美術史・技法

刀は、身分の道具である——ウードリー・春英・ジャンボローニャほか九点

刀を、一本だけ差す

二枚続の版画のうち、二枚が並ぶ。

一枚が32.5×14.4センチ。

もう一枚は33×14.6センチ。

わずかに違う。

右の画面に、男が立つ。

役者である。

顔は、正面をやや外れる。

眉は、太い。

髷は、小さい。

衣は、淡い桃色である。

大きな丸い文様が散る。

腰のあたりに、刀が一本ある。

柄が、左の腰から前へ出る。

左の画面には、女の姿の役者がいる。

こちらには、刀がない。

背景は、緑の土手と、桃色の枝である。

空は、淡い。

刀を一本差した森田勘弥
勝川春英《刀を一本差した森田勘弥》1792年ごろ。館の記録では、二枚続の木版・墨と色・紙。一枚が32.5×14.4センチ。番号はJP338a, b。メトロポリタン美術館蔵。勝川春英《刀を一本差した森田勘弥》メトロポリタン美術館蔵

館の札は「刀」と「役者」の二つである。

刀という札が、はっきり付いている。

そして、題にも刀の語が入る。

一本を差した、という言い方である。

わざわざ本数が書かれている。

二本差すのが、武士の決まりだったからである。

長いものと、短いものを腰に差す。

一本しか差していなければ、武士ではない。

あるいは、正装ではない。

つまり、本数が身分を示す。

前の四点では、剣の飾りが身分を示していた。

ここでは、数が示している。

同じ道具でも、何を見るかで読み方が変わる。

そして、この一枚は役者絵である。

役者は武士ではない。

武士を演じるときにだけ、二本になる。

この一枚では、一本である。

だから、武士ではない役だとわかる。

二枚続のもう一枚には、刀がない。

女の姿だからである。

刀の有無が、役の性別も示している。

剣と、宝石を持つ

写本の一葉である。

紙は17.8×12.5センチ。

裏に、文字がある。

画面に、男が一人立つ。

横向きに近い。

頭に、白い頭巾を巻く。

髭は、黒く、短い。

外套を着ている。

緑の地に、花の文様が並ぶ。

縁に、毛皮が付く。

裾には、房が下がる。

下に、白い上衣を着る。

帯が、腰を締める。

袴は、縞である。

右手を、胸の高さに上げる。

指先に、赤いものがある。

宝石である。

左手は、下へ垂れる。

その手に、細長いものがある。

剣である。

先が、床に近い。

スピネルとデカンの剣を持つ廷臣
ゴーヴァルダン《スピネルとデカンの剣を持つ廷臣》一六〇五年から一〇年。館の記録では、樹脂テンペラ・墨・金・紙、裏に文字。紙の寸法は17.8×12.5センチ。番号は2013.323。クリーヴランド美術館蔵。ゴーヴァルダン《スピネルとデカンの剣を持つ廷臣》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この種の肖像の由来を書いている。

宮廷の史官によれば、皇帝は領内の重臣たちの似姿を取らせた。

こうして巨大な画帖が作られた。

過ぎ去った者は新しい命を得て、生きている者には不死が約束される。

その息子も、この伝統を続けた。

写実的な肖像を注文し、皇室の画帖に収めた。

そして、この廷臣の装いが細かく書かれる。

毛皮で縁取り、房の付いた天鵞絨の外套。

その下に、帯で締めた白い上衣と、縞の袴。

これは、中央亜細亜の騎馬の民に由来する典型の装いだという。

ここで剣は、持ち物の一つである。

宝石と並んで、手に持たれている。

どちらも、価値のあるものである。

宝石は、右手で示される。

剣は、左手で下げられている。

示すものと、下げるもの。

同じ肖像の中で、扱いが違う。

剣は、装いに含まれる。

宝石は、その場で見せるものである。

だから、宝石だけが指先にある。

そして、この画帖の目的は不死だった。

似姿を残せば、名が残る。

持ち物も、いっしょに残る。

剣を、振りかざす

ペンと淡彩の素描である。

紙は16.9×12.2センチ。

小さい。

画面の中央に、男が一人いる。

体は、大きくねじれる。

右腕を、高く上げる。

その手に、剣がある。

刃は、湾曲する。

先が、画面の上を向く。

左腕は、前へ伸ばす。

顔は、右上を見る。

口は、開いている。

衣は、短い。

脚が、露わである。

足は、前後に大きく開く。

背後に、階段がある。

石段が、奥へ上がる。

右に、厚い帳が垂れる。

上に、獅子の像が見える。

剣を振りかざすフランソワ一世
アレクサンドル=エヴァリスト・フラゴナール《剣を振りかざすフランソワ一世》一八一五年から三〇年。館の記録では、ペンと茶インク、筆と茶の淡彩、黒鉛の下描き、白と黄のグワッシュで高光。紙の寸法は16.9×12.2センチ。番号は2019.254。クリーヴランド美術館蔵。アレクサンドル=エヴァリスト・フラゴナール《剣を振りかざすフランソワ一世》クリーヴランド美術館蔵

館の説明は、この画家の作風を書いている。

劇的で、物語を語る素描の様式を作った。

挿絵に向く様式である。

この一枚も、そうした用途のものかもしれない。

同時代の多くの画家と同じく、近い過去の歴史に関心があった。

その中の重要な人物を、繰り返し描いた。

ここに描かれたのは、十六世紀のある王だろうという。

館は、作者の父にも触れる。

有名な画家の息子だが、まったく違う様式を作った。

ここで剣は、振り上げられている。

九点の中で、はじめて動いている剣である。

前の六点は、すべて止まっていた。

飾られ、差され、下げられていた。

振り上げられてはじめて、刃が上を向く。

そして、振り下ろされる場面は描かれない。

そして、この一枚は挿絵の下絵らしい。

小さく、紙も安い。

劇的な場面を、素早く組み立てている。

階段と帳が、舞台のように配される。

剣は、その舞台の中心にある。

戦いについては、戦いの絵に、戦いはないで扱った。

剣を振る腕に、剣がない

青銅の像である。

高さ39センチ。

台を入れると41.6センチ。

男が一人、立つ。

裸である。

兜も、甲冑もない。

体は、ねじれる。

腰から上が、右へ回る。

左足が、前へ出る。

右足は、後ろに残る。

歩みの途中である。

右腕は、後ろへ大きく引かれる。

肘が、曲がる。

手は、握られている。

しかし、何も握っていない。

指のあいだが、空いている。

顔は、左前を見る。

髭が、短い。

筋肉は、はっきりと分かれる。