美術史・技法

五脚が、同じ寸法である——ダンカン・ファイフの工房

肘掛けの付いた椅子

もう一点、椅子を見たい。

アームチェア
ダンカン・ファイフ《アームチェア》1805〜1815年。マホガニー。高さ84.1センチ、幅51.8センチ、奥行42.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。ダンカン・ファイフ《アームチェア》メトロポリタン美術館蔵

肘掛けが付いている。高さ84.1センチ、幅51.8センチ。

背はX字の装飾で、先の五脚に近い。上部の横木には彫りがある。

肘掛けは前方へ伸び、先端が丸く収まる。支柱は旋盤で挽かれている。

座面には赤い布が張られる。縁に金色の鋲が並ぶ。

つまり、同じ意匠を肘掛け椅子に展開している。

揃いの中に、上席がある

食卓の構成を考えたい。多くの場合、肘掛けのある椅子は一脚か二脚である。

残りは肘掛けのないサイドチェアである。

つまり、席には序列がある。

家具の形は、座る人の位置を示している。

大きな読書用の椅子

用途の違う椅子も見たい。

アームチェア
ダンカン・ファイフ《アームチェア》1800年ごろ。マホガニー、トネリコ、シロマツ、ユリノキ。高さ102.9センチ、幅72.7センチ、奥行83.8センチ。メトロポリタン美術館蔵。ダンカン・ファイフ《アームチェア》メトロポリタン美術館蔵

大きい。高さ102.9センチ、幅72.7センチ、奥行83.8センチ。

背が高く、両脇に厚い側板がある。全体が革で覆われる。

背にはボタン留めの窪みが並ぶ。座面は厚く、前へ張り出す。

脚は短く、先端に車輪が付く。移動できる。

つまり、これは休息のための椅子である。食卓の椅子とは目的が違う。

材の使い分け

材料欄にも注目したい。この椅子には、四種類の木が使われている。

マホガニー、トネリコ、シロマツ、ユリノキ。

見える部分にはマホガニーを使い、内部には安い木を使う。

つまり、材の価格と役割が使い分けられている。

外から見える部分だけに高価な材を使う方法は、家具では一般的である。

大型の家具

椅子以外も見ておきたい。

円筒蓋の書き物机と書棚
《円筒蓋の書き物机と書棚》1815〜1820年。マホガニー、マホガニー化粧板、サテンウッド、黄ユリノキとシロマツに金箔を施した石膏。高さ242.3センチ、幅122.2センチ、奥行61センチ。メトロポリタン美術館蔵。ダンカン・ファイフ《円筒蓋の書き物机と書棚》メトロポリタン美術館蔵

高さ242.3センチ。人の背丈をはるかに超える。

下部は机である。引き出しがあり、天板が引き出せる。

内部には小さな引き出しと仕切りが並ぶ。書類を分けて収める作りである。

上部は書棚である。ガラス扉が二枚、菱形の桟で仕切られる。

扉の内側には黄色い布が張られる。中の本が見えないようにする工夫である。

脚は旋盤で挽かれ、細い溝が彫られる。

化粧板という技術

材料をもう一度見たい。「マホガニー化粧板」とある。

薄く挽いた高価な木を、安い木の上に貼る技法である。

こうすれば、少ない材で美しい面が作れる。

つまり、見える部分の質を保ちながら、費用を抑えている。

家具の作りには、経済の判断が組み込まれている。

金箔と石膏

もう一つ、材料を見たい。「金箔を施した石膏」とある。

木を彫るかわりに、石膏で形を作り、金箔を貼る。

彫るより速く、複雑な形も作れる。

つまり、装飾の一部は木工ではなく、別の職種の仕事である。

一点の家具に、複数の職人が関わっている。

分業という前提

工房の仕組みを整理したい。材を挽く人、組む人、彫る人、
金具を作る人、布を張る人。

それぞれ別の技能である。

つまり「ダンカン・ファイフ作」と書かれていても、
一人で作ったわけではない。

工房の名は、責任の所在を示している。

同じ構造は、別のコラムでも扱った。

見立て——寸法の一致が、工房の証拠になる

ここまでを整理したい。五脚の椅子は、数ミリの差で揃っている。

これは、型板や治具を使った結果だと考えられる。

同じ寸法で繰り返し作る仕組みが、工房にはあった。

つまり手作りでも、揃えることはできる。

揃えられるかどうかは、技術と管理の問題である。

差が残ることの意味

一方で、数ミリの差は残る。

機械で成形すれば、差はもっと小さくなる。

つまり、この差は手仕事の痕跡である。

同じであろうとして、完全には同じにならない。その幅が記録されている。

二十五点の内訳

公開分の構成も確かめておきたい。25点のうち、椅子が大半を占める。

机、書棚、卓が数点含まれる。

制作年は1790年代から1820年代に集まる。三十年ほどの幅である。

つまり、一つの工房の活動期がまとまって見られる。

椅子ばかりが残る理由

残り方についても考えたい。椅子は数が多い。一組で六脚、八脚と作られる。

数が多ければ、どれかが残る確率も上がる。

一方、大型の家具は数が少なく、場所も取る。

つまり、残っているものの構成は、作られた量の構成とは違う。

暮らしへ——椅子の高さを、測ってみる

家でできることを書いておきたい。家にある椅子の座面の高さを測ってみてほしい。

多くは40センチ台に収まる。卓は70センチ前後である。

二百年前の椅子も、同じ範囲にある。

体の寸法が変わらない以上、家具の基本寸法も変わらない。

装飾は変わっても、数字は残る。

群として見ると、組が見える

最後に、見方をまとめておきたい。25点を寸法で並べ替えてみる。

高さ83センチ台の椅子が並ぶ。その中で、幅と奥行が数ミリだけ違う。

つまり、組の輪郭が数字から浮かんでくる。

公開画像は、そのための道具である。寸法を並べる作業は、画面の上でできる。

そして、気づいた点は書き留めておきたい。数ミリの差は、見落としやすい。

一行の記録が、次に見るときの足場になる。

マホガニーという材料

材料についても補いたい。この工房の家具は、ほとんどがマホガニーである。

中央アメリカやカリブ海の島々から運ばれた木材である。硬く、目が細かく、赤みを帯びる。

削っても割れにくく、細い部材が作れる。

つまり、細い脚や薄い背板は、この材だからこそ成立する。

一方で、輸入材である以上、価格は高い。誰でも買える家具ではない。