暮らしと名画

帯は、細長い閉じた形である——春章・ミンヌ・郭敏ほか九点

まだ結ばれていない花魁の帯、短刀を差す金の帯、刀を吊るための帯革、そして牧童が解いた帯。帯の九点を数えると、身につける帯が四点、細長い装飾の帯が四点だった。細長い場所には、かならず繰り返しが置かれる。

帯を結ぶ花魁に扮する中村里好
勝川春章《帯を結ぶ花魁に扮する中村里好》メトロポリタン美術館蔵

帯を、結んでいる

錦絵である。

31.1×14.3センチ。

縦長である。

役者が一人、立っている。

花魁の姿をしている。

体は、後ろを向く。

顔だけが、こちらへ振り返る。

眉は、細い。

目は、切れ長である。

口は、小さく赤い。

髪は、高く結われる。

櫛が、一本挿さる。

衣は、黒地である。

そこに、縦の筋が幾本も走る。

内側に、淡い色の衣が重なる。

裾が、床に広がる。

そして、帯である。

体の前に回されている。

両手が、その端を持つ。

まだ、結ばれていない。

足元に、扇が落ちている。

帯を結ぶ花魁に扮する中村里好
勝川春章《帯を結ぶ花魁に扮する中村里好》1779年ごろ。館の記録では、木版多色摺・墨と色・紙。31.1×14.3センチ。番号はJP711。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《帯を結ぶ花魁に扮する中村里好》メトロポリタン美術館蔵

館の札は「女性たち」と「役者」の二つである。

帯の札はない。

しかし題に、帯を結ぶという語が入る。

英語の記録でも、帯の語がそのまま使われている。

訳さずに、日本語の音を残している。

つまり、この形の帯には対応する語がない。

幅が広く、体に何重にも巻く。

そして、前で結ぶか、後ろで結ぶかで意味が変わる。

この一枚では、前で結ぼうとしている。

前の回で見た、振り返る遊女の一枚を思い出す。

あちらは、後ろで結ばれていた。

帯の位置が、その人の立場を示すことがある。

九点の最初に、これを置く理由である。

帯は、体に巻いて結ぶものの総称である。

日本語の帯は、守備範囲が広い。

衣の帯も、革の帯も、装飾の帯も、同じ字で書く。

英語では、それぞれ別の語になる。

だから、日本語で探すと九点の中身がばらける。

ばらけたものを並べるのが、今回の主題である。

金の帯に、短刀を差す

写本の一葉である。

絵の部分は22.9×12.1センチ。

まわりに、広い縁がある。

画面には、人が二十人以上いる。

上のほうに、建物がある。

赤と桃色の柱が立つ。

その中に、男が座る。

白い上衣を着る。

頭に、白い頭巾を巻く。

頂が、立っている。

腰のあたりに、金色の帯がある。

その帯に、短刀が差される。

鞘は、赤い天鵞絨である。

刃は、曲がっている。

下のほうに、踊り手がいる。

異国風の衣を着る。

まわりに、人が群がる。

金を配っているらしい。

右下に、鷹を据えた者がいる。

アクバルの子らの割礼の儀式(アクバル・ナーマより)
ダラム・ダース《アクバルの子らの割礼の儀式(アクバル・ナーマより)》一六〇二年から翌年。館の記録では、樹脂テンペラ・墨・金・紙。絵の部分は22.9×12.1センチ。番号は1971.76。クリーヴランド美術館蔵。ダラム・ダース《アクバルの子らの割礼の儀式(アクバル・ナーマより)》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この場面の日付まで書いている。

一五七三年十月二十二日の祝いである。

新しく築いた都で、三人の幼い息子の儀式が行われた。

この写本は、皇帝の死の少し前に完成した。

だから、描かれているのは若いころの姿である。

踊り手は、中央亜細亜の衣を着ている。

皇帝の体重と同じ重さの金が、貧しい者に配られている。

そして、こう書かれている。

皇帝は、簡素な白い上衣を着ている。

腋のところが、香料で染みている。

赤い天鵞絨の鞘に入った曲がった短刀が、金の帯に差されている。

そして、頂の立った白い頭巾をかぶる。

ここで帯は、物を差す場所である。

前の一点では、帯は衣を留めるものだった。

ここでは、帯は道具を保持する。

手を使わずに刃物を持てるのは、帯があるからである。

館は、細かいところも書いている。

上衣の腋が、香料で染みている。

儀式は十月の行われたが、暑かったのだろう。

染みのことまで書く記録は、めずらしい。

見えるものを、書ける限り書いている。

帯革で、刀を吊る

鞘と帯革を伴うサーベルである。

全長95.2センチ。

刀身は80センチ。

刃は、大きく反る。

先が、細くなる。

柄は、まっすぐである。

鍔は、十字に張り出す。

柄頭に、環がある。

鞘は、赤い布で覆われる。

その上に、金の金具がいくつも付く。

金具には、彫りがある。

石が、嵌まっている。

そして、帯革である。

鞘の金具から、細い革が出る。

二本ある。

長さが、違う。

腰の帯に留めるための革である。

鞘と帯革を伴うサーベル
ゲオルク・ホフマン《鞘と帯革を伴うサーベル》十七世紀のはじめ。館の記録では、鋼・金・銀・革・木・織物・半貴石。全長95.2センチ、刀身80センチ。番号は29.158.716。メトロポリタン美術館蔵。ゲオルク・ホフマン《鞘と帯革を伴うサーベル》メトロポリタン美術館蔵

館の記録は、短い。

産地は、波蘭とある。

説明の文はない。

題が、三つの部品を並べている。

サーベル、鞘、そして帯革。

刀は、それだけでは持ち歩けない。

鞘に入れ、鞘を吊るす必要がある。

吊るす先が、腰の帯である。

二本の革の長さが違うのは、そのためである。

長さが違うと、刀が斜めに下がる。

斜めに下がれば、歩いても地面に触れない。

前の一点では、帯に短刀を差していた。

差すのは、短いものの場合である。

長いものは、吊るす。

どちらにしても、支えているのは腰の帯である。

腰は、体の重心に近い。

そこに重さを預ければ、疲れにくい。

肩に掛ければ、片側だけが下がる。

腰なら、左右に分けられる。

だから、重い道具は腰に付く。

刀については、画面のなかの、刃で扱った。

帯を解いて、眺める

対になった掛軸のうち一幅である。

絵の部分は92.7×56.5センチ。

縦長である。

墨だけで描かれる。

画面の下に、水牛がいる。

黒い塊として描かれる。

角が、大きく曲がる。

二頭が、体を寄せる。

角を、突き合わせている。

その上のほうに、木がある。

幹は、くねる。

枝は、上へ跳ねる。

葉は、点で示される。

地面は、淡い墨で暈される。

奥は、白く抜かれる。

霧である。

上部に、字が書かれる。

詩である。