作者の欄が、五行になる——ゴブラン王立製作所の綴織
技法の欄が、織りの構造を書く
九点の技法の欄は、いずれも長い。
材料の名だけでは終わらない。
そのあとに、織りの組織の名が続く。
綴織。平織。繻子織。
さらに、より細かい説明が加わることもある。
ある一点では、経糸と緯糸の関係が二行にわたって書かれる。
別の一点では、金属を巻いた糸の入り方まで書かれる。
なぜここまで書くのか。
織物では、組織が作品そのものだからである。
同じ材料でも、組み方が違えば別のものになる。
絵画で言えば、絵具の種類と筆の使い方に当たる。
技法の欄が長いのは、その必要があるからだ。

ほぼ正方形に近い織物である。
中央に、大きな船が浮かぶ。
船首は龍の形に作られる。
帆は赤と白の縞で、大きく膨らむ。
船の上には、天蓋の下に人物が座る。
その周りに、従者が数人立つ。
水面には、白い鳥が数羽浮かぶ。
左右の岸には、人物が集まる。
上部には、装飾の門のような構造が広がる。
赤い幕が左右から垂れる。
技法の欄には、金銀を巻いた糸が挙げられる。
光を受ける部分に、その糸が使われているのだろう。

縦に細長い布である。
縦242.5センチに対し、横は44.5センチしかない。
壁の一部を飾るための帯である。
上部に、二羽の鳥が向かい合う。
尾が長く、下へ垂れる。
その下に、花と葉の綱が下がる。
中ほどには、小さな鳥籠が描かれる。
さらに下に、青い花の連なりが続く。
地の色は淡い黄で、模様が浮き上がる。
技法の欄には、繻子織と刺繍の両方が書かれる。
織ったあとに、刺繍を重ねている。
二つの工程が、一枚の布に重なる。
大きさが、二百倍ひらく
九点の面積を比べると、差が極端である。
いちばん小さいのは、扇の一点。
縦28.8センチ、横50.4センチ。約0.15平方メートル。
いちばん大きいのは、四季のタペストリー。
縦540.1センチ、横384.9センチ。約20.8平方メートル。
面積では、百四十倍近い差になる。
大きいほうは、部屋の壁を一面覆う。
小さいほうは、手に持って使う。
同じ部門の中に、この幅がある。
そして、記録の欄は同じ形式で書かれる。
寸法の数字だけが、その差を伝えている。
大きさが違えば、作るのに要する人も時間も違う。
作者の欄の長さと、寸法の大きさは、ゆるく対応している。
「繰り返しの単位」が、寸法の欄に入る
九点のうち二点の寸法の欄には、変わった数字がある。
全体の寸法のあとに、繰り返しの単位が書かれる。
一点では、縦方向の繰り返しが92.2センチ。
もう一点では、縦45.5センチ、横29.8センチ。
これは、模様が何センチごとに繰り返されるかを示す。
織物や捺染の布は、同じ模様を延々と繰り返す。
繰り返しの単位は、版や仕掛けの大きさで決まる。
だから、この数字は製造の仕組みを直接示している。
全体の寸法は、切り取られた長さにすぎない。
繰り返しの単位のほうが、その布の本質に近い。
館の記録は、その両方を並べて書く。
前の回の記事で、寸法の欄が複数の基準を書くことを見た。
ここでも、測る対象が二つある。

白い地に、赤一色で模様が刷られている。
模様は、東洋風の建物と人物である。
屋根の反った塔が、いくつも描かれる。
その下に、人が座り、立ち、歩く。
木や岩、小舟も混じる。
一つの場面が終わると、また同じ場面が現れる。
上下に、同じ配置が繰り返される。
線は細く、点の集まりで濃淡が作られる。
銅版を布に押し当てて刷るためである。
版画と同じ技術が、布に使われている。
作者の欄には、二人の名が並ぶ。
設計した人と、その図案のもとになった人である。

橙色の地に、濃い橙で模様が織り出される。
模様は、ケシの実を図案化したものだ。
丸い形の下に、細い茎が三本伸びる。
その一組が、縦横に整然と並ぶ。
上下の列は、半分ずつずれる。
隙間は、細い線で埋められる。
色は二色だけで、明暗の差も小さい。
模様は、遠目には織りの地模様のように見える。
技法の欄には、ジャカード装置を用いた織機と書かれる。
紋紙で模様を制御する仕掛けである。
さらに「右の耳が残る」という注記まである。
布の端の始末が残っている、という意味だ。
「耳が残る」と書く
いま見た一点の技法の欄の末尾には、短い注記がある。
布の端、いわゆる耳が残っている、という記述である。
耳とは、織り機の上で自然にできる布の縁だ。
切り落とされていなければ、もとの幅が分かる。
つまり、この布がどれだけの幅で織られたかが分かる。
織機の幅は、時代と工場によって違う。
だから耳の有無は、来歴の手がかりになる。
館の記録は、そういう細部まで技法の欄に書く。
前の回の記事で、寸法の欄が板の継ぎ足しを書く例を見た。
こちらは、布の端の始末である。
物としての履歴を、欄が拾っている。