五脚が、同じ寸法である——ダンカン・ファイフの工房
木材と、その来歴
材の来歴についても、書いておきたい。19世紀のマホガニーは、
奴隷制のもとで伐採された木材を含む。
伐採、運搬、積み出しのいずれの段階でも、強制された労働が関わっていた。
家具の美しさだけを見ていると、この背景は見えない。
美術館の記録も、材の産地までは書かないことが多い。
材料の来歴を問う視点は、他の分野にも必要である。
曲がった脚の作り方
技術についても見ておきたい。この椅子の脚は、外へ向かって湾曲する。
曲がった脚を作るには、太い材から曲線を削り出す必要がある。
つまり、材の多くが削り屑になる。歩留まりが悪い。
または、木目の向きを見て、曲がりに沿った材を選ぶ。
つまり、材の目利きが仕上がりを左右する。
木目を、どう使うか
もう一点、木目の話をしたい。背の横木や座枠には、木目の美しい部分が使われる。
逆に、見えない部分には目立たない材が回される。
つまり一本の材の中で、部位ごとに用途が振り分けられる。
無駄を出さずに、見える面の質を上げる。工房の判断がここに出る。
真鍮の金具
金具についても触れておきたい。前脚の先には、金色の獣足の飾りが付く。
これは真鍮の鋳物である。木工とは別の職種の仕事である。
つまり、椅子一脚に木工と金工が関わっている。
金具は消耗し、失われることもある。残っているかどうかで、印象は変わる。
揃いは、どこまで残るか
組物の残り方も考えたい。食卓の椅子は、六脚、八脚、十二脚と作られる。
しかし二百年のあいだに、壊れ、売られ、分かれていく。
つまり、いま五脚が同じ館にあること自体が珍しい。
組が崩れる問題は、別のコラムでも扱った。
家具でも、同じことが起きている。
使われた家具であること
最後に、状態についても書いておきたい。椅子は使われる家具である。
座れば軋み、脚は擦れる。座面は破れ、張り替えられる。
つまり、いま見えている姿は、二百年の使用の結果である。
新品の状態を想像するには、記録と材料の知識が要る。
見ているのは、時間が加わったあとの姿である。
工房の規模
工房の大きさについても書いておきたい。19世紀初めのニューヨークでは、
家具の工房が数十人の職人を抱えることがあった。
材を挽く人、組む人、彫る人、磨く人。分業が成立していたと考えられる。
つまり、名前として残る親方は、経営者でもある。
同じ構造は、別のコラムでも扱った。
工房の名は、品質の保証として働く。
帳簿が残れば、分かること
記録についても補いたい。家具の工房では、注文書や請求書が作られる。
そこには、品目、寸法、価格、納品先が書かれる。
もし帳簿が残っていれば、椅子一脚の値段が分かる。
肖像画家の帳簿が残っていた例は、
別のコラムで扱った。
家具でも、同じ資料があれば商売の形が読める。
流行は、輸入される
意匠の由来にも触れておきたい。この時期のアメリカの家具は、
イギリスとフランスの型を参照している。
図案集が輸入され、職人がそれを見て作る。
つまり、意匠は書物を通じて海を渡る。
型が印刷物で流通する仕組みは、
別のコラムでも扱った。
部材の接合
作りの細部も見ておきたい。椅子の脚と座枠は、ほぞで接合される。
木のほぞを穴に差し込み、膠で固める。釘は最小限である。
膠は熱と湿気で緩む。だから、後年に修理されることが多い。
つまり、いま見えている接合部は、当初のままとは限らない。
高さは、変えられない
寸法の意味をもう一度確かめたい。座面の高さは、人の脚の長さで決まる。
卓の高さも、腕の位置で決まる。
つまり、装飾がどれだけ変わっても、基本の寸法は動かない。
家具は、身体の寸法に縛られた造形である。
家具が、美術館に入るまで
収蔵の経緯にも触れておきたい。家具は使われる道具である。
壊れれば捨てられ、古びれば買い替えられる。
それが収集の対象になったのは、19世紀末以降である。
その事情は、別のコラムで扱った。
いま残っている家具は、その選別を通過した品である。
家具の記録は、寸法で始まる
最後に、読み方をまとめておきたい。家具の記録には、高さ、幅、奥行の三つが並ぶ。
絵の記録は、縦と横の二つである。
つまり、家具は三次元の物として記録されている。
三つの数字を並べれば、組物かどうかが判別できる。
数字を読む習慣が、家具を見る第一歩になる。
五脚が揃う確率
最後に、数の話をしておきたい。もとが十二脚だったとして、
二百年後に五脚が同じ場所にある確率は高くない。
売却、相続、火災、廃棄。どれか一つでも起きれば、組は崩れる。
つまり、この五脚は例外的な残り方である。
例外だからこそ、比較の材料になる。
座ることを、前提にする
最後に、家具の見方を書き添えておきたい。椅子は、座るための道具である。
だから、背の角度、座面の奥行、脚の張り方に理由がある。
装飾を見る前に、まず使い方を考えたい。
その順序で見れば、なぜその形なのかが読めてくる。
そして、測った数字は書き留めておきたい。三つの寸法の組み合わせは、覚えにくい。
一行の記録が、次に見るときの足場になる。
記録は、あとから読む自分のために残すものである。
細かく書く必要はない。日付と、気づいた一点だけでよい。
そして次に見るときは、その一行から始めればよい。
家具は寸法が命である。三つの数字を控えておけば、比較ができる。










