。番号は13.212。メトロポリタン美術館蔵。ピエトロ・ロレンツェッティ《アレクサンドリアの聖カタリナ》メトロポリタン美術館蔵

縦長の板である。

女性が、上半身で描かれる。

頭に、金の冠をかぶる。

冠には、細かい飾りが並ぶ。

その後ろに、大きな金の輪がある。

輪の縁に、打ち込みの模様が回る。

顔は、丸く白い。

衣は、青地に細かい模様が入る。

肩に、桃色の布を掛ける。

胸元に、金の帯が渡る。

右手に、緑の葉を持つ。