作品を知る

題が用意する理由——デューラー・モディリアーニ・スーラほか九点の裸体

海岸の情景、水浴する人々
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《海岸の情景、水浴する人々》1884年から85年。館の記録では、板に油彩。13.3×21.9センチ。番号は1933.208。シカゴ美術館蔵。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《海岸の情景、水浴する人々》シカゴ美術館蔵

小さな板絵である。

縦13.3センチ、横21.9センチ。

手のひらに載る。

画面の上半分は、灰色がかった青の海である。

水平線が、まっすぐ横に通る。

左のほうに、白い帆が一つ浮かぶ。

下半分は、砂浜である。

そこに、人影が点々と並ぶ。

一人の高さは、数ミリしかない。

衣を着ているか、着ていないかは判別できない。

題には「水浴する人々」とある。

つまり、記録がそう呼んでいる。

だが、画像からは確かめられない。

第十九回で、遠くの人は輪郭の要点だけになると書いた。

ここでは、その要点すら小さすぎる。

館の題を疑っているのではない。

題の語と、画像から読めることが一致しない場合がある、ということである。

《アニエールの水浴》のための習作
ジョルジュ・スーラ《アニエールの水浴のための習作》1883年から84年ごろ。館の記録では、板に油彩。15.7×24.9センチ。額を含めて32×41×5センチ。番号は1958.51。クリーヴランド美術館蔵。ジョルジュ・スーラ《《アニエールの水浴》のための習作》クリーヴランド美術館蔵

こちらも小さな板である。

縦15.7センチ、横24.9センチ。

画面の中ほどに、川が横たわる。

対岸に、低い建物と煙突が並ぶ。

手前は、緑の土手である。

そこに、青い服を着た人物が座る。

帽子をかぶり、こちらへ背を向ける。

館の記録によれば、これは大きな絵のための習作である。

その大きな絵では、人々が川で休んでいるという。

そして館は、明るい色と、はっきりした輪郭の組み合わせに触れている。

題に水浴の語があるが、この習作に裸の人物は見あたらない。

写っているのは、服を着て座る一人だけである。

習作とは、そういうものである。

完成作の一部分を、先に試す。

このときに試されたのは、土手と川と対岸の並べ方だろう。

体の描き方は、別の紙で試したはずだ。

横たわる体

青いクッションの裸婦
アメデオ・モディリアーニ《青いクッションの裸婦》1917年。館の記録では、リネンに油彩。65.4×100.9センチ。額を含めて84.7×120センチ。番号は1963.10.46。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。アメデオ・モディリアーニ《青いクッションの裸婦》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

館の記録は、支持体を「リネン」と書いている。

九点のなかで、布の種類まで書かれているのはこの一点だけだ。

ほかの二点は「布」とだけある。

同じ布でも、織りの目の細かさが違う。

目が粗ければ、絵具が粒として乗る。

細かければ、平らに伸びる。

記録が織りの種類を書くかどうかは、館によって違う。

横長の画面である。

人物が、体を横たえている。

背景は、赤茶色の面と暗い面に分かれる。

体の下に、青い布が敷かれる。

顔は左を向き、目は細く描かれる。

髪は黒く、頭のまわりで広がる。

体の輪郭は、長い曲線でつながる。

腰から脚へ、線が途切れずに続く。

肌は、橙みのある色で塗られる。

影は、緑がかった色で置かれる。

前の回で、この作者の肖像を見た。

視線の話で扱った一点と、顔の作りが同じである。

首が長く、目の焦点が読めない。

同じ作者が、同じころに描いている。

この一点も、名前は記録されていない。

館の記録は、描かれた人が誰かを書かない。

題は「青いクッションの裸婦」である。

人ではなく、敷かれた布の色が題に入っている。

裸婦
アルフレッド・ヘンリー・マウラー《裸婦》1927年から28年ごろ。館の記録では、繊維板に油彩。見える範囲で36.8×25センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。アルフレッド・ヘンリー・マウラー《裸婦》スミソニアン協会蔵

縦長の小さな板である。

人物が正面を向いて立つ。

背景は、赤、青、黄の面に分かれる。

平らな色の帯が、縦に並ぶ。

体の輪郭は、太い線で囲まれる。

肩が狭く、腰が広い。

顔は小さく、目と口が簡略に置かれる。

手は胸の前に上がる。

館の記録は、寸法に「見える範囲で」と付けている。

額に隠れる部分があるからだ。

つまり、板そのものの大きさは分からない。

第十三回で、寸法の欄の書き方を並べた。

見える範囲だけを測る、という書き方も、そこにある。

立体で見せるための写真

無題(裸婦)
アレクシ・ルイ・シャルル・アルテュール・グアン《無題(裸婦)》1851年から52年。館の記録では、手で彩色した立体視用のダゲレオタイプ。画面6.5×5.5センチ。全体8.4×16.8センチ。番号は1999.8。クリーヴランド美術館蔵。アレクシ・ルイ・シャルル・アルテュール・グアン《無題(裸婦)》クリーヴランド美術館蔵

黒い枠の中に、同じ像が二つ並ぶ。

左と右で、ほんのわずかに角度が違う。

どちらにも、同じ人物が写る。

体をやや斜めに向け、布を持つ。

背景に、垂れ布がある。

像には、手で色が塗られている。

肌が薄い赤みを帯び、布に色が付く。

館の記録によれば、これは立体視のための写真である。

二つの像を、専用の器具で同時に見る。

すると、奥行きがあるように見える。

そして館は、この作者が商業の肖像写真を専門にしたと書く。

手で彩色した立体視用の写真を得意にしたという。

これは館の記述である。

つまり、この一点は売るために作られた品である。

前の八点とは、成り立ちが違う。

彫刻も、絵も、素描も、注文か制作者の意思で作られた。

こちらは、商品として作られている。

そして、題がない。

「無題」と記録されている。

九点のうち、題がないのはこの一点だけである。

売る側にとって、題は必要なかったのだろう。

館は、それを括弧付きで補っている。