作品を知る

菊は、どこまで数えるかで描き方が変わる——沈周・カイユボット・モンドリアンほか九点

菊と桐が、文様として並ぶ

四点目は、下絵である。

菊桐(百々世草より)
神坂雪佳《菊桐(百々世草より)》1909年。館の記録では、紙に墨と彩色。番号は1989.85.17。クリーヴランド美術館蔵。神坂雪佳《菊桐(百々世草より)》クリーヴランド美術館蔵

薄い紙に、輪郭のゆるい形が並ぶ。

画面の下のほうに、丸い花がいくつかある。

花びらは短く、放射状に付く。

色は白と淡い黄である。

その上に、大きな葉が広がる。

葉は三つに分かれ、先が尖る。

桐の葉である。

菊の花と桐の葉が、上下に重なって置かれている。

輪郭線は途切れがちで、色は塗り残しが多い。

館の記録では、これは版画になる前の下絵である。

薄い紙に墨と彩色で描いたという。

そして、この自由な描き方は完成した版画よりずっとゆるい。

館の記録は、その差をはっきり書いている。

同じ連作の別の下絵は、鶏の回で見た。

そちらでは、竹の柵の向こうに鶏がいた。

こちらでは、二つの植物が文様として組み合わされている。

菊と桐の組み合わせは、日本で古くから用いられてきた。

つまりこの下絵は、花の写生ではない。

決まった組み合わせを、図案として描き直している。

図案には、写生とは別の要求がある。

繰り返しても崩れないこと。

染めや織りに移しても分かること。

だから花びらの数は減らされ、葉の形は整えられる。

この下絵でも、菊の花びらは短く、数が少ない。

実際の菊より、ずっと単純である。

単純にすることが、図案を作ることである。

館の記録は、そこまでは書いていない。

籠の中に、菊と茸が入る

五点目では、菊は品物になる。

扇と菊と茸を入れた籠
葛飾北斎《扇と菊と茸を入れた籠》1800年代初め。館の記録では、多色木版。紙は19.1×52.8センチ。番号は1949.153。クリーヴランド美術館蔵。葛飾北斎《扇と菊と茸を入れた籠》クリーヴランド美術館蔵

横に極端に長い画面である。

19.1×52.8センチある。

中央に、浅い籠が置かれている。

籠は細い竹を編んで作られている。

その中に、いくつかのものが入っている。

まず、閉じた扇がある。

骨が並び、端に房が付く。

その隣に、菊の花がある。

花は白く、茎ごと切られている。

葉も何枚か付いている。

そして反対側に、茸がいくつか転がる。

傘は褐色で、軸が太い。

背景には何も描かれていない。

館の記録では、これは私的に注文された刷り物である。

特別な出来事を知らせたり、記念したりするために使われる。

そして館は、こう続ける。

菊は秋の第一のしるしであるから、この刷り物は季節の移り変わりを祝うために作られたのかもしれない。

館の記録は、そう推測している。

つまりここでの菊は、切られ、籠に入れられた状態である。

九点のうち、菊が切り花になっているのは、この一点だけである。

そして籠に入っているものの取り合わせも見ておきたい。

扇と、菊と、茸である。

扇は夏の道具、菊と茸は秋のものである。

つまり季節の変わり目が、一つの籠に入っている。

館の記録が季節の移り変わりを祝う刷り物かもしれないと書くのは、その取り合わせによる。

そして横に長い判型も、籠を横向きに見せるのに合っている。

19.1×52.8センチは、扇を開いた形にも近い。

庭の菊は、こちらへ迫る

六点目と七点目は、西洋の油彩である。

プティ・ジュヌヴィリエの庭の菊
ギュスターヴ・カイユボット《プティ・ジュヌヴィリエの庭の菊》1893年。館の記録では、油彩・カンヴァス。画面は99.4×61.6センチ。番号は2014.736。メトロポリタン美術館蔵。ギュスターヴ・カイユボット《プティ・ジュヌヴィリエの庭の菊》メトロポリタン美術館蔵

縦長の画面である。

画面のほとんどが、花で埋まっている。

花は白、黄、赤紫が混じる。

一つずつの花は、丸い塊として描かれている。

花びらの一枚ずつは分けられていない。

絵の具が厚く置かれ、盛り上がっている。

葉は濃い緑で、花のあいだにのぞく。

上のほうには、細い茎と、背後の暗い緑がある。

地面も、空も、垣も描かれていない。

つまり、この画面には遠近がほとんどない。

花の面が、画面の手前まで迫ってくる。

館の札は「花」と「パリ」の二つである。

題には、庭のある土地の名が入っている。

作者が住み、庭を作った場所である。

九点のうち、菊がこれほど密に群れているのは、この一点である。

そして視点が低い。

花の高さから見ているので、地面が見えない。

庭を描くとき、ふつうは道や垣が入る。

この画面には、そうした手がかりが一つもない。

つまり見る人は、花の中に立たされている。

絵の具の厚みも、その近さを強めている。

近づけば、絵の具の峰が影を作る。

花の凹凸と、絵の具の凹凸が重なる。

菊
ピート・モンドリアン《菊》1906年から42年。館の記録では、油彩・カンヴァス。額なしで41.5×38.5センチ。番号は1958.38。クリーヴランド美術館蔵。ピート・モンドリアン《》クリーヴランド美術館蔵

正方形に近い小さな画面である。

背景は灰色がかった緑で、平らに塗られている。

その中央に、花が一輪だけある。

正面から見た形である。

花びらは細長く、中心から外へ広がる。

一枚ずつが独立して描かれている。

色は白と淡い黄で、影の側は灰色になる。

茎は下へまっすぐ伸びる。

葉は一枚だけ、左に付く。

館の記録では、作者は菊の複雑な構造に魅かれていた。

生涯を通じて、この繊細な花を描いたという。

そして館は、注意を引く一行を添えている。

この正面向きの一輪は、日本の版画の様式化された菊を思わせる。

作者は、花を描いたあとしばらくして、下の縁に頭文字と年を書き加えた。

同じ主題にくり返し戻ったので、この絵は1942年ほどに作られたのかもしれない。

その年、作者はこれを展示したという。

館の記録は、そう書いている。

つまり制作の年は、1906年とも1942年とも決めきれない。

九点のうち、制作の年の幅がもっとも広いのは、この一点である。

背景の塗り方も見ておきたい。

灰色がかった緑が、平らに広げられている。

筆の跡はほとんど残っていない。

一方、花びらには筆の跡がはっきり残る。

平らな地と、動きのある花。

その差が、一輪を浮き上がらせている。

そして花は、画面の中央よりわずかに上にある。

下に空いた部分が、茎の伸びる余地になっている。