画家を知る

背景が黒いのは、二点だけ——勝川春章

九点を並べると、二点だけ背景が墨で埋められている。夜を示すためである。残る七点では、雪が紙の白で示される。細判という狭い紙に、天気と時刻をどう入れるか。摺りの手数から九点を読みたい。提灯の文字にも、目を向けたい。

雪の中に立つ武士に扮する二代目市川八百蔵
勝川春章《雪の中に立つ武士に扮する二代目市川八百蔵》メトロポリタン美術館蔵

背景が、黒い二点

九点を並べると、二点だけ背景が黒い。

上半分が墨で埋められ、人物の輪郭が浮かび上がる。

残る七点の背景は、薄い灰か生成りである。

黒く摺るには、版木を一つ増やし、広い面に墨を置く必要がある。

手間も費用もかかる。それでも黒くするのは、夜を示すためである。

役者絵は、舞台の場面を写す商品である。

その場面が夜なら、夜と分かるように作らなければならない。

背景の色は、装飾ではない。説明の一部である。

夜を、どう示すか

版画で夜を表す方法は、いくつかある。

背景を暗く摺るのが最も直接的である。ただし手間がかかる。

もう一つは、灯りを描くことである。提灯や行灯を持たせる。

九点の黒い二点では、その両方が使われている。

暗い地と、明るい灯り。二つを組み合わせると、夜であることが確実に伝わる。

芝居小屋は、昼のうちに演じられることが多かったと伝えられる。

つまり、夜の場面も明るい会場で演じられる。

暗さは、舞台の上では約束事として示される。絵もその約束を写している。

雪を、どう示すか

雪は、白い紙をそのまま使えば示せる。

地面を塗らずに残し、代わりに細い斜線を敷く。

あるいは、木の枝の上に白い塊を置く。

九点のうち三点で、この処理が見られる。

夜と違い、雪は摺りの回数を増やさずに示せる。

紙の白をそのまま使えるのは、版画の強みである。

塗って白くするより、残して白くするほうが手間が少ない。

雪の場面が版画に多いのは、その事情もあるだろう。

判型と、値段

細判は、大判より紙が小さい。摺りの回数も少なくて済む。

そのぶん、値も安かったと考えられる。

安い商品は数が出る。数が出れば、残る確率も上がる。

いま海の向こうの館に九点まとまっているのは、その事情の延長にある。

安さは、二百年後の残り方を左右している。

細判という制約

九点の寸法は、いずれも縦29センチから33センチ、横14センチ前後である。

細判と呼ばれる規格で、大判の三分の一ほどの幅しかない。

狭い紙では、景色を描く余地がない。人物一人でほぼ埋まる。

そこで、天気や時刻は背景の色と小道具に託される。

九点は、その工夫の見本になっている。

九点の年は1771年から1780年に収まる。十年ほどのあいだの仕事である。

同じ絵師が、同じ判型で、背景の作り方を変えている。

その差を並べて見るのが、この記事の目的である。

雪の中に立つ武士に扮する二代目市川八百蔵
勝川春章《雪の中に立つ武士に扮する二代目市川八百蔵》1774年か。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦31.4センチ、横14.1センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《雪の中に立つ武士に扮する二代目市川八百蔵》メトロポリタン美術館蔵

人物が正面を向いて立つ。

頭上に、大きな傘を差しかける。傘は橙と白で、放射状の骨が見える。

傘の面積は、画面の上半分を占める。

衣は淡い黄褐色で、細かい模様が入る。裾が長い。

腰には刀を差す。柄が右に突き出る。

足元には黒い履物がある。厚い底の下駄である。

背景の左右には、細い斜線が斜めに走る。降る雪だと考えられる。

地面は白く塗り残される。

傘の下に人がいる構図は、雪や雨の場面でよく使われる。

傘の骨は、細い線を彫り残して作られる。放射状に十数本ある。

その線が均一に並ぶかどうかは、彫師の腕にかかる。

近くで見ると、線の太さがわずかに揺れている。手仕事の跡である。

傘という道具

傘は、天気を示す最も分かりやすい道具である。

差していれば、雨か雪が降っていると分かる。

しかも、傘は円い。細長い画面の中で、大きな面を作れる。

人物の頭上に置けば、上部の空きも埋まる。

構図の面でも、天気の説明の面でも、都合のよい道具である。

一方で、傘を差せば顔が隠れやすい。

そこで、傘を後ろへ倒し、顔を見せる角度にする。

九点の一点も、その処理をしている。実際にはこの角度では雪を防げない。

垣根のそばで雪の中に立つ虚無僧に扮する初代中村仲蔵
勝川春章《垣根のそばで雪の中に立つ虚無僧に扮する初代中村仲蔵》1775年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦29.5センチ、横14.6センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《垣根のそばで雪の中に立つ虚無僧に扮する初代中村仲蔵》メトロポリタン美術館蔵

人物が右を向いて立つ。上体をやや前へ倒す。

衣は白に近い色で、黒い模様が肩と裾に入る。

左手に、大きな丸い笠を提げる。編み目が細かい。

腰には刀を差す。柄が背中から出る。

背後には竹の垣根がある。斜めに組まれた材が見える。

その奥に、松の枝が張り出す。枝の上に白い塊が乗る。

地面は白く、細かい点が散る。

上部には梅らしい枝が伸びる。

雪は、枝の上の白い塊と、白い地面で示される。

垣根という背景

九点のうち三点に、竹や板の垣根が描かれる。

垣根は横に走る線の集まりである。細長い画面の下部を締める。

しかも、屋外であることを示す。室内には垣根がない。

背景を大きく描かなくても、垣根一つで場所が決まる。

少ない手数で情報を足す工夫である。

枝に積もる白

雪を示すもう一つの方法が、枝の上の白である。

松の葉や梅の枝に、白い塊を置く。

これは塗り残しではなく、白い絵具を置く場合もある。

輪郭を丸くすれば、積もった雪に見える。

九点のうち二点で、この処理が使われている。

雪の中を行く物売りに扮する大谷友右衛門か
勝川春章《雪の中を行く物売りに扮する大谷友右衛門か》1778年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦31.9センチ、横14.1センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《雪の中を行く物売りに扮する大谷友右衛門か》メトロポリタン美術館蔵

人物が右を向き、前かがみに歩く。

背中に大きな黒い箱を負う。角が四角く、蓋が閉じる。

その上に、薄い円盤のようなものが幾重にも重なる。

さらに上に、細い縄でくくった束が載る。

右手に、赤い房の付いた袋を提げる。

衣は白と赤で、脚には青灰色の脚衣を着ける。

足元には草履がある。

背景は淡い灰で、下部が白い。

荷の重さで体が傾く姿勢が、そのまま画面の動きになる。

荷の中身

いま見た一点では、背中の荷が丁寧に描かれる。

黒い箱、円盤の重なり、縄でくくった束。

物売りが何を売っていたかは、記録に書かれていない。

しかし、荷の形からある程度は推し量れる。

人物より荷のほうが描き込まれているのは、そこが見どころだからだろう。

荷を負う姿勢

九点の人物のうち、はっきり前かがみになるのはこの一点だけである。

ほかの八点は、まっすぐ立つか、わずかに傾くだけである。

前かがみの姿勢は、細長い画面では扱いにくい。輪郭が横に広がる。

それでも選ばれているのは、荷の重さを示すためだろう。

姿勢が、そのまま状況の説明になっている。

夜に立つ女に扮する二代目山下金作
勝川春章《夜に立つ女に扮する二代目山下金作》1779年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦30.2センチ、横14.6センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《夜に立つ女に扮する二代目山下金作》メトロポリタン美術館蔵

背景の上半分が黒く塗られる。九点で最も暗い画面である。

その黒い地の前に、女の役の人物が立つ。

右手を上げ、白い提灯を提げる。丸みのある形で、中に灯りが入る。

提灯には、細い文字らしいものが書かれる。

衣は緑がかった黄で、裾が長く床に広がる。

内側に赤と白の縞の衣が見える。

腰の帯は明るい黄土で、前で結ばれる。

下部には赤茶色の垣根が横に走る。

地面は黄土色で、平らである。

提灯の文字

いま見た一点の提灯には、文字らしいものが書かれている。

提灯には、屋号や家紋を入れるのがふつうである。

芝居では、その文字が場所や人物を示す。

画像では細部が読み取れない。だから内容には触れない。

読めない情報がそこにあることだけを、記しておく。

灯りが、光る理由

黒い地の前に白い提灯を置けば、光って見える。

実際には、白い紙を摺り残しているだけである。

明暗の差が大きいほど、明るく感じる。

つまり、灯りは背景の黒によって作られている。

九点の二点で、この関係がはっきり見える。

夜に立つ六十六部に扮する初代中村仲蔵
勝川春章《夜に立つ六十六部に扮する初代中村仲蔵》1780年。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦31.4センチ、横14センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《夜に立つ六十六部に扮する初代中村仲蔵》メトロポリタン美術館蔵

こちらも背景の上半分が黒い。

人物が正面を向いて立つ。両手で長い杖を持つ。

杖の上部には、丸い笠のようなものが取り付けられる。

その上に、細長い箱が縦に立つ。背負った荷である。

箱には、白い札のようなものが貼られる。文字が見える。

衣は灰色で、家紋が白く抜かれる。

腰には刀を差す。

背景の下部には、竹の垣根が横に走る。

地面は黄土色で、上部の黒と対になる。

白い札

いま見た一点では、背負った箱に白い札が貼られる。

文字が書かれているが、画像では読めない。

札は、その人物の役柄を示す手がかりになる。

題にある役名も、その札に対応しているのかもしれない。

もっとも、館の記録は札について何も書いていない。

灯りを、二通りに

夜の二点では、灯りの形が違う。

一点は手に提げる丸い提灯、一点は杖の先に付いた笠のような形である。

どちらも白く抜かれ、周りの黒と対になる。

灯りの形は、その人物の身分や役目を示す。

夜の場面では、灯りが人物の説明を兼ねている。

同じ構えが、二点

夜の二点は、構えがよく似ている。

背景の上半分が黒く、下部に垣根があり、地面が黄土色である。

人物は正面か、やや斜めを向く。

同じ型を使い回していると考えられる。夜の場面の定型である。

型があれば、迷わずに作れる。版元にとっても分かりやすい商品になる。

部屋に立つ花魁に扮する初代中村富十郎
勝川春章《部屋に立つ花魁に扮する初代中村富十郎》1771年。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦31センチ、横14.8センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《部屋に立つ花魁に扮する初代中村富十郎》メトロポリタン美術館蔵

ここから三点は、天気も時刻も示されない画面である。

女の役の人物が立つ。体を右へ向け、顔を左へ回す。

衣は濃い紺で、丸い模様が散る。裾が長く床に広がる。

裾の裏地は赤と白で、めくれた部分に見える。

右手に、丸い団扇を持つ。白い面がこちらを向く。

髪は高く結い上げられ、櫛と簪が挿される。

背景は上が灰、下が緑で、二段に分かれる。

左に、赤い布を掛けた低い台がある。

室内であることは分かるが、時刻は分からない。

女の役の描き方

九点のうち二点は、女の役を演じる姿である。

眉は細く弧を描き、目尻が上がる。口は小さい。

髪は高く結い上げられ、櫛と簪が挿される。

衣は裾が長く、床に広がる。輪郭が下で大きく広がる。

男の役より、画面の下部が重くなる。安定して見える。

背景を、二色で分ける

天気も時刻も示さないとき、背景は単純になる。

上を灰、下を緑や黄土に塗り分ける。

その境目が、壁と床の境に見える。

これで室内らしさは出る。それ以上の情報は入らない。

九点の三点が、この作りである。

伊左衛門に扮する初代中村富十郎
勝川春章《伊左衛門に扮する初代中村富十郎》1771年二月。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦30.5センチ、横14.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《伊左衛門に扮する初代中村富十郎》メトロポリタン美術館蔵

人物が右を向いて立つ。

頭に浅い笠をかぶる。緑がかった色で、縁が広い。

顔は笠の下から見える。目を細める。

衣は白に近く、大きな模様が肩に入る。

腰から下は暗い青灰色で、裾が長い。

手には細長い巻物のようなものを持つ。

背景の右に、赤い柱と扉が立つ。板の継ぎ目が見える。

その上に、庇のような横木が走る。

地面は緑で、下端が明るい。

建物の一部を、切り取る

いま見た一点では、赤い柱と扉が右に立つ。

建物の全体は描かれない。柱と庇だけである。

細長い画面では、建物を丸ごと入れることはできない。

一部を切り取れば、場所は伝わる。

九点の背景は、いずれもこの切り取り方で作られている。

笠と、天気

笠は雨や雪を防ぐ道具である。

しかし、この一点では地面に雪がない。背景も明るい。

つまり、笠は天気を示していない。人物の身分や役柄を示している。

同じ道具でも、周りの条件によって意味が変わる。

道具だけでは、天気は決まらない。

派手な裃をつけた武士に扮する二代目市川八百蔵
勝川春章《派手な裃をつけた武士に扮する二代目市川八百蔵》1773年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦29.8センチ、横14.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《派手な裃をつけた武士に扮する二代目市川八百蔵》メトロポリタン美術館蔵

九点で最も色の強い一点である。

人物が体を右へひねる。顔は左を向く。

顔には赤い隈取りが入る。眉が太く、目が大きい。

上衣は赤で、肩が四角く張り出す。金色の模様が入る。

その下に、灰色と褐色の衣が重なる。

腰には刀を二本差す。柄が右上へ伸びる。

裾は赤と桃色で、大きく広がる。

背景は生成りで、下部に淡い黄土の地面がある。

背景に何もないぶん、衣の色が強く見える。

隈取りの赤

九点のうち二点で、顔に赤い線が入る。

隈取りと呼ばれる化粧である。役の性格を示す。

赤は勇ましさや正しさを表すと言われる。

背景が無地なら、この赤はいっそう強く見える。

化粧と背景は、互いの効果を決めている。

背景を、空けるとき

背景に何も置かない画面もある。

紙の地がそのまま残り、人物だけが立つ。

衣の色や模様を見せたいときには、この作りが有利である。

背景が邪魔をしない。

九点のうち二点が、ほぼ無地の背景である。

公家に扮する五代目市川團十郎
勝川春章《公家に扮する五代目市川團十郎》1773年か。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦31.3センチ、横14.8センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《公家に扮する五代目市川團十郎》メトロポリタン美術館蔵

九点の最後は、木の下に立つ人物である。

右に、太い幹が縦に伸びる。表面に細かい線が刻まれる。

その幹から枝が左へ張り出す。白い花が点々と咲く。梅だと考えられる。

人物は幹の左に立つ。上体を前へ倒す。

顔には赤い隈取りが入る。髪が乱れて逆立つ。

衣は白に近く、大きな丸い紋が入る。

腰には刀を差す。

背景の上部は灰色で、下部は緑である。

地面には岩らしい形がある。

木を、画面に立てる

いま見た一点では、木の幹が画面を縦に切る。

細長い紙では、縦の線がよく効く。人物と並んで立つ。

幹の表面は細かい線で刻まれ、質感が出る。

枝は左へ張り出し、上部の空きを埋める。

木は、背景であると同時に構図の柱でもある。

梅と、季節

梅の花は、冬の終わりから春の初めに咲く。

つまり、この一点には季節が入っている。時刻ではなく、季節である。

九点を通して、季節が読み取れるのは三点である。雪が二点、梅が一点。

残る六点には、季節の手がかりがない。

狭い画面では、季節も時刻も、入れるかどうかを選ぶことになる。

足元を、どう描くか

九点の足元を見比べると、扱いに幅がある。

草履や下駄をはっきり描くものが五点、裾に隠れるものが四点である。

雪の場面では、履物が重要になる。雪の上に立つ形が見える。

室内の場面では、裾が床に広がり、足は隠れる。

足元の描き方も、場面の性格に応じて変わっている。

九点の内訳

先に、九点の中身を確かめておく。

背景を黒く摺った夜の場面が二点、雪の場面が三点である。

季節も時刻も示されない画面が四点。うち二点は背景がほぼ無地である。

年は1771年から1780年に収まる。

いずれも細判で、木版に墨と色を摺ったものである。

何を入れ、何を捨てるか

細判の紙に入るものは限られる。

人物一人、衣の模様、持ち物一つか二つ。それで埋まる。

天気を入れれば、背景の面が要る。時刻を入れれば、摺りが増える。

九点を並べると、その取捨がはっきり見える。

半分ほどは、天気も時刻も入れずに済ませている。

色数を数える

九点の色数を数えると、四色から六色ほどである。

墨、赤、黄土、緑、青、そして紙の白。

黒い地の二点では、墨の面積が大きい。ほかの色は少ない。

無地の背景の二点では、衣の色が多くなる。

限られた色数を、どこに配るかが決められている。

黒い地の費用

背景を黒く摺るのは、単純だが手間である。

広い面に均一に墨を置くには、摺師の腕が要る。

むらが出れば、紙が汚れて見える。

その手間をかけるかどうかは、版元の判断だろう。

九点のうち二点だけが、その手間をかけている。

紙の状態

九点の画像を見ると、紙の縁に差がある。

不揃いに裁たれたもの、上下に折れの線が見えるものがある。

黒い地の二点では、墨の面にわずかなむらが見える。

これは摺りのむらか、経年の変化か、画像からは決められない。

館の記録には、保存状態の記述がない。

年と月

九点の年の欄を見ると、書き方が三通りある。

年だけのものが四点、月まで入るものが一点、およそ、や、たぶん、が付くものが四点である。

月まで分かるのは、芝居の記録が残っているからである。

紙の上には年も月も摺られていない。外の資料が支えている。

同じ絵師の年の書き方については、同じ名を、二人が継ぐ——勝川春章の役者絵でも触れた。

十年ほどの範囲

九点の年は、1771年から1780年に収まる。

十年ほどのあいだの仕事である。

そのあいだ、細判の一枚絵を作り続けている。

判型も、構図の型も、大きくは変わらない。

変わるのは、背景に何を入れるかである。

同じ役者が、二度出る

九点に描かれた役者を数えると、七人である。

二人は二度ずつ出てくる。同じ人物の別の役である。

同じ人でも、化粧と衣で別人に見える。

顔の似せ方より、役の型のほうが強く出る。

だから、記録の名がなければ、同じ人だとは分からない。

天気は、誰が決めるか

舞台の場面が雪なら、絵も雪にする。

つまり、天気を決めているのは絵師ではない。芝居の筋である。

絵師は、その天気をどう摺るかを決める。

決められた内容を、限られた紙にどう収めるか。そこが仕事になる。

九点の背景の差は、その判断の記録である。

背景から読む

この記事は、背景の色から入った。

黒い二点と、白い三点と、無地に近い二点。

人物ではなく背景を見比べると、同じ判型の中の工夫が見えてくる。

役者絵は、顔と衣を見るものだと思われている。

しかし、その後ろにも判断がある。九点はそのことを示している。

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