作者の欄が、五行になる——ゴブラン王立製作所の綴織
下絵を描いた人、様式のもとになった人、縁の文様を考えた人、織った製作所、それを運営した三組の名。一枚の綴織の作者の欄には、これだけの名が並ぶ。長い欄が誰の何を記録しているのかを読みたい。受入の年は、百十六年に散らばる。

作者の欄が、五行に及ぶ
九点のうち一点の作者の欄は、異様に長い。
まず、下絵を描いた人の名と生没年。
次に、その様式のもとになった人の名と生没年。
さらに、縁の文様を考えた人の名。
そのあとに、織られた工場の名。
そして、その工場を運営していた三組の名。
一族。兄弟。そして一人の支配人。
いずれも在任期間が括弧で添えられる。
三組のうち、どの代で織られたかは決められていない。
だから三組とも書き、「または」でつなぐ。
一点の織物の作者の欄に、六人以上の名が並ぶ。
なぜこれだけの名が要るのか
タペストリーは、一人では作れない。
まず、画家が下絵を描く。
その下絵をもとに、原寸の型が作られる。
型を見ながら、織り手が糸を組んでいく。
大きなものなら、数人が並んで何年もかける。
工場には支配人がいて、注文と職人を差配する。
つまり、少なくとも三つの役がある。
考える人、写す人、織る人。
そして経営する人。
館の記録は、そのうち名の分かるものを全部書く。
書かなければ、誰か一人の作品のように読まれてしまう。

九点でいちばん大きい織物である。
縦は五メートル半に近い。
中央に、雲の上の場面が織り出される。
翼のある人物が、女性を支える。
女性は横たわり、衣が大きく波打つ。
その下には、枯れた木が左右に立つ。
枝は葉を落とし、細い線として上へ伸びる。
地面には、鳥や動物が横たわる。
冬の狩りの獲物である。
画面の左右には、太い縁が回る。
縁には、円い枠と葉の飾りが並ぶ。
色は褐色と灰と白が主で、彩度が低い。
季節を色でも示している。
工房の名が、分からない一点
九点のうち一点は、織った工房が特定されていない。
作者の欄には、こう書かれる。
ある製作所の、不明の工房で織られた。
製作所の名は分かるが、その中のどの工房かは分からない。
大きな製作所には、複数の工房が入っていた。
工房ごとに親方がいて、別々に注文を受ける。
だから「どこで織られたか」は二段階の問いになる。
館の記録は、分かる段階まで書き、その先は不明とする。
前の回の記事で、地名の粒度の話をした。
工房の名にも、同じ粒度の問題がある。

横に長い織物である。横は四メートルを超える。
中央に、円い屋根の建物が立つ。
柱が並び、その奥に人物が見える。
建物の下の段には、人が数人集まる。
いずれも古代風の衣をまとう。
左右には、太い柱が立ち上がる。
柱の上には、像が載る。
上部には、水平の帯が渡る。
帯の中央には、円い枠と文字らしい形がある。
色は褐色と緑と灰に沈む。
四百年のあいだに、染料が褪せたためだろう。
題には、右部分という語が添えられる。
もとは、もっと大きな一枚だったことになる。
出所の行が、九点とも違う
九点の出所の行を並べると、一つも重ならない。
基金による購入が三点。
個人からの寄贈が二点。
団体を通じた寄贈が一点。
財団からの寄贈が一点。
そして、資金の提供者を明記した購入が二点。
うち一点の行には、団体の名が入る。
館の中の会が資金を出した、という意味だ。
染織や工芸には、そういう会が関わることが多い。
絵画とは、支える人の顔ぶれが違っている。
前の回の記事で、出所の行の型を数えてきた。
部門が変われば、行の型も変わる。
受入の年が、百十六年に散る
九点の番号の頭を並べる。
1890年、1891年、1924年、1944年、1945年。
1954年、1956年、1986年、2007年。
最初と最後で百十七年ひらく。
十九世紀末の二点は、いずれも寄贈である。
二十世紀後半以降の三点は、購入が多い。
これは、これまでの記事で何度も見た形だ。
館が若いうちは寄贈で増え、後には買って埋める。
染織の部門でも、同じ流れが確かめられる。
もっとも、九点は染織のごく一部にすぎない。
館全体で数えれば、別の傾向も出るだろう。
「右部分」という題
いま見た一点の題には、括弧書きがある。
右部分、という語である。
つまり、この織物は全体ではない。
もとは横長の一枚で、その右側だけが残る。
大きなタペストリーは、部屋の大きさに合わせて切られることがある。
売るときに、扱いやすい大きさに分けることもある。
その結果、一枚が二枚、三枚になる。
館の記録は、それを題の括弧に書く。
書かなければ、これで完結した構図だと読まれてしまう。
前の回の記事で、多枚続きの版画の一枚を見た。
同じ書き方が、織物にも使われている。

作者の欄がいちばん長い一点である。
画面には、細い柱の並ぶ舞台のような空間がある。
柱のあいだには、緑の葉と花の綱が渡る。
中央の下に、灰色の象が横向きに立つ。
背には、天蓋のような布が載る。
その左右に、小さな人物が数人立つ。
いずれも異国風の衣をまとう。
上部には、青い布が幕のように垂れる。
背景は黄土色で、平らである。
太い縁が四辺を囲む。
縁には青地に花の連なりが織られる。
四隅には、円い飾りが置かれる。
連作の一枚であることが、題に書かれている。